利用方法のイメージ。JR東海プレスリリースより抜粋

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9月30日、東海道・山陽新幹線で新しいチケットレスサービスが始まった。年会費は無料で、何度でも時間や座席の変更が可能。しかも料金は駅の窓口より200円安い。1日40万人以上が利用する東海道新幹線で「200円」の影響は小さくない。なぜ割り引いたのか。その背景には「サービス拡大」だけでなく、「乗り換え分を負担する」という乗車券の仕組みが関係していた――。

■年会費無料で「チケットレス乗車」が可能に

9月30日、東海道・山陽新幹線で新しいチケットレスサービス「スマートEX」が始まった。手持ちのクレジットカードとSuica(スイカ)などの交通系ICカードを登録すれば、自動改札機にICカードをかざすだけで指定座席に乗車できるサービスだ。

座席は事前にスマートフォンなどで予約し、支払いは登録したクレジットカードで行う。乗車券や特急券を発行する必要がないため、窓口には並ばずに済む。在来線との乗り換えも、同じICカードを自動改札機にかざすだけだ。利用できるICカードは、スイカのほか、JR東海のTOICA(トイカ)、JR西日本のICOCA(イコカ)、首都圏の私鉄や地下鉄で使えるPASMO(パスモ)などの10種類。サービスの利用に年会費はかからない。

これまで東海道・山陽新幹線(東京―博多間)には「エクスプレス予約」と「プラスEX」というサービスがあったが、いずれも年会費と専用のICカードが必要だった。ICカードの発行まで2〜3週間かかるため、旅程が決まってから入会しても間に合わないことがあった。また「エクスプレス予約」は、JR東海かJR西日本のクレジットカードに入会しなければならず、審査などの時間もかかった。

■予約から乗り換えまでiPhone1台で完結する

「スマートEX」は、券面にVISA、Mastercard、JCB、アメリカン・エキスプレス、ダイナースの国際ブランドが書かれていれば、どんなクレジットカードでも登録できる。これまでのサービスに比べて、対応ブランドが大きく広がり、手持ちのカードで簡単に利用できるようになった。

交通系ICカードの登録は専用サイトから行う。その際、カードに振られている17桁の番号を入力する。この番号は「モバイルSuica」などカードレスの場合にも振られており、iPhoneの「Apple Pay」でも同じだ。つまり、座席の予約から新幹線改札への入場、在来線の乗り換えまで、iPhone1台で完結できるようになった。

画期的なサービスだが、もうひとつのポイントは「駅で切符を買うより200円安い」ということだ。

■西荻窪だと「188円」高くなってしまう

東京―新大阪間の所定運賃・料金(通常期)は1万4450円だが、スマートEXを利用すると1万4250円となる。割引額は年会費が必要な「エクスプレス予約」に比べて小さいが、ここまで便利になるのだから、わざわざ運賃を割り引く必要はない気がする。なぜあえて安くしたのか。

JR東海・東京広報室に聞くと、次のような回答があった。

「これまで駅窓口に並んで新幹線のきっぷを購入していただいていたお客さまなど、多くの方に便利なネット予約で新幹線をご利用いただきたいため、少しおトクとしております。ただし、新幹線専用商品であることから、『東京都区内』『大阪市内』といった所定の乗車券に適用される、いわゆる『特定都区市内制度』は適用されません。そのため、在来線と新幹線を乗り継ぐ場合、乗車区間によっては、駅窓口等で発売している所定のきっぷに比べて、『スマートEX』と在来線の運賃等の合計額の方が高額になる場合もございます」

どういうことか。駅の窓口で乗車券特急券を買うと、小さく「都区内」と書かれていることがある。この場合、東京23区内の駅であればどこで降りても運賃は変わらない。たとえば東京駅で新幹線から降りた場合、隣の神田駅で改札を出ても、西端となる西荻窪駅で改札を出ても、運賃は同じなのだ。

しかし「スマートEX」のような新幹線専用商品の場合、在来線に乗り換えると運賃が別途かかる。東京から西荻窪まで乗車した場合、IC乗車券では388円だ。この場合、「200円安くなる」といっても、駅窓口で買うより188円高くなることになる。

東海道新幹線には1日40万人以上が乗車している。「200円」といっても、そのインパクトは小さくない。JR東海・西日本とすれば、駅の窓口から「スマートEX」に切り替わるたびに、200円の持ち出しが発生することになる。

ひとつの狙いは「窓口の混雑緩和」だ。「券売機の数などを減らす予定はない」(JR東海)と説明しているが、スマートフォンを使ってチケットレス乗車をする人が増えれば、多くの券売機は不要になるだろう。

■何度でも無料で、時間や座席を変更できる

特にiPhoneなどで「モバイルSuica」を利用している場合、券売機にカードを入れられないため、これまでは出場処理のためだけに窓口で手続きが必要だった。スマートフォンの利用者が増え続けているなかで、「窓口を使わずに済む」というのは、JRと利用者の双方にとってメリットが大きいはずだ。

また、新幹線の指定席特急券は、JR各社の取り決めで、時間変更は1回しかできなかった。2回目以降の時間変更では払い戻しが必要で、手数料がかかる。だが「スマートEX」は、改札を通過する前であれば、何度でも時間や座席を変更できる。はやく駅に着けば、1本早めることができるし、みやげ物を買いたいのであれば、何本か遅くすればいい。すでに「エクスプレス予約」では提供していたサービスだが、経験上、これは非常に利便性が高い。

もうひとつは「インバウンドへの対応」だ。現状、新幹線の予約は「駅の窓口」が基本になっているため、訪日観光客にはハードルが高い。JR東海では、年内をめどに海外向けの英語版アプリをリリース予定という。アプリを利用すれば、新幹線の座席予約を海外で済ませ、チケットレスで乗車できることになり、利便性は大きく向上する。もちろん窓口の負担も減るだろう。

JR東海・西日本が満を持してリリースした新しいチケットレスサービス。狙い通りに普及するかどうか。その成否に注目が集まっている。

(プレジデントオンライン編集部)