数々の美術館や博物館があるシンガポール。限られた日程のなかでもぜひ訪れてほしいのが、文明の十字路として栄えてきたシンガポールならではの「プラナカン博物館」です。

「プラナカン」とは、15世紀後半からシンガポールやマレーシアに渡ってきた中国系移民の子孫のこと。

当初、マレー半島における中国系移民のほとんどが男性だったため、彼らは中国系女性ではなく、現地の女性と結婚し、子どもをもうけました。

彼らのルーツである中国文化に、マレーや西洋の文化を融合させて発展させた独自の文化を「プラナカン文化」と呼びます。

シンガポールのプラナカン博物館は、シンガポールやマレーシアのマラッカ、ペナンなど、マレー半島で生まれたプラナカンの文化や歴史を紹介する博物館。世界最高かつ最も広範なプラナカン芸術のコレクションを誇ります。

1912年に建てられたというコロニアル調の建物も見事で、もともとは当時初めて中国語で授業を行った学校として使われていました。

3階建ての館内は、結婚、宗教、食生活など6つのテーマ、9つの常設ギャラリーから構成されています。

・人生最大のイベント、結婚式

プラナカン博物館のハイライトのひとつが、プラナカンの人々にとって最も大切な行事であった結婚式に関する展示。

伝統的なプラナカンの結婚式はなんと12日間にわたって行われ、両家のあいだで宝飾品や食べ物などさまざまな贈り物の交換や、数々の儀式が行われました。

精巧な彫刻やビーズ刺繍のタペストリーなどで飾られた新郎新婦のベッド。あまりに豪華絢爛ぶりに圧倒されます。

・精緻な手仕事に目を見張るニョニャ文化

「ニョニャ」とはプラナカンの女性のこと。ちなみにプラナカンの男性は「ババ」と呼ばれます。ニョニャたちは、嫁入りのために刺繍の技術を身に付ける必要がありました。絹やビーズで細やかな模様を描くニョニャの手仕事は驚異的。

一糸の乱れもないほどの精緻な刺繍は息を呑むほどの美しさで、あっという間にその世界に引き込まれてしまいます。

こちらはビーズ刺繍でできたタペストリー。

隙間なくびっしりとビーズで埋め尽くされているさまは、まさに芸術。

職人ではなく一般の女性たちがこれらを作ったとは…にわかには信じがたいほどです。

・優雅なニョニャファッション「サロン・ケバヤ」

ニョニャが身に付ける美しい刺繍が施されたブラウスを「ケバヤ」と呼び、ケバヤとセットで身に付ける巻きスカートのことを「サロン」と呼びます。体の線に沿った美しいシルエットが特徴で、繊細な刺繍にニョニャの美意識と誇りがうかがえます。

中国的な要素とマレー的な要素を融合させたニョニャファッションは、まさにミックスカルチャーを体現するニョニャならではのアイデンティティの表現といえるでしょう。

・美しい陶器「ニョニャ・ウェア」の数々

プラナカン文化を象徴するアイテムのひとつに、「ニョニャ・ウェア」と呼ばれる美しい陶器があります。プラナカンの陶器は、中国的なデザインをベースにしつつも、ピンクやグリーンといったパステルカラーの甘やかな色合いが特徴。

蝶のモチーフがしばしば描かれているのは、蝶が幸福のシンボルとされているからなのだとか。

プラナカン博物館に展示されているニョニャ・ウェアの多くは、19世紀に中国でつくられたもの。洗練された陶器の数々に、西洋文化を巧みに取り入れたプラナカンの人々のセンスが感じられ、つい欲しくなってしまいます。

プラナカン博物館で繰り広げられるプラナカンの世界は、まさに「華麗」と呼ぶにふさわしいものです。あなたも、異なる文化が混じり合って独自の進化を遂げたプラナカンの文化の目撃者になってみては。

Post: GoTrip! http://gotrip.jp/ 旅に行きたくなるメディア

<施設の情報>
プラナカン博物館(Peranakan Museum)
住所:39 Armenian Street, Singapore 179941
開館時間:10:00〜19:00(金曜は〜21:00)
公式サイト:http://peranakanmuseum.org.sg