4月24日のスウォンジー・シティ戦に快勝したレスター・シティが、プレミアリーグ優勝にまた一歩近づいた。しかも、翌25日に行なわれたWBAとの一戦で、2位のトッテナム・ホットスパーが1−1の引き分け。両者の勝ち点差は「7」に広がり、次節のマンチェスター・ユナイテッド戦で勝ち点3を挙げると、レスターの優勝が決まる。「奇跡の栄冠」が、いよいよ目前に迫った。

 しかしスウォンジー戦は、不安を抱えながら臨んだ。理由は、FWジェイミー・バーディーの出場停止。今季リーグ戦で22ゴールを叩き出しているバーディーの穴を、いかにして埋めるか――。ここが、レスターに課せられた最大のテーマだった。ところが、この日の彼らはエースの不在を微塵も感じさせない堂々たるプレーを披露し、今季チーム最多タイとなる4ゴールを叩き出して大勝した。

 バーディーのいないレスターは、いったいどう変わるのか? 世界中が注目するなか、クラウディオ・ラニエリ監督が示した答えは、レオナルド・ウジョアと岡崎慎司を2トップに据えた4−4−2だった。これまでの陣形を崩すことなく、バーディーの代役にウジョアを投入する。さらに、左サイドMFのレギュラーであるマーク・オルブライトンを代え、スピード突破に長けるジェフリー・シュラップを配してきた。

 こうしたバーディー不在時の対応策について、「基本的に、特別な指示はありませんでした」と岡崎は明かす。そのうえで、15試合連続出場を果たした彼自身のプレーについても、あえて「今のスタイルを貫いた」という。

「自分のプレースタイルを変えないことがベストかなと。バーディーがいないことで、点は獲りたい。だからといって、前へ行き過ぎたら、それこそシーズン前半戦のような迷ったプレーになってしまう。だから、今までどおりのプレーをする。そして、ゴールを奪えば、自分のプレースタイルから点が獲れることを証明できると思った」

 ピッチ上での岡崎は、守備でも貢献する「今までどおり」の動きを見せていた。敵から見て斜めの位置からプレスをかけ、相手をサイドへ逃がしていく。さらに、プレスバックして敵からボールを奪い、チャンスにもつなげた。一方の攻撃では、味方といい距離感を保ちながらパスワークに加わり、MFリヤド・マフレズとの良質なワンタッチパスで局面の打開を図る。最前線と中盤を広く動き回る岡崎の「脚力」があったからこそ、レスターは攻守のバランスが適切にとれていた。言わば岡崎は、"戦術上のキーマン"だった。

 この試合のもうひとつのポイントが、2トップでコンビを組むウジョアとのコンビネーション。これまではバーディーがピッチに立ち続けていたので、ふたりの同時起用は時間も回数も極めて限られていた。連係をうまくとりながら、いかに自分も輝くか――。この点についても、岡崎なりの工夫と考えがあった。

「俺の考えでは、レオ(・ウジョア)は、『ゴール前にいるべき選手』。だから、あいつがボールを競り合い、そのこぼれ球を俺が拾う形を出そうと思った。あいつのパワーをセーブさせ、ボールを奪ったときに前線にいるようにさせておく。ジェフ(・シュラップ)のパスからボールを押し込んだウジョアのゴール(※スウォンジー戦・3点目)も、その流れで決まった。自分としては(ゴールが奪えず)悔しいんですけど、それは自分が生きるための方法でもある。あいつの動きと被らないようにした」

 言うなれば、最前線に近い位置でプレーするバーディーの役割をウジョアに託し、岡崎はその後方で支えながらゴールを目指した。バーディーの代わりに入ったウジョアが2ゴールを挙げる活躍を見せたが、その裏では、補完性を考えながら献身的に走り回る岡崎の姿があったのだ。

 だが、反省も口にする。口をついて出たのは、やはりゴールを奪えなかったことへの悔しさ。28分には右足でシュートしたが、DFに当たって枠内に飛ばなかった。67分にもペナルティエリア内からシュートを打つも、芯に当たらなかった。

「守備をやったうえで、後半にゴールチャンスもあった。ゴールを決める奴は、ああいうところで簡単に決めてくる。リヤド(・マフレズ)の先制点もそうです。あのゴールも全然簡単じゃないと思うけど、当たり前のように決める。自分とバーディー、そしてリヤドとの差は、その点に尽きる。冷静に踏ん張って、狙いどおりのシュートを打てるのは、ゴールを決めてきた奴の自信。しかし、俺にはあそこまでの余裕がなかった」

 岡崎は自身の役割と立ち位置について、「ゴール以外のプレーでは、他の選手にはないプレーができている。でも、それ(守備やハードワーク)ができないと、試合に出られない」と説明する。つまるところ、試合に出るためのハードワークであり、献身的な守備なのだ。

 しかし、チームの絶対的存在へと評価を高めるにはゴールが欲しい。守備をこなしながら、チャンスと見れば最前線まで突っ走ってシュートを放つ。ただ、守備に追われている分、シュートの数はどうしても少なくなる。「やるべきことはもうわかっている。自分のすべてをそこで出し、その一瞬一瞬にかける」。一本一本のシュートの精度が極めて大事になること、さらに、ゴールチャンスで決め切る力が足りないことを、本人も自覚している。だから、こうも言う。

「今は結果を出す奴らがいて、ひとりのサッカー選手として、悔しさをめちゃ味わっている。1試合のなかで何もできないと、のたうち回るぐらいの悔しさを自分のなかに秘めている」

「このまま優勝しても、何の満足感もなく終わってしまう」

 献身性やハードワークが評価されている岡崎だが、彼のマインドはまさしくストライカーのそれだ。それゆえ、今季ここまで5ゴールという現状に、まったく満足していない。

 折しも、次節のマンチェスター・U戦もバーディーは出場停止でピッチに立てない。レスターにとってはピンチだが、FWの岡崎にとってはチャンスである。しかも舞台は"夢の劇場"――オールド・トラフォード。「赤い悪魔」を蹴散らす一発を決めて優勝へと導けば、岡崎慎司の名は「殊勲のヒーロー」としてイングランドで語り継がれていくだろう。

 次節は、「悔しさ」を「歓喜」に変えるチャンスである。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke