遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第58回】

 5月17日から24日にかけて、日本各地を転戦して総合優勝を競うツアー・オブ・ジャパンが行なわれた。TeamUKYOは今年で4度目の挑戦。世界の強豪相手に、TeamUKYOはどのくらい戦えたのか?

 毎年、5月中下旬に約1週間のスケジュールで行なわれるツアー・オブ・ジャパンは、秋のジャパンカップと並び、日本で開催される数少ない国際的なレースとして独特のステータスを持つ。ワールドツアーチームやプロコンチネンタルチームなど、世界水準の強豪も参加するため、ファンやメディアからの注目度も高い。一方、日本国内を主な舞台として戦うチームや選手たちにとっては、今の自分たちの実力が世界のレベルで見たとき、どのあたりにあるのかを推し量ることができるという意味でも貴重な機会といえるだろう。

 チーム結成以来、毎年このレースに挑戦し続けてきたTeamUKYOは、今年が参戦4回目となる。昨年の2014年大会は個人総合で4位(ホセ・ビセンテ・トリビオ/現マトリックス・パワータグ)、チームとしては総合優勝を逃したものの、トップと19秒25の僅差で2位に終わった。2015年はその結果よりも高いリザルトを目指し、レースに臨んだ。参戦メンバーは、キャプテンの土井雪広を中心に、山本隼、サルバドール・グアルディオラ、パブロ・ウルタスン、オスカル・プジョル、ダニエル・ホワイトハウスという布陣だ。

 全8日・計7ステージの戦いは、5月17日(日)の大阪・堺ステージから始まった。

 この日のレースは、仁徳天皇陵前をスタート地点にして2.65キロの公道を使った特設コースで、1周のタイムを競う個人タイムトライアルだ。選手たちは30秒間隔でひとりずつコースインし、100分の1秒単位でタイムを競う。プロコンチネンタルチーム、ドラパック・プロフェッショナル・サイクリング(オーストラリア)のブレントン・ジョーンズが最速タイムを記録し、初日ステージの優勝者となった。

 TeamUKYOを率いる片山右京監督は、オープニングディの各選手の走りを振り返り、まずまずの内容だった、と振り返った。

「今日は特に戦略やオーダーなどもなく、選手全員がレース全体のウォームアップのようなつもりで臨みました。レースが大きく動き始めるのは第2ステージ以降、特に終盤の富士山ステージと伊豆ステージになると思うので、そこでいいレースをできるように気を引き締めて各ステージに挑みます。今年のツアー・オブ・ジャパンは、個人総合を狙うのではなく、チームとして上位成績を狙っていきたいと考えています」

 今年のツアー・オブ・ジャパンは、移動日の月曜をはさみ、火曜以降は連日レースをしながら少しずつ東へと移動するスケジュールだ。レース2日目となる19日は、今年から新設された三重・いなべステージ。前半区間が下り、後半が上り基調のコースで、スカイダイブ・ドバイ・プロサイクリングチーム(UAE)所属のチュニジアチャンピオン、ラファー・シティウィがこの日のステージを制した。日本人最上位はTeamUKYOの土井雪広(21位)。

 20日(水)の第3ステージは岐阜・美濃。1周21.3キロの周回コースは、直角コーナーや1000メートルのロングストレートを備え、選手とチームの戦略が結果を大きく左右するレイアウトだ。レースは、ラストの集団スプリントを制したニコラス・マリーニ(イタリア/NIPPO・ヴィーニファンティーニ)がステージ優勝を挙げた。トップとタイム差なしの6位でフィニッシュした土井は、この日も日本人最上位。

 翌日、長野県の南信州で行なわれた21日(木)の第4ステージは、123.6キロの走行距離を終えて上位23名がタイム差なしのフィニッシュとなった。この日、勝利を挙げたのは日本のコンチネンタルチーム、マトリックス・パワータグに所属するベンジャミン・プラデス(スペイン)。TeamUKYOでは、土井がタイム差なしの17位、ホワイトハウスはトップから42秒遅れの25位でゴールした。

 第5ステージの富士山ヒルクライムは、ツアー・オブ・ジャパン全スケジュールのクイーンステージともいうべき難関コースだ。全長はわずか11.4キロだが、須走口から富士あざみラインを5合目まで一気に駆け上がる激坂レイアウトで、区間の最大勾配は22%に達する。かつては「40分を切るのは不可能」とも言われた難コースだが、昨年のレースではミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン/タブリーズ・ペトロケミカル・チーム)が38分51秒という驚異的なタイムで勝利し、周囲の度肝を抜いた。

 しかし今年は、ラヒーム・エマミ(イラン/ピシュガマン・ジャイアント・チーム)がさらにその記録を短縮する38分27秒のタイムで優勝。しかも、イラン人選手はこの日のトップファイブを独占し、昨年の覇者ポルセイェディゴラコールが総合首位のリーダージャージを奪取と、圧倒的なイランパワーを見せつける1日となった。

 23日(土)の第6ステージ・伊豆は、最初から最後まで激しいアップダウンが続く、非常に難易度の高いコース設定だ。圧倒的なスピードの力勝負にメイン集団の人数はどんどん削られていき、そこから飛び出したヴァレリオ・コンティ(イタリア/ランプレ・メリダ)が後続を振り切って優勝。2位もランプレ・メリダの選手で、ワールドツアーチームの底力と層の厚さを見せつけた。また、リーダージャージはポルセイェディゴラコールがキープし、イラン勢の実力も改めて強く印象づけた。

 レースを締めくくる最終日・24日(日)の東京ステージは、日比谷をスタートし、大井埠頭の周回コースで争うクリテリウム。ゴール前数百メートルの激しいスプリントバトルを制したのは、昨年同様ランプレ・メリダのニッコロ・ボニファジオ(イタリア)。土井はタイム差なしの10位でゴールした。

 8日間・計7ステージのスケジュールを終了して、個人総合はミルサマ・ポルセイェディゴラコールが昨年に続き2連覇。また、チーム総合ではピシュガマン・ジャイアント・チームが優勝と、イラン勢が圧倒的な強さを見せつける結果になった。そしてTeamUKYOは、チーム総合11位という結果に終わった。

 この1週間、チームに帯同し続けたTeamUKYO監督の片山右京は、「正直なことを言えば、悔しい気持ちやガッカリするところもあるけれども......、後ろを振り向いても仕方ないし、道は前にしかないので、今の課題を克服して進んでいくしかないですね」と、悔しさを抑えながら、つとめて明るい表情でそう話した。

「(TeamUKYOの)外国人選手たちの体調不良で、土井君が孤軍奮闘せざるを得ない状況になった面は否めないけれど、マネージメントの甘さという意味では監督責任。ひとつ糸がほころぶと、どんどん崩れて最後はボロボロになってしまうことを、今回は改めて痛感しました」

 ひとつの戦いを終え、今週末の5月29日(金)からは、また新たな戦いのツール・ド・熊野が始まる。

「熊野では土井と畑中(勇介)を中心にして、アシスト勢はコンディションやモチベーションを考えて、ラインアップを月曜夜までに決めたいと考えています」

世界の頂点は、遥かな高みにある――。日本側からそこにいたる道を眺めたときの壁は、とてつもなく厚く、険しい。今年のツアー・オブ・ジャパンは、そんなことを改めて強く感じさせたレースだった。

(次回に続く)

西村章●構成・文 text by Nishimura Akira