東京都中央区にある日本銀行本店(資料写真:徳永裕介)

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「中央銀行総裁としてより慎重に判断していれば、異なる結論に至ったかもしれず、深く反省している」──。日本銀行<8301>の福井俊彦総裁は20日の緊急記者会見で、村上世彰容疑者が運用していた投資ファンド(村上ファンド)に1000万円を拠出していた問題について、繰り返し反省の弁を述べた。その一方で「日銀のコンプライアンス(法令遵守)ルール上、問題があることではない」と強気の姿勢も見せ、総裁を辞する構えは一貫して見せなかった。

 膨らんだ村上ファンドの運用益が05年末時点で1473万円に達したことを示したほか、商船三井<9104>、キッコーマン<2801>、富士通<6702>、三井不動産<8801>、新日本製鐵<5401>と日本を代表する名門企業5社の株式計3万5000株を現在まで保有していることも公表。直近の時価総額で約3400万円にのぼる安定銘柄を保有していることがわかった。

 日銀で行われた会見には、約150人の報道陣が詰めかけた。1時間20分にわたるやりとりの中で、記者が強く説明を迫る場面もあったが、福井総裁は終始淡々と答えていた。そのやりとりの一部は次の通り。

── どの部分が問題だと認識しているか。

 端的に言えば、総裁就任にあたって、民間時代のコミットメントを整理したつもりだったが、1つだけ残ってしまったということ。当初の時点では(村上世彰容疑者が事件を引き起こすことは)判断できなかったが、このようなことになった結果については深く反省している。

── 今回、政府・与党に借りを作ったことで、金融政策の独立性が揺らぐとの見方もある。今後どのように信頼回復していくか。

 政策委員会メンバーに対しては、私の行ったことについてすべて率直に話し、私の立場を十分理解をしてもらった上で、従来通り金融政策運営をしっかりやっていこうと確認した。もともと金融政策の決定、実施は政治の思惑、プレッシャーから完全に切り離されて動いている。今後もそれを守り、経済動向に忠実に前進的な政策を実施することで信頼の基礎を改めて強固にしたい。

── 国会答弁で「大した額ではない」としてきたが。

 2005年12月末に2231万円となるそれ以前は1100万円前後で推移していて、02年は特に959万円と目減りをしている。持ち分の残高が急に大きくなっているという感覚が最近までなかったのが正直なところ。04年12月から05年12月にかけて大きな残高のジャンプがある。報道を咀嚼(そしゃく)している限り、最近(村上容疑者の)当初の志が逸れた方向に行った疑念があったが、それを数字が裏付けているかもしれない。前年の数字とのギャップに驚いた。だから解約したというわけではないが、疑念を強めた材料の一つにはなっている。

── あらゆる立場から中立でなければならない中央銀行の総裁が、ひとりのファンドを立ち上げた若者に対して、支援をし続けてきたことに国民は疑念を抱いている。不適切だと思わなかったのか。

 結果的に好ましくない状況に終わっているということなので、振り返ってその点は深く反省している。村上容疑者だけを応援したわけではなく、民間に出てからは苦労して先端を切り開こうとしている多くの若者を応援してきた。彼のように突出した人は少ないが、地道に努力している若者はたくさんいる。それにお金を出しているというわけではないが。

── 05年の利益には村上ファンドがニッポン放送株、TBS株<9401>の取引で得た利益が入っている可能性がある。ニッポン放送株については、結果的に刑事事件となった利益が含まれ、総裁にリターンしているとも考えられるが。

 株取引の内訳は分からないので、勝手に推測はできない。しかし、悪いものが含まれているかもしれない。全てを私のためには使わないと決めている。

── 結果として村上容疑者に裏切られたという気持ちはあるか。

 法令違反に問われる事態は、気持ちとしては今でも想定外。私はそう簡単に人に裏切られたという気持ちにはならない。きちんと罪を償ってきれいな身になって出てきてほしい。

── 一般人が出資できない特権的なファンドにお金を出すことは、日銀総裁として問題はないか。

 (拠出したのは)民間時代のことであり、そういうファンドの存在を嗅ぎつけて無理に扉をこじ開けたといったことではない。身近な人が通産省を辞めて、独り立ちすることに、自然にそういう気持ちになった。村上容疑者から要請も受けていない。

── 元本の1000万円についても慈善団体に寄付する理由は。

 私の気持ちとしては、元々儲かるとは思っておらず、もしかしたらなくなるかもしれないというのが出発点。利益を生み出す元が正常なファンドの投資活動であれば、元本は放棄する必要なかった。何の確証も私にはないが、世の中のみなさんが不適正な投資だったのではないかと思えば、元本を戻すことは私として気持ち悪いためだ。だが、元本が汚れていたとは思わない。【了】

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