小坂裁判長からの質問

── (質問者が小坂裁判長に代わる)宮内・中村の証言で特に印象に残ってい
ることは。

 印象…。「クラサワがカーターって知らないと思いますよ」とか。まあ、そんなところですかね。

── (驚いた表情で)そこが一番印象に残ったんですか。

 他にも結構でたらめを言っていたんですけど…。僕、明確にカーターって使っていたから、それ知らねえってのはないだろう、と。

── 彼らの証言を聞いて、宮内・中村がどういうことをしようをしたのか、君はどう理解した?まずはクラサワとウェッブ・キャッシングの買収で。

 どういうことをしようとしたか…。儲けようとしようとしたんじゃ…。

── 何をして。

 何をして…。

── じゃあ、整理しようか。株交で買収したんだけれども、LDFでLD株を売却しようとしたけれども、子会社による親会社の株式売却は問題なので、ファンドで売却しようと野口に相談してM&Aチャレンジャー1号投資事業組合をつくったと。

 はい。

── 野口のインサイダーを回避するためにVAMA1号をつくったという話もあったよね。

 はい。

── で、被告人から借りた5100株のうち、5000株を売却した、と。

 はい。

── 被告人から借りた株だということを隠すために、VLMA2号もつくった、と。

 はい。

── で、売却益がLDFに戻ってきて、LDの連結決算で売り上げ計上したという話もしていましたよね。

 はい。

── 仮に宮内が言っていたことを最初から聞いていたら、あなたはどうしましたか。

 どの段階からですか。うーん、納得いかない部分もたくさんありますが。

── いっとう最初から。

 結論として、別に何もしなかったんじゃないですか。勝手に動いていきますから。

── 社長として決めるなら。

 賛成するんじゃないですかね。

── 連結に売り上げ計上するんですよね。賛成するんですか。

 賛成するでしょうけど、その前に確実にリーガルチェックを受けたか、とか。

── そういうことじゃなくて、LDがLD株の売却益を売り上げ計上するということにうそはないの?

 うそはないとは思う。

── LDがLD株を売り上げに計上することはできませんよね。

 当時はできると思っていたが…。

── 今でいいんだよ。今、宮内がやろうとしてことを聞いたら。

 今ですか。反対するんじゃないんですかね。

── どうして。

 なんか面倒くさそうだし、やばそうだから。

── どうやばそうなの。

 損しそうだから。

── 経済的には、でしょ。法律的には。

 ファンドを使っても、ダミーだとか批判される。

── LDFがLD株をファンドを使って売却すると脱法じゃないの、と言われるし、それより何よりこんなリスクを負うスキームは社長としてNOだと。

 このスキームの詳細を知っていたら、止めたでしょうね。

── 止めたんでしょ。

 この計画を知っていれば止めたでしょうけど、止められたかどうか。

── 君は宮内らのやっていることをまったく知らないという訳だ。

 はい。

── (資料を示す)これは?

 M&Aチャレンジャー1号投資事業組合と私の貸株契約書。

── (資料を示す)これは?

 熊谷からのメール。

── どちらも貸し株については、重要な部分であるよね。

 はい。

── 記憶は再生できないの?

 はい。

── これは客観的事実ですよね。そうすると、裁判長として君の記憶がどこまで信用していいのか判断できない。この記憶を再生できないと、君の当時の記憶はかなりあいまいなんじゃないの。

 日常業務の記憶の再生は難しい。当時でも印象深いことは覚えていますよ。

── 宮内・中村は、熊谷が説明したと証言している。

 野口さんからされたら覚えているが、熊谷に関しては、絶対なかったとはいえない。

── 明々白々の署名メールも記憶の再生ができないんだから、本当はあったのだけれど、再生できないということもあるの?

 野口さんに会えば再生できる。B社の件もあったし…

── もういいです。「マネーライフ」の関係で、虚偽の風説で起訴されているが、まずLDFがVLMA2号を使ってマネーライフを買収。その後、マネーライフをVCJが買収した、と。実際の企業価値は1億円だったのにも関わらず、合併コンサルタントフィー1億5000万円、架空売り上げ協力費1億500万円を上乗せし、だいたい4億円とした。

 はい。

── また、株式交換比率を1:1とした。

 はい。

── 今、仮にこれを知っていたら、止めていたか。

 今、詳細なことを知っていたら、もっとディスカウントせいと言う。

── そういうことではなくて。

 反対するんじゃないですか。

── なんで?

 訴追される可能性があるから。

── やっぱ、そこにはうそがあるからでしょ?

 そうですねえ。

── 04年9月期に連結経常利益50億円を達成するため、ロイヤル・キューズへの架空売り上げ計上することを仮に知っていたら、あなたはどうする?

 架空だったら取り消しさせる。取り消せたかは分かりませんけど。

── 稟議書が回ってきてチェックする時に、あなたは起案者や執行役員に確認したことはなかったか。

 ありますよ。金が入ってくる方はあまりチェックしていませんでしたけど。

── ということは、入ってくる方は内容を確かめもせず判を押していたと。

 そうですね。訳がわからない会社に多額の売り上げが立っていれば確認しますが。

── (稟議書の起案者や執行役員は)あなたにいつ呼ばれてもいいように、準備しているんでしょ。

  準備しているほど僕が恐いかというと、笑って許すと思っているやつもいましたね。

── VCJの架空売り上げで1億500万円計上しているが、仮に君が知っていたらどうする?

 実際に作業をしている分以外は、取り消すよう働きかけますけど。

── 04年9月13日の戦略会議の後、小宮(徳明VCJ社長=当時=)、宮内、岡本が架空売り上げの相談をメールでしている。会議後、3人がそろって架空売り上げの相談をするとは、会議で何か指示したのか。

 そんなの絶対にない。手っ取り早く楽な方法に走ったんじゃないですか。

── 架空と言わなくても、「黒字にしろ」とか。

 「黒字にしろ」とは毎回言っている。

── 戦略会議でも言っているのか。

 はい。

── 社長が「黒字にしろ」というのは、普通のことなんでしょ。それで架空に部下が走ることは考えられない。架空売り上げをしろと誤解されるようなことを、言ったんじゃないですか。

 絶対にない。自信がある。

── 04年7月7日に、伊地知に対して送った「(VCJが)若干赤字なので、売り上げ付けてあげたら」というメールは、単価を引き上げるよう求めているとは、どう見ても読めないが。

 長ったらしいメールを打ちたくないんですよ。伊地知さんは(社内の席で)隣にいるから、口頭でも説明して、忘れないようにメールもしたんじゃないのか。

── 口頭でも説明した記憶はあるのか。

 それはないですけど。

── もしそうなら「単価を上げればいい」と書けばいいじゃない。

 そこが出てこない。分かりませんかね。

── 分からない。(傍聴席から笑いが漏れる)

事件を振り返って

── まとめ的な質問になるけど、今、自分に非はないと思っているの?(語りかけるように、やさしく尋ねる)

 僕はないと思っていますけど。

── まったくない?

 刑事事件では…。

── 刑事事件のことだけではなく、もっと広く。

 うーん…。

── 宮内らが勝手にやったことで、自分は被害者だと思っているの?

 被害者だとは思わないですけど…。

── じゃあ、さっきと同じ質問。君は非はないと思っているの?

 100%ないかと言われると、もっとコミュニケーションをとった方がよかったとか、もっと注意してみたりしていればよかったとか思いますが。

── 「もっとコミュニケーションをとればよかった」とは、どういう主旨?

 もっとゆっくり話し合いをしながらやればよかった。スピード重視でやってきたのが、ゆがんだ形で刑事事件になった訳で、この事件と因果関係がないかというとそうでもないと思う。

── もう一つの「よく見れば」とは?

 これ以外にも、執行役員を信頼して任せていたのに、架空売り上げの事件に巻き込まれたことがあった。その後は、売り上げの監視体制を強化していました。

── 今、社会に対して言いたいことは?

 私を取り巻く利害関係者の方々には、ご心配をおかけしたことは非常に申し訳なく思っています。調子にのったと言うとあれなんですけど、成長の方ばかりに目がいってしまって組織固めができていなかった。やっぱり目立ちすぎて隙ができてしまったというか、僕も発言が悪かったと思うんですけど、あんまり立派なことを言いたくなくて、どちらかというと立派でないことを好んで言う自分があって、それで「あいつ怪しい。危ないことをしているんじゃないか」と洗いざらい調べられてしまって、狙われたことに関しては僕も甘かった。

── LDの社員に対しては。

 今やっている会社の事業そのものは、世間で言われているよりは、規模の拡大を求めなければすぐ黒字化します。安心して働いてほしい。会社の分割とか、身売りとかあんまり考えずに自分の仕事に誇りを持って働いてほしい。僕のせいというか、具体的にはよく聞いていないが、非常につらい思いをした社員も多いみたいだし、それに対しては申し訳なく思っています。

── 最後に裁判所に対して言っておきたいことは?

 特にありません。公正な審理をしていただいているようなので、非常にありがたく思っています。

【了】

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