プレイバック選手権 「強豪校を牽引する2人のバッターが魅せた2008年の夏」
2008年の夏。第90回全国高等学校野球選手権記念大会といえば、大阪桐蔭が圧倒的な強さで優勝を果たしたという印象をお持ちの方も多いだろう。90回の記念大会ということで、全55代表が出場。さらに北京オリンピックの開催時期と重なったため、大会史上最も早い8月2日に開幕。そのため、全出場校揃っての組み合わせ抽選会や甲子園練習などは行われないという異例の大会でもあった。そんな2008年の夏、ともに1年時から強豪校で期待され続けこの大会で大輪の花を咲かせた2人のバッターがいた。トップバッターとしてチームを優勝に導いた大阪桐蔭の3年生・浅村 栄斗(埼玉西武ライオンズ)。そして横浜の2年生4番打者、ハマのゴジラこと筒香 嘉智(横浜DeNAベイスターズ)だ。
浅村は大阪桐蔭で1年秋からベンチ入り。チームの1つ先輩、中田 翔(北海道日本ハムファイターズ)などから期待を寄せられ、力を蓄えていく。2年春にチームは選抜に出場するがベンチ入りは逃してしまうが、2年夏にはセカンドとして全試合スタメン出場。大阪大会準優勝に貢献する。
そして3年生の夏、浅村はついに甲子園の土を踏む。1回戦の日田林工戦では試合開始後の初球をヒット。その後も打ち続け、この試合6打数5安打、リードオフマンとしてチームを勢いづかせる。2回戦では第1打席にヒットを打つと第2打席にホームランを放ち長打力も披露。さらに1点ビハインドで迎えた8回には起死回生の同点ホームランをレフトスタンドへ叩き込むなど勝負強さを見せる。警戒される中、3回戦、準々決勝でも1安打、四球を選び得点に絡む。さらにショートの守備でもチームに貢献。思い切りの良さと、じっくり待てる冷静さ、決定力を持つ1番打者として大阪桐蔭を牽引する原動力となる。
一方、関西強豪校からの誘いを断り鳴り物入りで横浜に入学。すぐに練習試合に出場するなど将来を嘱望された筒香。1年生らしからぬ風貌と体付き、堂々とした立ち姿は、対戦相手に威圧感を与えるほどだ。新チームとなった秋の大会では神奈川、関東を制し第38回明治神宮野球大会に出場。「あの横浜で3番サードとして活躍を続ける1年生・筒香」にますます注目が集ることは必然だった。
[page_break:プロの舞台でもチームの中心に]順調に成長を続ける筒香だったが、やがて苦しい時期も経験する。第80回記念選抜高等学校野球大会では北大津と対戦。筒香は4打数1安打と二塁打を放つものの打点は無し。チームは初戦敗退となった。このころには腰痛を発症。神奈川県大会も不振は続き、打率は0.167と落ち込んだままだった。チームは安定した試合運びを見せ神奈川を勝ち進み、見事優勝。甲子園出場を決める。入学時からチームの中軸として活躍を続けてきた筒香からしてみれば、「連れていってもらった」という悔しさが強かったかもしれない。だが、2008年夏の甲子園に出るなり復調。その才能が開花する。
初戦、横浜は浦和学院と対戦。関東の強豪対決として注目を集める中、7番ファーストで出場した筒香は第1打席、いきなり2ランホームランを放ち先制点を奪う。8回にも2点タイムリーを放ち、チーム6得点のうち4打点を挙げる大活躍。チームは6対5で浦和学院に競り勝った。
2回戦の広陵戦からは4番に復帰。2安打2打点とチームの勝利に貢献すると、仙台育英戦でも2安打を放ち、好調をアピール。横浜の4番として対戦相手にプレッシャーを与えていく。そして迎えた準々決勝、聖光学院戦。第3打席に2ランホームランを放つと、続く第4打席にはライトへのグランドスラム。さらに第5打席には2点タイムリーツーベースを放つ大活躍。1試合8打点の大会タイ記録を打ち立てる。
そして準決勝は大阪桐蔭と横浜が対戦する。大阪桐蔭は先制を許すも3回に5点を奪い逆転し、優位に立つ。浅村は試合が膠着しかけた7回にはツーベースで出塁すると、スクイズで生還。再度チームに流れを持ってくる活躍を見せる。一方筒香は1、2打席と四球を選ぶ。8回に1安打を放つも、やや勝負を避けられた感は否めなかった。結局この準決勝は9対4で大阪桐蔭が勝利。続く決勝戦では常葉菊川相手に17対0という大差を付け、大阪桐蔭が2度目の優勝を決めた。
プロの舞台でもチームの中心に侍ジャパンでも活躍を見せる筒香嘉智(横浜DeNAベイスターズ)
その年のドラフト会議で浅村は埼玉西武ライオンズから3位指名を受け入団。1年後、筒香は横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)から1位指名を受けプロ入りを果たす。チームの主力として成長。2015年には共に第1回WBSCプレミア12の日本代表候補選手に選出され、筒香はそのまま代表入り。大会に出場し、打率3割8分5厘、5打点の活躍を見せた。
浅村と筒香。それぞれ打順や役割こそ違えど、高校時代からの自分達の強みを磨き、スタイルを貫いている。甲子園に出場することはもちろん、その舞台で鮮烈な印象を与えることはさらに難しいが、彼らはやってのけた。そのうえプロ野球の世界で活躍を続けることはさらに厳しい道となるが、両選手ともこれからも力強いプレーをファンに魅せてくれるはずだ。2人が大活躍をした2008年の夏は、ファンが「期待をさせてくれる選手」という得難い存在を見つけられた、そんな夏だった。