佐賀商vs九州学院
4安打4打点の活躍を見せた野中翔太(佐賀商)
佐賀商打線がさく裂した形となった。その中でもクリーンナップの打撃は脅威だ。
1回表、1番空閑が四球で出塁。2番三島が安打で出塁し、3番平野が右前安打で1点を返すと、4番野中 翔太(3年)がレフト線を破る適時二塁打。さらに5番龍野が初球を打って右中間を破る適時二塁打を放ち、一気に4点を先制する佐賀商。2回表、二死三塁からワイルドピッチで1点を追加すると、なおも二死一、二塁から5番龍野瞳依がライト線を破る適時二塁打でなおも2点を追加。龍野は2回までで2安打4打点と圧巻だ。
4回表には二死二塁から野中が2安打目となる右越え適時二塁打を放ち、8対0とする。5回裏には九州学院の反撃に遭い、一気に5点を失ったが、8回表には3番平野友都(3年)の適時打、4番野中は8回にも右方向へ適時打が飛び出し、野中は4打数4安打3打点と大当たりだった。
4安打3打点の4番野中、2安打4打点の5番龍野の2人は全国クラスの長打力を持った選手といえるだろう。野中は1年生から4番に座っている野中。181センチ93キロと実に恵まれた体格を誇る野中。1年生から飛ばす能力に関しては長けていた選手で、確実性を欠いていた。理由はあまりある長打力故、本塁打を打とうと思っていた。森田剛史監督は、「そこまで振り回さなくて軽く振れば飛ぶから...」と伝え、本人も「軽く振っても飛ぶ」と確信したのは4月の終わりから。野中自身もそのことは分かっていたが、技術的にどう表現すればよいか分からなかったが、この4月下旬に掴んだようだ。
「感覚的なので、難しいのですが、手首の返し方を改めました」と打撃フォームを修正し、「軽く振る」ことを意識してやってみると...「今まで力一杯振っていた時も、試合の中でヒットや本塁打が多くなっていったんです」と手応えを感じている様子だった。この試合では逆方向への安打が目立った。ライトの頭を超えての二塁打に、森田監督も「いつもならば打ち取られるところをライトに打てるようになったことで打者としての幅が広がった」と評価していた。現在、高校通算29本塁打。このまま長打を打ち続けていけば評価は上がってくるだろう。また現在はレフトだが、去年秋までは捕手。「またキャッチャーに戻りたいです」と捕手復帰を志していた。これほどの打撃力を持った選手が、捕手に戻って大きく攻守でアピールできれば、大きく注目される可能性は残っている。それが実現となるか注目したい。
また龍野は背番号1をつけているが、肘の故障で、現在は野手に専念。高校通算10本塁打だが、打席での存在感は十分。スクエアスタンスで構えた姿は雰囲気があり、弧を大きく描くスイングで、ボールをアッパー気味でボールを捉えていく選手なので、捉える打球の1つ1つに角度があり、打球も鋭い。もう少し打撃の比重を大きくしていけば、もっと長打を打てる選手だといえる。とはいえ、佐賀商にとって彼の投手復帰は望まれている。二刀流としてさらに存在感を示してくれることを期待したい。
村上宗隆(九州学院)
敗れた九州学院。やはり熊本地震の影響で、満足いく練習、実戦はこなすことはできなかったようだが、それでも5回裏に無死満塁のチャンスから元村 優吾(3年)の適時打、6番田上将太(3年)の2点適時打などで5点を追い上げたのはさすがだった。
その中でも存在感を示していたのは3番キャッチャーの村上 宗隆(2年)だ。1年生の時はファーストだった村上。捕手に転向してどうかと見ていたが想像以上に動きが良く、何よりチームを引っ張っていく意志が伝わり、まさに司令塔という言葉に相応しいぐらい、周りに指示を与えたり、ポジションを変えたり、投手にタイミングよく声をかけたりと、気遣いがしっかりと出来る選手で、なんといっても187センチ93キロと高校生離れした体格をした選手が、大きな声を出して引っ張っていくわけである。一番目立っていたというのはいうまでもない。キャッチングも安定していて、特に目を惹いたのはスローイングで、コンスタントに1.90秒〜2.00秒台のスローイングを見せる。どのスローイングもベースカバーに入った野手の胸元にコントロールできる制球力。さらに一直線に伸びていく球筋の良さと、送球の質もかなり良かった。
ゴロに対してのフットワークも軽快で、捕手としての守備力はかなり高く、全国的に見ても彼以上の高校2年生捕手はいないのではないだろうか。 また自慢の打撃も、2安打で、長打なしにとどまったが。フライの上がり方、打球速度1つにしても他の選手とは違う。腰が据わったバランスの取れた構えから、一本足でゆったりと上げてから間合いを測り、トップを深く形成してから、腰を鋭く回転させて、ボールを捉えることができる。この選手を見るのが1試合だけに終わったのがもったいないと思わせるほどの打撃力があった。
今年の2年生野手は清宮 幸太郎を筆頭に逸材が多いが、捕手としてこれほどの守備力が備わっている選手はそうはいないし、打撃力も非常に高い。ポジション的なものを考えると、最も評価が高くなるのは村上 宗隆かもしれない。それだけ捕手は特殊なポジションであり、それで一発長打も量産できるとなれば、自ずと評価は上がっていく。
現時点でも来年の高校生を代表するキャッチャーと挙げられるほど。ぜひ最終学年まで追いかけていきたい逸材だった。
(文=河嶋 宗一)
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