勝つことを念頭に準備するのは当たり前。そのうえで、短期間での同じ相手との連戦は様々な駆け引きが面白い。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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 仙台の渡邉晋監督による現役指揮官コラム「日晋月歩」の第8回。テーマは「連戦」だ。4月26日と30日、中3日で清水との連戦をこなした仙台。そんな「なかなかない体験」(渡邉監督)に仕掛けた策とは? 攻守に得た手応えとともに語ってもらった。
 
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[J1リーグ9節]清水 0-3 仙台/4月30日(日)/アイスタ
 
 26日のルヴァンカップ3節と30日のリーグ戦9節、たった5日間で清水と2回も戦った(前者は3-1、後者は3-0でともに勝利)。実はなかなかない体験で、「単純に楽しみたいな」と思った。
 
 もちろん勝負事だから「勝つこと」を念頭に準備をする。それでもメンバー構成や戦い方、相手の出方、その対処法など、短期間に同じ相手と試合をこなすことによる駆け引きはやはり面白い。
 
 前回は2011年だったように記憶している。東日本大震災によってリーグ戦が延期となる試合が続出し、ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)も予選リーグを行なう当初のレギュレーションから、全試合をトーナメント方式とするものに変更された。
 
 カップ戦の1回戦の相手は柏だったのだが、その時に今回と同じことが起こった。7月27日にナビスコカップ1回戦・第2戦で戦い(2-1。2戦合計3-1で仙台が2回戦へ進んだ)、31日にリーグ戦19節で勝敗を争った(0-0で勝点を分け合う結果に)。
 
 さらに遡れば、08年に磐田と競ったJ1・J2入れ替え戦ではないだろうか(第1戦が1-1、第2戦が1-2の通算1分1敗で仙台は6シーズンぶりのJ1復帰とはならなかった)。このクラブにとっては、それほどまでに珍しいことだ。
 
 この2連戦が「相手を研究しやすい戦いだったか」と言えば、「それはお互い様」と言える。「相手がこうくるだろうから、こうやって対策をしよう」という考えに、清水で指揮官を務める(小林)伸二さんも至っていたはず。
 
 特に2試合目となった30日のリーグ戦では、それを随所に感じた。だからこそ、1戦目に用いた策や2戦目の前半に餌を撒いたことが、最後の45分間に効果を発揮したのだとも言える。
 ルヴァンカップでは、チームとしての戦い方という点で少し手の内を隠させてもらった部分がある。しかし、30日のリーグ戦では清水のほうが26日よりも変えてきた部分がたくさんあった気がする。
 
 そのおかげで前半は上手く試合を進められなかった。だが、「ここをこう修正すればいい」という明確な答が自分の中にあったので、特に焦りはなかった。
 
 もう少し具体的な話をする。攻撃面で言えば、前半は相手SBの背後を徹底的に突いた。トレーニングでもやっていたし、清水のカウンターをまともに受けないためにも効果的だろうと考えていた。
 
 すると、相手の最終ラインがスペースのケアを気にしたことで、前半途中からシャドーが空くようになった。しかし、すぐには使わなかった。早いうちに変化を付けてしまうと、後半の勝負所で相手が慣れてしまっていたり、ハーフタイムに修正を施されてしまう。執拗に裏、裏、裏。前半はその戦法に終始した。
 
 ハーフタイムのロッカールームでは「シャドーが空くからボールをどんどん入れろ」と指示を出した。すると後半開始してすぐに平岡(康裕)から石原(直樹)にキレイにパスをつけられた。あのシーンが3得点を奪ったことの始まりだったように思う。
 
 結果的に、ゴールは3つともシャドーの位置にボールを入れるのとは違う形で生まれた。ただ、シャドーを使うことで相手には迷いが生じ、ズレと判断の遅延を招いたと感じている。大きく捉えると、前半の裏へのボールが「餌を撒いた」ことになったのだ。