千葉雄大が見据える未来。決断のときは「粋に、求められるままに」
自身の家族について語るときだけ、千葉雄大の笑みにほんの少し、くすぐったさを感じているかのような困惑の色が混じる。この男にも、間違いなく、家族の前でしか見せない顔があるのだろう。1月8日(日)に放送される新春ドラマ『しあわせの記憶』(MBS系)が描くのは、決して“一般的”とは言えないかもしれないが、愛情と哀愁とユーモアに彩られたある家族の姿である。「家族とは何か?」――そんな問いかけから、さらにその先へと歩みを進めようとしている千葉雄大の新たな1年が始まる!
撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
――『しあわせの記憶』は、かつて借金を抱えて家族の前から姿を消した父親・三浦太郎(渡辺 謙)が、再び家族の前に現れ、さまざまな波乱を巻き起こしていくというドラマです。
大石 静さんの脚本を読ませていただいて、自分が出るという以前に、読みものとしてすごく楽しませていただきました。“新しい家族の形”とでもいうものが見えてきて、それは自分の境遇とは全然違うものかもしれませんが、不思議と共感できる部分が多くて。家族の関係性がすごく面白いなって思いました。
――千葉さんが演じたのは、太郎の次女で大学を卒業するも就職先が見つからず、コンビニでバイトをしている津島冬花(二階堂ふみ)の同僚・田島 佑ですね。バイトチーフという立場で、なぜか冬花に対して特に厳しく当たります。
いつも、イライラしている先輩です(笑)。
――物語が進むにつれて、そんな田島の境遇が少しずつ明らかになってきます。やりたいことが見つからずにいる冬花と同様に、田島もまた進路に悩んでいるところもあったり…。
自分の中で、田島像として考えたのは、やりたいことを見つけたいという思いでバイトをしていて、まずは、目の前のことを一生懸命にやろうと思っている男でした。だからこそ、自分自身の姿とどこかで重なる冬花にイラッとしてしまうし、何とかしてやりたいって思いもあるんでしょうね。
――田島に対して、理解や共感を覚える部分もありましたか?
ありましたね。もしも、誰かが自分と同じ境遇にいて、見えている景色が同じだとしたら、彼のように「なんでお前はもっとこうしないんだ!」という思いに駆られると思うんです。それをあえて口にしないという選択肢もあるし、もしかしたらそっちを選ぶ人のほうが多いかもしれない。
――千葉さんは、同じようなシチュエーションで、自分と同じような悩みを抱えている人がいたら…。
僕は言わないほうなんじゃないかと思います(苦笑)。そこで、あえて「言う」という選択肢を選ぶって、田島は不器用かもしれないけど、律儀で面倒見のいい人なんだなと思う。そこは、共感というよりもシンパシーに近い感情を覚えましたね。
――田島のような人物は、多くの視聴者が職場や学校、部活、バイト先などで「あぁ、こういう人、いる!」と感じるような存在かもしれません。
僕自身、昔、アルバイトをしていた頃、こういう先輩はいましたよ。すごく厳しい態度で、最初の頃はいつも叱られてました(苦笑)。でも、慣れたら「え? こんな人だったの?」というくらい、最初とは180度、印象が異なるいい先輩で(笑)。愛情を持って、最初はあえて厳しく接してくださってたんだなって。
――アルバイトは学生時代ですか?
そうです。大学時代ですね。カフェで接客やドリンクづくりをしてました。
――カフェをバイト先に選んだ理由は?
僕自身は、人と接するのが好きで選びました。周りにもそういう人が多かったです。ただ、覚えることはたくさんあるし、「仕事の場では学生も社員と同じ」という厳しい職場でもありましたね。この世界に入る前、2年ほど働いていました。
――ネチネチと二階堂ふみさんを叱る、バイトリーダーの役を千葉さんが演じると聞いて、これまで演じてきた役柄のタイプと比べると、意外な気もしましたが…。
自分の中ではそこまで違和感はないんですけど、「怒ったことあるんですか?」と聞かれたりすることはあるんで、世間的なイメージとは少し、かけ離れているのかもしれないですね。
――大石さんの作品へは、2016年に話題を呼んだ連続ドラマ『家売るオンナ』(日本テレビ系)に続いての出演となりますね。
聞いた話だと、大石さんは『家売るオンナ』のときに「千葉くんは、怒ってるのがいい」とおっしゃっていたそうで(笑)、その流れからこの役を…となったらしいです。そういう印象を持ってくださる方もいるんだなって面白かったです。あとは、見てくださる方の感想にゆだねたいと思います。
――あえて聞きますが、実際、他人に対して怒ることってあるんですか?
ありますよ。でも、怒鳴ったりすることはないです。結構、淡々とした口調で冷静に…。
――むしろ、そっちのほうが怖いです!(笑)
一番、嫌がられるタイプですね(笑)。
――冬花のような後輩の立場だったら…背筋が凍ります!
「で…?」とか言うんです。嫌なタイプですねぇ(笑)。まあ、めったにないですよ。器はね、それなりに大きいほうだと思うんで。さっきの田島へのシンパシー話でも言いましたけど、怒るって面倒だし、すごく疲れるんですよ。だから極力、和やかにいたいんです。
――そんな千葉さんが、それでも怒るときというのは…。
やっぱり、言わないと前に進まないことってあるんですよね。自分が言わなきゃって場合は言います。
――本作の主人公であり、父親役の渡辺 謙さんと共演されてみていかがでしたか?
最初に渡辺さんが主演のドラマと聞いてすごく光栄に思いました。とはいえ、僕は冬花とのやり取りが中心と聞いてたので、ご一緒するシーンはないのかな? と思ってたんですよ。そうしたら、いきなりコンビニに現れて胸倉をつかまれるシーンがあって(笑)。
――いきなりガツンとやり合いますね!
あのシーンがクランクインして最初のシーンだったんです。まだ慣れてない状態のときに、ものすごくボルテージの高いお芝居をぶつけてくださって、こちらのスイッチを入れていただきました。現場で、特別に何かお話させていただいたわけではないんですけど、すごく気さくで、人当たりの柔らかい方で、本当に素敵でした。
――普段、男の憧れのような渋い男を演じる渡辺さんが、今回は平穏な家族をかき乱す、ちょっと問題のある父親を演じているというのも興味深いですね。
ダメな父親なんだけど、愛されていて、どこか憎めないんですよね。僕自身の父とはまったく違うタイプなんですけど、もしも自分があの家族の中にいたら? と想像しても、どこかで憎み切れず、許しちゃう気がします(笑)。
――千葉さん自身は、お父さまとの関係は…? 大人になってからじっくりと話をする機会はありますか?
うちの父は決して寡黙なタイプではなく、よくしゃべるんですよ。だから、結構、会話はありますね。僕のイメージでは、この仕事を始めたとき、母のほうがミーハーなタイプだと思ってたんです。「○○さんってどんな人?」とか聞いてくるだろうと。そう思ってたら、完全に逆でした!(苦笑)
――ミーハーなのはお父さまのほう?
父が、街の人に僕のことをあれこれ話してたり(笑)。たまに実家に帰ってみると、やたらと人が来るんですよ。おかしいな…? と思ったら、事前に父が言いふらしてたんです。本人は「言ってない」って否定してましたが、陰で母に「やめなさいよ」と注意されてて(笑)。
――素敵なお父さまですね!(笑)
雑誌とかも買うのは絶対に父で、僕よりも発売日とかに詳しかったりするんです。
――出演した作品の感想を伝えてきたりも?
それはたまにですね。でも、作品は全部見てます。一番嫌なのは、僕が実家にいるときに「あれ見ようか?」って録画した僕の出演作を見ようとするところ!(苦笑) 周りからは「親孝行だね」って言われますけど…。
――離れて暮らす息子の姿がテレビや映画のスクリーンを通じて見られるのは、何よりの親孝行ですよ!
そうかもしれません。特殊な世界だし、そのぶん、心配や面倒をかけることもあるかもしれませんが。
――千葉さんにとって“家族”ってどういう存在でしょうか?
難しいですねぇ…(苦笑)。普段は、考えないことがたくさんあるけど、何かあったら一番の味方でいてほしいし、自分もそうありたい。やっぱり、友達とはちょっと違いますよね。利害でつながっているわけではない、フラットな関係ですからね。
――千葉さん自身が年齢を重ねたことで、家族との関係性も変わってきましたか?
変わりましたね。実家にいた10代の頃は、反抗期もあったし、家族に対して感じるありがたみも薄かったし、結構、とんがっている自分がいて…(苦笑)、まあ、そこまで激しくはないけど、内弁慶なところが多々ありました。
――それが年齢を重ねる中で変化した?
大学進学で上京してひとり暮らしを始めたんですけど、当然、すべてのことを自分でしなくちゃいけなくなる。そうしたら、自分は絶対になるはずないと思ってたんですけど、ホームシックになっちゃって(笑)。2週間くらい、毎日のように電話してました。
――離れてみると、ありがたみがわかるものなんですね。
まだ子どもなんだなって。実際、その頃はまだ経済的にも親の扶養にいましたしね。それが仕事を始めて、親の扶養を外れて自分ひとりで立って、生きていくようになって、少しずつ、会話の内容も変わってきました。
――親御さんも、息子をいつまでも子どもとしてではなく、一人前の人間として接するようになったかもしれません。
実際、頼られるようなことも増えましたしね。いまでは、会うといっても盆と暮れくらいで、下手すると年に1回くらいしか顔を合わせられなかったりもして。離れて暮らしてると、冷静に考えて、親にきちんと会えるのは、あと何回くらいなんだろう? って意識するようにもなります。
撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
自分の境遇とは違うけど…「新しい家族の形」に共感
――『しあわせの記憶』は、かつて借金を抱えて家族の前から姿を消した父親・三浦太郎(渡辺 謙)が、再び家族の前に現れ、さまざまな波乱を巻き起こしていくというドラマです。
大石 静さんの脚本を読ませていただいて、自分が出るという以前に、読みものとしてすごく楽しませていただきました。“新しい家族の形”とでもいうものが見えてきて、それは自分の境遇とは全然違うものかもしれませんが、不思議と共感できる部分が多くて。家族の関係性がすごく面白いなって思いました。
――千葉さんが演じたのは、太郎の次女で大学を卒業するも就職先が見つからず、コンビニでバイトをしている津島冬花(二階堂ふみ)の同僚・田島 佑ですね。バイトチーフという立場で、なぜか冬花に対して特に厳しく当たります。
いつも、イライラしている先輩です(笑)。
――物語が進むにつれて、そんな田島の境遇が少しずつ明らかになってきます。やりたいことが見つからずにいる冬花と同様に、田島もまた進路に悩んでいるところもあったり…。
自分の中で、田島像として考えたのは、やりたいことを見つけたいという思いでバイトをしていて、まずは、目の前のことを一生懸命にやろうと思っている男でした。だからこそ、自分自身の姿とどこかで重なる冬花にイラッとしてしまうし、何とかしてやりたいって思いもあるんでしょうね。
――田島に対して、理解や共感を覚える部分もありましたか?
ありましたね。もしも、誰かが自分と同じ境遇にいて、見えている景色が同じだとしたら、彼のように「なんでお前はもっとこうしないんだ!」という思いに駆られると思うんです。それをあえて口にしないという選択肢もあるし、もしかしたらそっちを選ぶ人のほうが多いかもしれない。
――千葉さんは、同じようなシチュエーションで、自分と同じような悩みを抱えている人がいたら…。
僕は言わないほうなんじゃないかと思います(苦笑)。そこで、あえて「言う」という選択肢を選ぶって、田島は不器用かもしれないけど、律儀で面倒見のいい人なんだなと思う。そこは、共感というよりもシンパシーに近い感情を覚えましたね。
――田島のような人物は、多くの視聴者が職場や学校、部活、バイト先などで「あぁ、こういう人、いる!」と感じるような存在かもしれません。
僕自身、昔、アルバイトをしていた頃、こういう先輩はいましたよ。すごく厳しい態度で、最初の頃はいつも叱られてました(苦笑)。でも、慣れたら「え? こんな人だったの?」というくらい、最初とは180度、印象が異なるいい先輩で(笑)。愛情を持って、最初はあえて厳しく接してくださってたんだなって。
――アルバイトは学生時代ですか?
そうです。大学時代ですね。カフェで接客やドリンクづくりをしてました。
――カフェをバイト先に選んだ理由は?
僕自身は、人と接するのが好きで選びました。周りにもそういう人が多かったです。ただ、覚えることはたくさんあるし、「仕事の場では学生も社員と同じ」という厳しい職場でもありましたね。この世界に入る前、2年ほど働いていました。
脚本家が絶賛!?「千葉雄大は怒っている役がいい」
――ネチネチと二階堂ふみさんを叱る、バイトリーダーの役を千葉さんが演じると聞いて、これまで演じてきた役柄のタイプと比べると、意外な気もしましたが…。
自分の中ではそこまで違和感はないんですけど、「怒ったことあるんですか?」と聞かれたりすることはあるんで、世間的なイメージとは少し、かけ離れているのかもしれないですね。
――大石さんの作品へは、2016年に話題を呼んだ連続ドラマ『家売るオンナ』(日本テレビ系)に続いての出演となりますね。
聞いた話だと、大石さんは『家売るオンナ』のときに「千葉くんは、怒ってるのがいい」とおっしゃっていたそうで(笑)、その流れからこの役を…となったらしいです。そういう印象を持ってくださる方もいるんだなって面白かったです。あとは、見てくださる方の感想にゆだねたいと思います。
――あえて聞きますが、実際、他人に対して怒ることってあるんですか?
ありますよ。でも、怒鳴ったりすることはないです。結構、淡々とした口調で冷静に…。
――むしろ、そっちのほうが怖いです!(笑)
一番、嫌がられるタイプですね(笑)。
――冬花のような後輩の立場だったら…背筋が凍ります!
「で…?」とか言うんです。嫌なタイプですねぇ(笑)。まあ、めったにないですよ。器はね、それなりに大きいほうだと思うんで。さっきの田島へのシンパシー話でも言いましたけど、怒るって面倒だし、すごく疲れるんですよ。だから極力、和やかにいたいんです。
――そんな千葉さんが、それでも怒るときというのは…。
やっぱり、言わないと前に進まないことってあるんですよね。自分が言わなきゃって場合は言います。
離れて暮らすようになって変わった家族との関係
――本作の主人公であり、父親役の渡辺 謙さんと共演されてみていかがでしたか?
最初に渡辺さんが主演のドラマと聞いてすごく光栄に思いました。とはいえ、僕は冬花とのやり取りが中心と聞いてたので、ご一緒するシーンはないのかな? と思ってたんですよ。そうしたら、いきなりコンビニに現れて胸倉をつかまれるシーンがあって(笑)。
――いきなりガツンとやり合いますね!
あのシーンがクランクインして最初のシーンだったんです。まだ慣れてない状態のときに、ものすごくボルテージの高いお芝居をぶつけてくださって、こちらのスイッチを入れていただきました。現場で、特別に何かお話させていただいたわけではないんですけど、すごく気さくで、人当たりの柔らかい方で、本当に素敵でした。
――普段、男の憧れのような渋い男を演じる渡辺さんが、今回は平穏な家族をかき乱す、ちょっと問題のある父親を演じているというのも興味深いですね。
ダメな父親なんだけど、愛されていて、どこか憎めないんですよね。僕自身の父とはまったく違うタイプなんですけど、もしも自分があの家族の中にいたら? と想像しても、どこかで憎み切れず、許しちゃう気がします(笑)。
――千葉さん自身は、お父さまとの関係は…? 大人になってからじっくりと話をする機会はありますか?
うちの父は決して寡黙なタイプではなく、よくしゃべるんですよ。だから、結構、会話はありますね。僕のイメージでは、この仕事を始めたとき、母のほうがミーハーなタイプだと思ってたんです。「○○さんってどんな人?」とか聞いてくるだろうと。そう思ってたら、完全に逆でした!(苦笑)
――ミーハーなのはお父さまのほう?
父が、街の人に僕のことをあれこれ話してたり(笑)。たまに実家に帰ってみると、やたらと人が来るんですよ。おかしいな…? と思ったら、事前に父が言いふらしてたんです。本人は「言ってない」って否定してましたが、陰で母に「やめなさいよ」と注意されてて(笑)。
――素敵なお父さまですね!(笑)
雑誌とかも買うのは絶対に父で、僕よりも発売日とかに詳しかったりするんです。
――出演した作品の感想を伝えてきたりも?
それはたまにですね。でも、作品は全部見てます。一番嫌なのは、僕が実家にいるときに「あれ見ようか?」って録画した僕の出演作を見ようとするところ!(苦笑) 周りからは「親孝行だね」って言われますけど…。
――離れて暮らす息子の姿がテレビや映画のスクリーンを通じて見られるのは、何よりの親孝行ですよ!
そうかもしれません。特殊な世界だし、そのぶん、心配や面倒をかけることもあるかもしれませんが。
――千葉さんにとって“家族”ってどういう存在でしょうか?
難しいですねぇ…(苦笑)。普段は、考えないことがたくさんあるけど、何かあったら一番の味方でいてほしいし、自分もそうありたい。やっぱり、友達とはちょっと違いますよね。利害でつながっているわけではない、フラットな関係ですからね。
――千葉さん自身が年齢を重ねたことで、家族との関係性も変わってきましたか?
変わりましたね。実家にいた10代の頃は、反抗期もあったし、家族に対して感じるありがたみも薄かったし、結構、とんがっている自分がいて…(苦笑)、まあ、そこまで激しくはないけど、内弁慶なところが多々ありました。
――それが年齢を重ねる中で変化した?
大学進学で上京してひとり暮らしを始めたんですけど、当然、すべてのことを自分でしなくちゃいけなくなる。そうしたら、自分は絶対になるはずないと思ってたんですけど、ホームシックになっちゃって(笑)。2週間くらい、毎日のように電話してました。
――離れてみると、ありがたみがわかるものなんですね。
まだ子どもなんだなって。実際、その頃はまだ経済的にも親の扶養にいましたしね。それが仕事を始めて、親の扶養を外れて自分ひとりで立って、生きていくようになって、少しずつ、会話の内容も変わってきました。
――親御さんも、息子をいつまでも子どもとしてではなく、一人前の人間として接するようになったかもしれません。
実際、頼られるようなことも増えましたしね。いまでは、会うといっても盆と暮れくらいで、下手すると年に1回くらいしか顔を合わせられなかったりもして。離れて暮らしてると、冷静に考えて、親にきちんと会えるのは、あと何回くらいなんだろう? って意識するようにもなります。