14日の熊本戦でJリーグ通算100得点を記録した闘莉王。36歳となった今も“FW”として健在だ。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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[J2リーグ37節]京都 2-1 熊本/10月14日/西京極
 
“これぞ闘莉王!”というゴールだった。
 
 1-1のスコアで迎えた71分、田中マルクス闘莉王は右CKをヘッドで豪快に叩き込んで、Jリーグ通算100得点を達成した。本人は「J1だけで100ゴールだったらカッコいいけどね」と謙遜したが、Jリーグ史上、DF登録の選手としては初となる偉業だ。この試合の前半にはフリーキックから自身のオウンゴールにより先制点を献上しているが、それを自らの得点で取り返してみせた。ゴールの直後にはチームメイトで第6子が生まれたばかりの土屋征夫を祝福するゆりかごダンスを披露するなど、その存在感が遺憾なく発揮された試合となった。
 
 試合後、闘莉王は開口一番に「ナイスオウンゴールだったね!(笑)」とおどけてみせた。京都はここ2試合、無失点が続いていただけに悔しい失点だったに違いない。チーム事情により現在はFWで起用されているが「気持ちは今でもDFだから」と、守備への想いは変わらない。それは彼がいつも口にしている「いかに後ろの選手を楽にさせられるか」という言葉からも窺える。
 
 今年で36歳。運動量の低下は避けられず、若い選手のように前線から連続してプレスをかけることは難しいが、危ないと感じた場面では中盤までポジションを下げて対応する危機察知能力で最終ラインをサポートし、セカンドボールの回収なども周囲と相談しながら改善を図っている。かつてはセンターバックの位置から中盤や前線の選手へ要求していた守備のタスクを、現在は自らが実践しているのだ。
 
 一方で、FWとして攻撃面での活躍が期待されることも理解している。チームを率いる布部陽功監督は闘莉王やケヴィン・オリスといった長身FWを生かすスタイルを採用しており、この日も正確なポストプレーで攻撃の起点となっている。そして得点力。打点の高いヘッド、巧みなポジショニング、どんな状況でも慌てないメンタリティは、いまだトップクラスだ。
 この日の得点も空中戦の強さから生まれているが、闘莉王はセットプレーのキッカーである石櫃洋祐を賞賛する。
「ビツ(石櫃)のボールはJ1の選手を含めた中でも抜群ですよ。俺から言わせればアレックス(三都主アレサンドロ)の左足と、石櫃の右足。そういう比較ができるくらいのキックの精度・種類・スピードや緩急がある。ビツには、ずいぶん助けられているよ」
 闘莉王は、この日1ゴール・1アシストを記録した右サイドバックをこう高く評価した。
 
 そして石櫃も「ちゃんと蹴れば決めてくれる。ボールが相手に引っかからないように、そして中のトゥーさん(闘莉王)の動きを見て、タイミングが合えば1点だと思っていた」と信頼感を寄せている。
 
 そんな二人のプレーがピンポイントで噛み合ったのが、この日のゴールだ。闘莉王のマークに付いていた188センチの長身DF、植田龍仁朗も「あんな上からヘディングで決められたのは人生で初めてですよ」と舌を巻くしかなかった。
 
 試合は2-1で京都が勝ち、遅まきながら今季初の3連勝を達成。89分に交代した闘莉王には、観客から大きな拍手が送られた。ホームスタジアムでの100ゴール達成となったが、じつは西京極では過去にも同じ光景が見られている。2000年にはディナモ・ザグレブ(クロアチア)から帰国したキング・カズこと三浦知良が、現在京都の強化部長を務める野口裕司のアシストにより通算100ゴールを達成。2010年には鹿島から加入して3シーズン目となる柳沢敦が同じく通算100ゴールを達成している。古都で記録されていくレジェンドたちの偉業。過去のふたりがそうであったように、この日のゴールも未来へと語り継がれていくことだろう。
 
取材・文:雨堤俊祐(フリーライター)