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おはよう、篤人。夜が明けたよ。

今日から私たち、どんなつながりなのかな。やっぱり友だちかな。親戚じゃないし、仕事関係でもないし、恩師でもないし。友だちとしか言えないよね。「新郎の御友人」なんだよね。友だちって難しいな。友だちなら笑顔でいなきゃいけないよね。わかってる、わかってるんだけど。ちょっとだけ難しいな。難しいけどやらなきゃだな。できないなら去らなきゃだな。難しいな。すべて壊してしまうのが怖かったみたいに、すべて失くしてしまうのも怖いな。頑張らなきゃ。頑張らなきゃ。頑張らなきゃ。

私、ちゃんとお祝いするよ。おめでとうって言うよ。前から言ってたじゃない。「堀北真希ちゃんと結婚しちゃいなよ」って。嘘じゃないよ。だから讃美歌も歌えるし、ライスシャワーも投げられる。全員の笑顔に溶け込んでみせる。私なんて最初からいなかったみたいに、当たり前の風景になってみせる。誰が撮ったどんな写真の中でも、私を透明にしてみせる。頑張る。頑張る。頑張る。

だって、私、これから幸せになるんだから。

上手く言えないけれど、篤人の幸せが私の幸せなの。篤人が幸せだったら私も幸せだし、そうじゃないなら私もそうじゃないの。私に何かできることがあれば一番よかったけれど、それが篤人の幸せとちょっとでも違うのなら、やっぱりそれは私の望み通りではないの。一番じゃないかもしれないけれど、私にとっても今日は幸せをつかむ日なの。篤人が一番の幸せをつかんだ世界を、私が共に生きていく記念日なの。始まりなの。

私ときどき「やり直しができる時計」があるんじゃないかって思うんだ。例えば、試合開始1分でオウンゴールしちゃったら、なかったことにしてもう一度試合をやり直したくなるじゃない。「今のなし」ってしたくなるじゃない。そんな風に、哀しいときや辛いとき、少し前に戻ってもう一度やり直す時計。ひょっとしたら私、その時計をずっと使ってきたのかもしれないって。篤人のことを強く想うと、不思議と願い通りになってきたから。

そうやって私は、何度も何度もやり直して、何度も何度も後悔して、何度も何度もこうじゃないって叫んで、時間をループしてきたのかもしれない。ときには私の一方的な幸せだけが満たされるループもあったかもしれないけれど、「これでいいですか?」って問われたら、私やっぱり戻ってきてしまったと思う。ダメなんだぁ、どうしても。私にはあげられないものが多すぎるよ。

「お前だけがいればそれでいい」って言ってもらえたら、そりゃあ心も揺らぐよ。篤人がそう言うんなら、それでいいじゃんって自己中になってしまいそう。けれど、いつか必ずごまかし切れなくなる。「私を選んだループ」は彼にとっての一番ではないということを、誰よりも私が知っているから。それじゃ、篤人も私も、台無しじゃない。一番の幸せを見つけたんじゃなく、ほかに何もない世界まで堕ちてるだけじゃない。お互いを抱き締める強さで、天使の羽が折れてしまったら、それは幸せとは言わないよ。

嗚呼、堀北真希ちゃんに生まれたかった。

私が堀北真希ちゃんだったら、よかったのに。私が堀北真希ちゃんだったら、自信をもってオススメできたのに。私が堀北真希ちゃんだったら、すべてをあげられるのに。私が堀北真希ちゃんだったら、私が選ばれたループで世界を固定しようって思えたのに。私が堀北真希ちゃんだったら、篤人の一番と私の一番が重なったかもしれないのに。でも、私は堀北真希ちゃんじゃないから、これが精一杯。大切な人の一番を壊さないように、精一杯の笑顔が精一杯。

もう少し頑張ったら、私の願い叶うの。もう少し頑張ったら、夢に届きそうなの。あとどれぐらいつづくかわからない今日を乗り越えられたら、あとはもうずっと笑顔でいられると思う。でも、もし、今日を乗り越えられなかったら、私はもう笑顔にはなれないと思う。そのとき私が穢してしまうだろうものは、私の一番大切なものだから。

お願い、毎日「幸せだよ」って言って。彼女に向ける最高の笑顔を見せて。彼女のメールだけはすぐ返信して。素敵な食卓を囲んで。ソファで並んで映画見て。芝生のうえで寄り添って昼寝して。彼女にたくさん贈り物して。充実して。張り切って。怪我治して。彼女に勝利を捧げて。素っ気ない指環に素っ気ないキスして。結果で彼女を守って。どうしても苦しいときは彼女だけにこっそり打ち明けて。ひとりで頑張らないで。私がいないとダメなんだって彼女に思わせて。友だちと遊んでもいいけれど、ときどきにして。できるだけ家に帰って。誕生日は早く帰って。クリスマスにはオーロラの下まで連れてって。いつか家族が増えたら見たことのないガッツポーズして。もっと充実して。もっと張り切って。髭は剃って。家族に勝利を捧げて。内緒でスパイクにイニシャル入れて。家族の時間を邪魔されたら何よりも怒って。家族が傷つけられたら誰よりも激しく戦って。ずっと離れないで。支えてあげて。支えてもらって。添い遂げて。幸せを謙遜しないで。

そうやって、これから訪れるすべての朝、すべての夜に、世界一の幸せを見せつけて。ここは篤人が幸せをつかんだ世界なんだって、確認できるように。篤人が幸せなら、すべてを肯定できる。私が選んだ世界は正しかったんだって思える。この世界を壊さないように守っていくことで、私も幸せになれる気がする。頑張れる。

遠くの春を想うように、ずっと見てるから。

喜びのときも、哀しみのときも。

富めるときも、貧しいときも。

病めるときも、健やかなるときも。

あなたに幸せがある限り、

私も幸せであることを誓います。

一生、幸せにしてね。