【大阪住民投票】「応援でけへん」西成の住民たちが一転「都構想反対」に
5月17日、橋下徹大阪市長が目指す「大阪都構想」の住民投票が行なわれる。この大阪都構想を巡っては識者や大阪市職員の間から、「財源が豊富な大阪市を大阪府に吸収合併する形に他ならない」ことから反対の声が多い。
本サイトでも度々、大阪都構想における「橋下市長 vs 大阪市職員」の様子を伝えてきたが、住民投票を前にして大阪市職員たちに意外な援軍が現われた。
路上生活者、日雇い生活者、生活保護受給者たちが集うあいりん地区、地元では「釜が先」の旧地名のほうが通りがいい大阪市西成区の住民たちだ。
「ちょっと公務員試験が受かっただけでヌクヌクと生きてきやがって。ラクして給料もろてるくせに。わしらに『働け、ちゃんと生活しろ』と口うるさい。そんな公務員(市職員)を橋下市長がやっつけてくれると期待してたんや」(西成の日雇い労働者・62歳男性)
都構想実現で潤沢な福祉を期待していたのに政治家・橋下徹氏の登場は、生活に困窮する路上生活者や生活保護受給者たちにとってヒーローそのものだった。しかし、大阪府知事、大阪市長を歴任した橋下徹氏の政策は、平たくいえば「緊縮財政」だ。
大阪市が大阪都として吸収されると生活保護費をはじめ福祉にかける費用も削減は必須である。もしかすると自分たちの生活を脅かしかねない。最初は橋下市長の劇場型政治パフォーマンスに踊っていた西成の住民も、最近になってようやくそこに気づいてきたようだ。大阪市から生活保護受給を受けている住民ならなおさらだ。
そんな大阪市西成区の住民たちは今回の大阪都構想の雌雄を決する住民投票をどうみているだろうか。話を聞いてきた。
「大阪の二重行政をなくす。せやから福祉にかける費用も手厚くなると思うてたんや。けど、よう話聞くと橋下市長は生活保護受給率を減らす方向というやないか。とても応援はできへんな」(西成区に住む生活保護受給者・Aさん・61歳男性)
実際、大阪市西成区の生活保護受給者の間では、Aさんをはじめ大阪都構想実現により橋下市長がより生活保護受給費を潤沢に支給してくれものると思い込んでいた節がある。
「橋下市長が市役所をなくすゆうから、それはうちらみたいな生活の厳しい弱者の味方と思とった。でも最近、テレビ見とったら、大阪市から大阪都になっても、うちらの生活がよくなるわけやないらしいな。なら別に大阪都にせんでもええんとちゃうか? なんか騙された気分やで……」(同・Bさん・65歳男性)
こうした思い込みは日雇い生活者や路上生活者も同じだ。彼らは大阪都構想が実現すれば、自分たちの生活が今以上に潤うと信じて疑わなかった。
大阪都実現でウチらにカネ配ってくれると思ってたわ「大阪都になれば無駄な出費が抑えられる。ええことやないか。でもそれは日雇いで頑張ってる者のために橋下市長が頑張ってくれると思うてたんや。けど、今さら都構想と日雇い生活者の生活は別モノやといわれると困るな。それなら都構想は賛成できへんで。あんたらマスコミの伝え方も悪いとちゃうか?」(日雇い生活者・Cさん・55歳)
Cさんが言うように都構想住民投票を前にしてマスコミが正しく情報を伝えていないとの不満の声は路上生活者の間からも聞こえてくる。
「橋下市長が出てきたとき、そらマスコミも“正義の味方”と持ち上げてたやないか? で、なんや? 大阪市が大阪府と一緒になったらその分、浮いたカネは大阪都、つまり役所に入るんやて? それならうちらの生活の足しにも何にもならへんやないか。てっきり大阪都が実現したらうちらにカネでも配ってくれると思うてたわ」(路上生活者・Dさん・70歳)
住民投票の投票権がないDさんを別にして、西成区の生活保護受給者、日雇い労働者の間では、大阪都構想実現による行政のコストカットによる恩恵を自分たちが受けられないのであれば、来る17日の住民投票は反対票を投じると話す。
思わぬ“援軍”の登場に大阪市職員(40代男性)は記者の取材に「西成区住民をはじめとする市民の皆様に、大阪都構想の矛盾を理解して頂けたことで勇気100倍だ」とコメントした。
大阪市職員と西成区住民のタッグに橋下市長はどう迎え撃つか。決戦の行方は投票日17日の深夜にも判明する見通しだ。
(取材・文/川村洋)