福岡大大濠vs大村工

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福岡大大濠に食い下がった大村工業の「王道野球」

白石翔樹(大村工)

 県大会初優勝を決めた大村工。敗れたとはいえ、夏の躍進を十分に感じさせる戦いぶりだった。

大村工といえば、男子バレーボール部が全国クラスの強豪で有名。春高バレーでは2012年には優勝、2015年でも準優勝を収めている。また男子ソフトボールも全国大会実績豊富の名門だが、野球部の高比良俊作監督(海星OB)は、両クラブの監督と仲が良く、大きな影響を受けているようだ。

 高比良監督は、バレー部の顧問・伊藤先生、ソフトボール部の山口先生からいろいろなことを学んだ。伊藤先生には駆け引き、タイムをかけるタイミング、選手の声のかけ方を学び、山口先生からソフトボールは、野球以上に早い反応が問われるだけに速球投手のタイミングの取り方を上手く野球に応用してきたのだ。2人の先生の教えで共通していたのは、「先生、全国勝つには王道を極めることが一番ですよ。奇策は絶対に通用しません」高比良監督にとって最も響いた言葉だった。野球にとって王道は何か?その答えはなかなか見つからなかったが、まず資本である体を鍛えようと決心したのは7年前のこと。秋の大会で、高比良監督の母校である海星戦に敗れた試合後、選手たちが「海星の選手のカラダを見て、みんなでかい!といっていたんです。それに腹が立ってしまって(笑)よーし体を大きくしようと思いました」それから食事を重要視するようになったこと。まず増やしたのは食事の量だ。大米の量は、1.8リットル。そして選手の父兄を集めて、栄養士による食事の教育も行った。選手は自宅通い。まず保護者の協力。そして栄養に対する知識がなければ、体を大きくすることはできないと思ったからだ。その1.8リットルは朝、昼、夕、夜に食べて、しっかりと1日のうち食べきること。トレーニング後の30分以内であるゴールデンタイムにプロテインを飲んだりするなど、まさにカラダを大きくするための取り組みを実践しているのだ。そして打ち勝つ野球を実践するために1日1000スイング。振り込みと食事トレーニングで大村工の選手たちの体型はみるみると大きくなっていったのだ。

 その取り組みが功を奏し「ホームランを打てない奴はベンチに入れない」と高比良監督が語るように、どの選手も長打力があり、、この春は強打で県大会を制覇。初の九州大会出場を果たしたのであった。選手たちの体型を見ると、非常に逞しい。シートノックを見ていても、肩の強さ、動きのスピード感はただ練習を重ねただけではなく、フィジカルをしっかりと強くしたことで、プレー自体に力強さを感じたのだ。小手先ではなく、基本となる基礎体力がなければ勝負できない...。高比良監督がこだわった王道野球を大村工業の選手たちがしっかりと表現していた。

 そして九州大会でも、日南学園戦に逆転勝利。準々決勝では今年の九州大会出場チームでは最も力のある福岡大大濠に挑戦したのであった。

濱地真澄(福岡大大濠)

 先制したのは大村工で、二死満塁から押し出しで1点を先制。幸先よく先制したかと思ったが、1回裏、福岡大大濠打線が爆発し、一死一、二塁から4番東 怜央(2年)に左中間を破る適時二塁打を打たれ、逆転を許すと、さらに6番田中 力哉(3年)にも適時打を打たれ、防戦一方の試合展開となった。だが6回表に反撃開始。福岡大大濠の2番手・三浦銀二(2年)はコンパクトなテークバックから振り下ろすストレートは常時130キロ前半〜138キロを計測し、キレのあるスライダーを投げ分ける好投手だが、三浦からチャンスを作り、先頭打者が安打で出塁すると、二死一、二塁のチャンスから相手の2つの失策で3対4の1点差に迫ると、3番白石翔樹(3年)を迎えたところで、福岡大大濠はエース濱地 真澄(3年)を投入した。白石は濱地のストレートをモノ見事に捉え、痛烈な左前安打で4対4の同点に追いつく。ここはさすがといえるだろう。

 大村工はエース・松尾心太郎(3年)を投入して、勢いを作りたかったところだったが、福岡大大濠打線がしぶとさを見せた。松尾はワインドアップから始動し、左足を高く上げていきながら、深く沈み込んでからスリークォーター気味に勢いよく腕を振っていく投手。球速は、常時130キロ前半〜138キロを計測、120キロ台のスライダーを投げ分け勝負する投手だが、この日はなかなか制球力が定まらず、コーナーへ来たところを粘られるなど苦しい投球に。そして一死満塁から5番稲本侑星(1年)に2点適時打を浴びて勝ち越しを許すと、7回裏にはエース濱地に本塁打を浴びて、4対7と3点差に広げられてしまう。

 連投となった濱地だが、前日の試合と比べると良かった。「この日はフォームとかを意識せず、相手の強い気持ちに負けないぐらい気持ちを込めた」と語るようにフォームとか意識した中途半端な濱地の姿はなく、とにかく打者へ立ち向かっていく強気の投球が光った。なにかごまかしが見えた神村学園戦と比べると、この日は無意識に、体の軸を小さく鋭く回すフォームになっていた。勝手に腕が振れるフォームとなっており、ボールの勢いも素晴らしかった。140キロさえ出なかった神村学園戦だったが、この日は最速143キロを7球も計測するなど、スピード自体は出ており、さらに120キロ前後のスライダーにもキレがあった。追う大村工打線を抑え、7対4で激戦をものにした。好リリーフを見せた濱地だが、自分のストレートはまだまだ満足してなかった。「指のかかりは、好調だった昨秋と比べると全然ダメ。もっと指にかかるようにしたいですね」と振り返るように、この日は3.2回を投げて2奪三振にとどまったのは反省点ともいえるだろう。

 だが、今日の濱地のストレートは並みのチームならば、簡単に捉えきれない勢いがあった。しっかりと食らいついていった大村工打線の打撃力は素晴らしい。大村工業打線の各打者はなかなか実戦的なスイングをしており、上からたたくのではなく、下からボールを捉えるようにして飛ばすスイングをしており、さらにスイングスピードも鋭いので、簡単には空振りにはならないのだ。適時打を打った白石も振り遅れないようにトップを浅くしたり、始動のタイミングを早くしてついていくように心がけていた。パワーもそうだが、大村工打線の各打者は工夫する姿が見えたのだ。今回は打てなかったけれど、全国クラスの投手を打ち崩すパワフルさは十分に感じさせた。また守備に課題はあるようだが、無失策で終え、選手たちの一つ一つの動きを見ていても、難なくさばいていて、守備は固いチームだ。

 敗れた大村工業の高比良監督は、「福岡大大濠打線は外側の球を見極めたり、しっかりと捉える技術の上手さがあり、うちにはないものを持っていました。ぜひそこは学んでいきたいですね」とコメント。九州大会2試合戦ったことについて、「この経験は非常に大きなものだったと思います」と手応えを感じている。

 7対4で福岡大大濠が勝利したとはいえ、展開次第ではひっくり返してもおかしくない実力を持った大村工。この試合が糧となり、練習のモチベーションとなっていけば...。初の甲子園出場は見えてくる。今後へ高比良監督は、 「梅雨の練習が一番苦しい。だから一番大事ですよ」と梅雨に目いっぱい追い込む予定だという。 選手たちの試合後の様子を見ると、悔しい表情を露わにしていた。 選手、指導者ともども春の結果に満足せず、大村工は夏へ向かって動き出していた。

(文=河嶋 宗一)

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