高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬)「選手、スタッフのコンビネーションで生まれたホームスチール」【Vol.3】

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■健大高崎(群馬)「対応は柔軟、プレッシャーは一貫」【Vol.1】■健大高崎(群馬)「機動破壊は打つチームほど完成に近づく」【Vol.2】

 機動破壊をスローガンに掲げ、全国にその名を轟かせる健大高崎。前回は走塁と打撃の関係性についてお話をいたしました。第3回では甲子園のファンを驚かせたセンバツ2回戦・福井工大福井戦で魅せたホームスチールの真相に迫ります。

盗塁を仕掛けるべきか、プレッシャーをかけるべきかを選手自らで判断する

小野寺大輝(健大高崎)

「前の2打席で自分が盗塁していたので、この場面では盗塁をすることより先にプレッシャーをかけることを重視しました。万が一アウトになる盗塁をしかけるリスクより優先すべきことだと思ったので。いくぞ、いくぞという雰囲気をとにかく見せる。それは普段から練習していることなので」

 毅コーチも小野寺選手の狙いを十分理解していた。「一塁上で盗塁したくてしょうがない、という雰囲気を出して複数の牽制球をもらいました。いい味を出していましたね。彼はその前の打席でも牽制をもらいつつ盗塁を決めていた。ピッチャーは相当のプレッシャーを感じていたと思います。だからせめてクイックを速くしようとして、結果デッドボールになってしまった」

 ちなみに、美峰コーチによると、このデッドボールも全くの偶然ではないという。「高校野球のピッチャーは必ずといっていいほどデッドボールを嫌がります。なぜなら流れが大きく変わるからです。そして、打席にはピッチャーのタイプによってデッドボールを受けやすい立ち位置というのがあるんです」

 小野寺選手は相手エラーで出塁した。安里選手はデッドボールで続いた。だが、この2つの結果には偶然ではない、必然といえる布石がきちんと打たれていたのだ。

 そして続く山下 航汰選手は4番ながら送りバント。一死二、三塁とし、一打逆転サヨナラの場面を作る。あらゆる角度からじりじりとプレッシャーをかけ、精神的に追い込んでいく様がわかる。

 だが、続く5番の渡口 大成選手が一塁ファールフライに打ち取られ、二死二、三塁に。逆に追い込まれることとなった健大高崎は、ここで代打に安藤 諭選手を起用する。初球はボール。そして、2球目にベンチが決断した。

相手が嫌がることを徹底したからこそ生まれたホームスチール

安里樹羅(健大高崎)

 この場面でダブルスチールのサイン。 二塁ランナーだった安里選手が大きくリードを取り、牽制を誘う。だがピッチャーは気付かず投球し、空振り。「ショートは気付いてセカンドベースに入っていた。あのボールを三遊間に打っても抜けていたと思うのですが、結果は空振り。そこでおそらくショートからピッチャーに声がかかったんだと思います」(毅コーチ)

 続く3球目。同様に安里選手がリードを大きく取り牽制を誘う。「あの土壇場の場面でダブルスチールのサインが出るとは思ってなかったですけど、ずっと練習はしていたので。2球目で僕の動きに気付いたショートがピッチャーに声をかけていました。それで3球目はもっと分かりやすく大きくリードを取りました。僕の役割はセカンドへ確実に牽制をさせること。ワザとらしすぎない、でも大きすぎるリードで、ただ慌てて戻ると偽投になるかもしれないので、戻ろうとするタイミングも計りつつ。セカンドへの牽制はセカンドベース上に投げないとボークになるので、自分がすぐアウトにならない距離感と、ワザとらしさが出ない雰囲気づくりを意識していました」

 毅コーチをして「助演男優賞でしたね」と言わしめた安里選手の“誘い”。サードコーチャーの指示をうかがうふりをして、あえて無防備にリードを広げる。気付いたピッチャーはすぐさまセカンドへ牽制。その瞬間、サードランナーの小野寺選手がホームへ突っ込んだ。

盗塁だけではない機動力の活かし方左から安里樹羅、小野寺大輝(健大高崎)

「サインが出た時は監督さんの決意が伝わってきました。サードランナーの自分としてはピッチャーが牽制に動いたら即ゴー。ショートがピッチャーに声をかけていたので、3球目は必ず牽制するな、と。自分は(ぬかるんでいたため付着した)スパイクの土を落として備えていました」

 セカンド牽制から慌ててホームに送球されるがセーフ。健大高崎は、土壇場の1点をノーヒットで、だが意図的に奪ってみせた。回が始まってから点を取るまでの一連の流れは、全て健大高崎のコントロール下にあったことが、本人たちの話から分かるだろう。

 小野寺選手は言う。「自分が盗塁する前にピッチャーが牽制を含めてボールを多投してくれれば、無理して走るよりバッターに任せればいい。逆に自分がランナーの時にバッターに対してストライクが先行するような場面になったら走って揺さぶる。そのような心掛けでいます」

 安里選手は言う。「相手の心理を中心に、嫌がることを全て頭に叩き込んだうえで練習しています。マウンドよりベースに近い位置から速い牽制球を投げてもらって帰塁する練習を積みつつ、しっかりしたスタートを切る練習もする。かつ癖を見抜き、ベンチで共有する習慣を身につける。その姿勢が決して走らなくてもプレッシャーをかけられることに繋がっていると思います」

 盗塁だけではない機動力の活かし方。ヒットだけではないバッティングの活かし方。派手ではないし効果も見えづらいが、普段から意識、準備しておくことで、勝負どころで大きなプレッシャーを与えられることを、全員がよく分かっている。

第四回へ続く

(取材・文=伊藤 亮)

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