本日最終回「お母さん、娘をやめていいですか?」太巻きのように娘を巻き込む斉藤由貴の母が怖すぎる
ドラマ10「お母さん、娘をやめていいですか」
(NHK 総合 金 よる10時〜)
脚本:井上由美子 演出:笠浦友愛 出演:波瑠 斉藤由貴 柳楽優弥 寺脇康文ほか
1月期のドラマは、金曜放送のものに良作が固まった。
ドラマ10「お母さん、娘をやめていいですか」(NHK)、金曜ナイトドラマ「奪い愛、冬」(テレビ朝日)、
「バイプレイヤーズ」(テレビ東京)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(テレビ東京)。これらのおかげで延々テレビを見続けてしまったが、その習慣ももう終わり。一足早く、「お母さん、」と「奪い愛、」が3月3日に最終回を迎えてしまうのだ。さみしい。ほんとうは金曜ドラマ「下克上受験」(TBS )もあるが、この4作に比べるとおとなし過ぎて、阿部サダヲ、風間俊介、深田恭子の無駄遣いだった感じが否めない。惜しい。
勢いある4作のうち、3作「奪い愛、」「バイプレイヤーズ」「カンヌ映画祭」はメタフィクションの手法をとっておかしさを追求していた。なかで唯一、正面から物語に取り組んでいたのが「お母さん、娘をやめていいですか」だ。
花柄ワンピースにパステルカラーのカーディガン、そんなかっこうもそっくりな、仲の良い母子(斉藤由貴、波瑠)が、娘に恋人ができたことを機にぎくしゃくしていく。
いわゆる母と娘の共依存をテーマに描いているのだが、母役の斉藤由貴のもつ雰囲気がドラマをこわ面白くさせ、現代のデーメーテールとペルセポネー母娘のギリシャ神話かのような激しいものとなった。
斉藤由貴演じるお母さんは一見娘に理解あるふうだったが、こっそり娘の行動を見張っていて、恋人(柳楽優弥)のことを応援したふりをしながら引き離そうとがんばる。
じつは母へのストレスで10円ハゲをつくりながらもそれに気づかなかった娘も、ついに母へ反発して家を出て恋人と暮らすようになる。
お母さんはうまいことやって部屋を見つけて上がり込み、勝手に家事をやったりする。こわい。
出色の場面は、6話で巻き寿司をつくるところ。
たっぷりの具をご飯のうえに乗せて巻き巻き(「カルテット」の巻真紀ではありません)。できた太いそれを切ると切り口はきれいなお花だ。斉藤由貴がブラームスの子守唄を鼻歌まじりに、じつに満足そうに巻き巻きしてる姿は、母の強烈な過保護ぶりそのものでぞくりとなった。蝶よ花よとかわいがって大切にして守っているつもりの娘、それをやがてパクリと食べちゃう。白雪姫に毒リンゴを食べさせたのは継母でなく実母だった説やら、娘に似たお人形をつくってるつもりが自分になってしまっているなどのエピソードを交えながら毎回ゾクリとさせてきたが、太巻き場面が最もこわかった。さすが、今年映画化されるヒットドラマ「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」の脚本家・井上由美子。こわおもしろい見立てのセンスが抜群だ。
中盤では、お母さんが娘の恋人に身の上話をして彼の胸を借りて泣く場面なんかも用意されていて、「まさか、恋人を奪い愛?」と思ったが、そういうドロドロはいっさいない。壇蜜演じる柳楽優弥の同僚の嫉妬による妨害はあるものの、お母さんはあくまで上品に潔癖に無邪気に娘を思っているのだというところがまたおそろしい。
お母さん役の斉藤由貴に、まったくおばちゃん感がなく、彼女が娘役だと言ってもおかしくないのではというほどの少女性を残したままであることが、すばらしく効果をあげていた。
お母さんもまだ“娘”であることを井上由美子と斉藤由貴は表現する。
お母さんのお母さん(娘の祖母)も出てきて、勉強、仕事、結婚すべてが中途半端だったとコンプレックスを刺激するようなことばかり言い、なんにも解決できないまま亡くなっていく。
母が決めた価値観、勉強、仕事、結婚にひとつも当てはまらないまま母になり、今度は娘に、自分が母を満足させられなかったことを叶えさせようとするものの、いざ、うまくいきそうになると、嫉妬をはじめてしまう。なんという母娘依存の連鎖!
このドラマ、いわゆる母らしい母(良妻賢母的な)がいっさい登場しない。教師である娘の教え子の母は、夫に去られシングルマザーで、娘の彼氏の母は息子を置いて男といなくなってしまったという。「お母さん、娘をやめていいですか」の世界にはもはや良妻賢母はいないのだ。もしかしたら、元々、良妻賢母なんて幻想だったのではないかと井上由美子が説いているだとしたらますますこわい。
このまま娘が結婚して子供産んでも同じようなことになりそう。この負の連鎖、どこかで断ち切らなくてはいけないのではないか。はたして娘はこの相互依存の連鎖から逃れることができるのか。
最終回、井上由美子がどんな結末をつけるか期待している。
(木俣冬)
(NHK 総合 金 よる10時〜)
脚本:井上由美子 演出:笠浦友愛 出演:波瑠 斉藤由貴 柳楽優弥 寺脇康文ほか
1月期のドラマは、金曜放送のものに良作が固まった。
ドラマ10「お母さん、娘をやめていいですか」(NHK)、金曜ナイトドラマ「奪い愛、冬」(テレビ朝日)、
「バイプレイヤーズ」(テレビ東京)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(テレビ東京)。これらのおかげで延々テレビを見続けてしまったが、その習慣ももう終わり。一足早く、「お母さん、」と「奪い愛、」が3月3日に最終回を迎えてしまうのだ。さみしい。ほんとうは金曜ドラマ「下克上受験」(TBS )もあるが、この4作に比べるとおとなし過ぎて、阿部サダヲ、風間俊介、深田恭子の無駄遣いだった感じが否めない。惜しい。
花柄ワンピースにパステルカラーのカーディガン、そんなかっこうもそっくりな、仲の良い母子(斉藤由貴、波瑠)が、娘に恋人ができたことを機にぎくしゃくしていく。
いわゆる母と娘の共依存をテーマに描いているのだが、母役の斉藤由貴のもつ雰囲気がドラマをこわ面白くさせ、現代のデーメーテールとペルセポネー母娘のギリシャ神話かのような激しいものとなった。
斉藤由貴演じるお母さんは一見娘に理解あるふうだったが、こっそり娘の行動を見張っていて、恋人(柳楽優弥)のことを応援したふりをしながら引き離そうとがんばる。
じつは母へのストレスで10円ハゲをつくりながらもそれに気づかなかった娘も、ついに母へ反発して家を出て恋人と暮らすようになる。
お母さんはうまいことやって部屋を見つけて上がり込み、勝手に家事をやったりする。こわい。
出色の場面は、6話で巻き寿司をつくるところ。
たっぷりの具をご飯のうえに乗せて巻き巻き(「カルテット」の巻真紀ではありません)。できた太いそれを切ると切り口はきれいなお花だ。斉藤由貴がブラームスの子守唄を鼻歌まじりに、じつに満足そうに巻き巻きしてる姿は、母の強烈な過保護ぶりそのものでぞくりとなった。蝶よ花よとかわいがって大切にして守っているつもりの娘、それをやがてパクリと食べちゃう。白雪姫に毒リンゴを食べさせたのは継母でなく実母だった説やら、娘に似たお人形をつくってるつもりが自分になってしまっているなどのエピソードを交えながら毎回ゾクリとさせてきたが、太巻き場面が最もこわかった。さすが、今年映画化されるヒットドラマ「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」の脚本家・井上由美子。こわおもしろい見立てのセンスが抜群だ。
中盤では、お母さんが娘の恋人に身の上話をして彼の胸を借りて泣く場面なんかも用意されていて、「まさか、恋人を奪い愛?」と思ったが、そういうドロドロはいっさいない。壇蜜演じる柳楽優弥の同僚の嫉妬による妨害はあるものの、お母さんはあくまで上品に潔癖に無邪気に娘を思っているのだというところがまたおそろしい。
お母さん役の斉藤由貴に、まったくおばちゃん感がなく、彼女が娘役だと言ってもおかしくないのではというほどの少女性を残したままであることが、すばらしく効果をあげていた。
お母さんもまだ“娘”であることを井上由美子と斉藤由貴は表現する。
お母さんのお母さん(娘の祖母)も出てきて、勉強、仕事、結婚すべてが中途半端だったとコンプレックスを刺激するようなことばかり言い、なんにも解決できないまま亡くなっていく。
母が決めた価値観、勉強、仕事、結婚にひとつも当てはまらないまま母になり、今度は娘に、自分が母を満足させられなかったことを叶えさせようとするものの、いざ、うまくいきそうになると、嫉妬をはじめてしまう。なんという母娘依存の連鎖!
このドラマ、いわゆる母らしい母(良妻賢母的な)がいっさい登場しない。教師である娘の教え子の母は、夫に去られシングルマザーで、娘の彼氏の母は息子を置いて男といなくなってしまったという。「お母さん、娘をやめていいですか」の世界にはもはや良妻賢母はいないのだ。もしかしたら、元々、良妻賢母なんて幻想だったのではないかと井上由美子が説いているだとしたらますますこわい。
このまま娘が結婚して子供産んでも同じようなことになりそう。この負の連鎖、どこかで断ち切らなくてはいけないのではないか。はたして娘はこの相互依存の連鎖から逃れることができるのか。
最終回、井上由美子がどんな結末をつけるか期待している。
(木俣冬)