東京ガールズコレクションの「ビジネスモデル」を理解するには、「アクセラレーター」という概念が役に立つ(写真:©TOKYO GIRLS COLLECTION 2017 S/S)

2017年9月2日(土)に、マイナビpresents第25回東京ガールズコレクション2017A/Wがさいたまスーパーアリーナで開催される。毎回、来場者数が3万人を超え、今回もすでにチケットが完売するほどの人気で、さまざまなメディアが注目する大イベントだ。しかも、このビッグビジネスを仕掛けているのが、社員32人のW TOKYOというのだから、ファッション業界でなくても、その成功の秘密を知りたくなるのではないか。

「#TGC」でのツイートは1億インプレッション以上

いま、ファッション界で注目が高まっている新しい販売手法が、“See Now, Buy Now(いま見て、いま買う)”である。ファッションショーなどで発表された最新のアイテムが、すぐに店頭やウェブで購入できる施策形態をいう。

2016年秋のロンドンコレクションでバーバリーが取り入れ成功したことがきっかけとなり、現在はラグジュアリーブランドから中小規模のブランドまでが、ネットを通じて即座に広がっていくトレンドの波を逃さぬよう、リアルタイムでのショーのネット配信と販売を組み合わせた施策を取り入れている。

東京ガールズコレクション(TGC)では、世界に先駆け10年以上も前から、この“See Now, Buy Now”を具現している。

TGCは、「日本のガールズカルチャーを世界へ」をテーマに、2005年から春と秋の年2回開催している、ガールズマーケットに特化した史上最大級のファッションフェスタである。ショーモデルは、各ジャンルのファッション雑誌のトップモデルを起用。雑誌社や芸能事務所に偏ることなく、TGCでしか見られない、人気モデルたちとトップアーティストの総合エンターテインメントショーを演出することで、F1層(20歳から34歳までの女性)から圧倒的支持を受け、イベント認知度94%を誇る。

第1回を開催した12年前から“See Now, Buy Now”をはじめ、ショーのLIVE配信、AIによるファッションコーディネートなどを提案。つねに最先端のテクノロジーを実践レベルで取り入れていくことで、単なるイベントで終わらせず、協賛企業には、商品・サービスなどのコンテンツ開発や、ブランディングの“ラボラトリー”としての意味づけをすることで、一過性の流行ではないムーブメントを起こすことに成功している。

その影響度ではほかのファッションショーを寄せ付けず、回を追うごとに高まる発信力は、TGCとソーシャルメディア(SNS)との相性のよさが相乗している。会場来場者数延べ約3万人、LINEでの生中継視聴者数140万人以上、さらにTGC当日の「#TGC」でのツイートは1億インプレッション以上……。広告換算額は50億円超に上る。

スマホは「その場で購入」するためのツールから、「その場の体験を発信」するためのツールへと変化し、ショーという現場に臨場しているリアルな気持ちを世界中に拡散していく。

協賛企業の出展ブースの商品を手に取って、お気に入りのポーズでInstagramにアップするなど、プロのリポーターさながらである。彼女たちは、「インフルエンサー」と価値づけされ、TGCというショーにおカネを出して参加し、かつ、ショーに出品されている服をその場で購入し、そして、その体験をPRしてくれている。

TGCのプラットフォームで商品開発

SNSの台頭によりTGCは、いまや100万人以上に同時に共有されるイベントメディアになり、出演者や参加者、視聴者とその空間を共有し、一人ひとりから発信され拡散される存在へと変革を遂げた。

ブランドビジネスにおけるデジタル・イノベーションの先駆者として、最旬トレンド・マーケットを熟知し、開発から流通、リアルからメディアまでを網羅したTGCは、エコシステム(複数の企業や登場人物、モノ、コトが有機的に結びつき、循環しながら広く共存共栄していく仕組み)の中心にいるプラットフォーマーとしてとらえることができる。

TGCのプラットフォーマーとしての役割は、多岐にわたる。共通するのは「10代から20代の女性がターゲット」ということになるが、特定の業界やカテゴリーに特化したプラットフォームではない。

たとえば、「10代から20代の女性」をターゲットにしたペットボトル飲料を開発したいという要望があれば、ブランドモデル、スタイリスト、カメラマン、TGCのイベントに参加するインフルエンサーからリサーチを行い、パッケージからテイストまで共同で開発を進め、TGCをその「お披露目の場」として、コンテンツを制作していく。

また、この過程はSNSを使って拡散されることで、TGCのステージといったリアルな現場から、WebニュースやTVといったメディアまで網羅されたプロモーション活動に拡大することができ、加速化した効果を生み出す。

まさに、店舗やイベント、ネットやモバイルなどのチャネルを問わず、あらゆる場所で顧客と接点を持とうとするマーケティング手法、つまりは、オムニチャネル戦略に成功している。

筆者は、こういったすべてのチャネルを連携させて顧客にアプローチし「加速化するチェーン効果」を創出するビジネスモデルを「アクセラレートモデル」と称している。まさにアクセラレート(加速化)するバリューチェーン(価値連鎖)であり、TGCのプラットフォーマーとしての主幹概念となっている。

世界の金融エリートが注目するアクセラレーター

アクセラレーションとは、いま世間の耳目を集めるオープンイノベーション(open innovation)の一形態である。

インキュベーターは、主に起業前のまだアイデアベースのステージや、ベンチャー企業のスタートアップを支援するための仕組みを提供する支援者であるのに対し、アクセラレーターは、ベンチャー企業に限らず、既存事業の急成長を加速化する支援者である。

日本では、ここ数年で、NTTドコモ、KDDI、JR東日本、トヨタ、野村證券、三菱UFJフィナンシャル・グループ、セイノーホールディングス、ヤマハ、東京ガス、東京メトロ、オムロン、学研などが続々と、アクセラレーターのポジションにチャレンジしている。

米国でも、2016年くらいから大企業によるアクセラレーターの動きが華々しく見受けられる。ディズニー、マイクロソフト、スプリント、ナイキ、カプランなど多業種、多業態の多国籍企業群がアクセラレーターとしてスタートアップしてきている。

たとえば、ディズニーがスタートしたアクセラレーターである「Disney Accelerator」は、ディズニー保有のキャラクター、コンテンツ類を、プラットフォームを形成する参加企業に対してフリーで活用できるようにしたことで、求心力を持ったようだ。その参加企業の発表会(デモデー)では、スタートアップの時期に望ましいパートナーシップが、種々のキャラクター、コンテンツと提携できたことで、立派に具現できた。

このような潮流を、シティーやウォールストリートなど、世界の金融街のエースたちが見逃すわけがない。クライアント企業に対して、集中的にプッシュ型で企業価値を上げるためのサポートをしていくという点で、彼らのネットワーク力を生かせる対象なのである。彼らが、クライアント企業を先導、ナビゲートして、アクセラレーターのポジションの普及やプロデュースを仕掛ける時代になってきている。

ただ、そういったプロデューサーがいるだけでは不十分で、往々にして、アクセラレーターは、その推進リーダーが不在であると、会社やプロジェクト全体でその意味、価値、重要性が理解されず、組織としてうまく機能しないことが多い。

やはり、社長、CEO、マネジメントが率先してアクセラレーターにコミットし、積極的にスタートアップの多様なイノベーションを取り込んだプラットフォームを作り出そうとする姿勢、意図を見せないと、組織として成功裡には導けまい。

その点で、W TOKYOの村上範義社長のキャプテンシー、企画力、運用対応力、人間性はすばらしく、TGCモデルの現在の隆盛も納得できるものがある。

ケースで見るTGCの新たなステージ

また、TGCがアクセラレーターとして加速させているのは、商品やサービス開発などの分野にとどまらない。地方創成、日本企業の海外進出支援、国際貢献など多岐にわたる。実際のケースを紹介しよう。

ケース1:TGC KITAKYUSYU(北九州)

「TGC KITAKYUSYU(北九州)」は、2017年10月21日(土)の開催で3回目を迎えるが、プラットフォームを最大限に活用し、TGC地方創生プロジェクトとして、最も成果を上げているモデルケースとなっている。

北九州市は大きな観光地がなく、近年は人口減少が続いているため、市政として「過去の暗いイメージを払拭し、魅力ある街づくり」が大きなテーマとなっていた。

観光スポット、伝統工芸、といったカルチャーから、北九州人の気質までを徹底的にリサーチを行う中で生まれたアイデアと、TGCで蓄積されたノウハウを組み合わせた「TGC北九州」ならではのコンテンツは、地元の大学生によるショー演出、異業種企業のコラボレーションによるスイーツ開発など、幅広い。

地元企業とのコラボレーションは、地域メディアに取り上げられやすいため、TGC開催時にはイベントの認知度は高まっている。当日、会場はもちろん、街全体がお祭りムードでにぎわい、その熱狂はステージやブース内で販売する商品の売り上げに直結した。

今年1月、北九州市産業経済局MICE推進課から発表された経済効果(2016年)は、約17億1000万円に上った。

ケース2:ジャカルタでTGC開催

今年1月、TGCが新たにインドネシア・ジャカルタでのイベント開催にチャレンジした。インドネシアは、2億5000万人と世界第4位の人口を誇り、平均年齢29.9歳の若年層が中心の人口構成で、消費市場として今後一層の拡大が期待されている。とりわけ若年層マーケットの成長著しいジャカルタを一つの戦略エリアとし、日本を代表するリアルクローズブランドの進出を支援した。

まず、日本の総務省が放送コンテンツ海外展開総合支援事業の一環として、フジテレビなどと共同制作した番組をインドネシアで放映し、日本のリアルクローズ、アクセサリー、化粧品、メークなどを紹介。またインドネシア人モデルが来日し、TGC出演を目指すドキュメンタリー番組を放送し、日本のガールズカルチャー発信の下地を構築した。

一方で、イベントは完全招待制で開催され、現地のメディア、ファッション業界や財界のVIP、インフルエンサーなどとの交流の場として提供することで、日本企業と現地企業のマッチングを色濃く演出した。

ケース3:国連本部でファッションショーを開催

TGCが第20回を迎えた2015年2月、国連が推進する女性のエンパワーメントと女性が輝く社会に向けて、男女が共に歩むことを目指した「One Woman Campaign」の目的と意義に共感し、国連の友(本部:米国ニューヨーク)のアジア太平洋地域(51カ国)を統括する国連の友Asia-Pacificとの提携を発表。

TGCの中で、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」の啓発活動と、TGCの圧倒的認知度と拡散力が高く評価され、2018年5月に国連本部(アメリカ・ニューヨーク)にてTGCのファッションセレモニーを開催することが決まっている。

ショービジネスを超えた次代の価値連鎖

いまやTGCは単なるファッションショーというモデルを超え、最先端のファッションとテクノロジー、アート、カルチャーを発信・拡散していくプラットフォームとして進化している。

その熱気と発信力に引き付けられるのは、若い女性だけではなく、大手企業や地方自治体も、さらに来年2018年5月にTGCのショーの実施が決まっているニューヨークでの国連本部なども同様である。

TGCが体現しているアクセラレートチェーンは、企業同士だけの連携形態ではなく、顧客(観客/コンシューマ)をも巻き込んだバリューチェーンであり、ショーというビジネスモデルが持つ主体と客体の関係性に関して、その位置づけを変えてしまったのである。

特に、参加者全員がインフルエンサーとして加速化の中心となっている点で、出色である。TGCの運営主体であるW TOKYOは、インフルエンサー(コンシューマ・クライアント・事業者・自治体)に対して、TGCというプラットフォームを提供し、それぞれがマーケットから求められる良質なコンテンツをプロデュースし発信・拡散できる機会にしてもらおうとしている。

今後も、AI、IoT、ロボティクス、ドローンなどの21世紀の最先端テクノロジーを駆使して、このアクセラレートチェーンが産み出す、その効果、プロフィット、インパクトを加速化させることをビジネスの価値と置く企業として、さらなるチャレンジを続けるであろう。