世界一シンプルはケーススタディ/野町 直弘
私は調達購買関連の研修やセミナーではケーススタディやロールプレイを多用します。やはり一方的な講義だけではどうしても飽きてしまいますし、どんなに集中したとしても集中できる時間は限られてしまうからです。
ケーススタディをやられた経験がある方はご存知とは思いますが、色々な情報が混ざっている中で本当に重要な情報が何かを理解し、設問に対して仮説を立て、それを検証して自分なりの答えを出していきます。ケーススタディをやっていると受講生からよく「模範解答を教えて欲しい」という声が聞かれるのです。しかし、ケーススタディには正解はありません。
正解がないからこそ、自分の意思決定とそこに至る理由や論理性、それから意思決定に至るまでにどういうことを検討したか、が重要になってきます。一般的には比較的時間がない中でケーススタディを行うことが多いので、作業に追われてしまい、幅広い検討がおろそかになることが多いようです。
今回、調達購買のあるケーススタディを考えてみました。とてもよくあるケースです。しかも世界一シンプルなケーススタディでしょう。皆さんはどういう意思決定をしますか。
ある品目(アセンブリの機能部品としましょう)のソーシング(契約)プロセス。
サプライヤは歴史的にある特定の一社だけという状況。つまり相見積などの競争化はできません。
この特定サプライヤに開発委託もしている、いわゆる承認図部品であり、ほぼ丸投げの状態です。今回は新しい主力製品に使用する新しい部品のソーシング機会になります。
現行価格は600円、新機種の見積りを取ったところ800円で出てきました。
価格差の200円について査定してみたところ、仕様差で200円のアップはほぼ妥当なコスト水準のようです。
それに対して社内の目標コストは780円です。つまり仕様差で査定すると800円ですが、それでは社内の目標コストはクリアできません。
ところが、このサプライヤの営業から誤送信されたメールがあなたに配信されました。
そのメールの添付資料は当該部品のサプライヤの社内標準コスト資料だったのです。その社内宛てのメールを営業担当が誤ってあなたに送ってしまったのです。内容を見たところ当サプライヤのこの部品の社内標準コストは580円ということがわかりました。当該サプライヤとの管理費利益は製造原価に一定比率を掛け合わせる方法で積算しており20%が妥当なラインとしてサプライヤとは握れています。そうすると購買コスト基準で積算すると700円が標準価格となります。
あなたが担当バイヤーだったらいくらでこのサプライヤと購入価格を決めますか?
ちなみに情報が不足しているとか、こういう条件でいくら、とか、いつまでにいくらとか、は要りません。今(立上げ時)購入価格をいくらで決めるか数字でお答えください。
私はこのケースはとてもシンプルですが、バイヤーの役割・機能、大袈裟に言えば哲学に関わるものかと考えます。もしお付き合いいただけますならバイヤーの皆様からのコメントをお待ちしております。