南青山7丁目の木々に囲まれた常陸宮邸。周囲は、都内有数の閑静な高級住宅地。宮邸から交差点をはさんだ向こう側に、かつてオウム真理教の「青山総本部」として使われていた、グレーの5階建てのビルがあった。

空っぽの「青山総本部」跡


かつてオウムが入居していた空っぽのビル(撮影:常井健一)
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 地下鉄サリン事件前夜の95年3月19日、このビルに火炎瓶が投げ込まれるという「自作自演」の事件が起きた。同4月には、マスコミのカメラの目の前で、教団の最高幹部が刺殺された。ビルの前には、毎日多くのメディアが集まり、教団信者の「奇行」を伝え続けた。

 同ビルは91年3月に建設されている。バブルが崩壊し、不動産価格が徐々に値下がりしはじめたころのことである。その後、このビルは、競売にかけられたり、何人かの所有者の間を転々としているが、その間隙を縫うようにして、92年冬、オウムは同ビルに道場を構え、信者を「増殖」する足がかりとした。

 95年12月、東京地方裁判所は教団財産を仮差し押えし、教団に解散命令を下した。96年3月25日、南青山のこのビルは閉鎖された。坂本弁護士事件をめぐるTBSのオウム報道問題で、筑紫哲也キャスターが「TBSは今日、死んだに等しい」と同局番組内でメディア側の責任をコメントした日だった。

 近くの店でアルバイトをしている女性に最近のビルの様子を聞いてみると、「人の姿が見えた時期もありますが、最近は空っぽのようです」と答えた。かつての「青山総本部」ビルは、いまは静まり返っている。

オウムのPC店跡、背後に高層ビル


駅前の再開発が進む秋葉原電気街(撮影:常井健一)
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 ITや電気関係の商店が集中し、最新技術と消費者との接点となっている秋葉原。英語や韓国語、中国語、アラビア語など世界各国の言葉で書かれた表記が立ち並び、外国人観光客にも人気の観光スポットだ。アニメやコンピュータ・ゲームなどサブカルチャーの愛好家、「アキバ系」が集い、最近では彼らの「聖地」として一般にも知られるようになった。

 オウム真理教は93年春、秋葉原の電気街にある雑居ビルの一室に、安価なパソコン機器を販売する店を開店した。店の名は「マハーポーシャ」、サンスクリット語で「大いなる繁栄」という意味を表す。地下鉄サリン事件が起きた95年には、教団幹部の逮捕が相次ぐ中、不正コピーしたソフトを販売したとして摘発、同年11月には閉店に追い込まれた。

 当時、秋葉原の路地では、「ヘッドギア」と称する機械を頭部につけ、異様な衣装をまとう信者たちが「激安の代名詞。激安超特急マハーポーシャ」などとかけ声をかけて、店のチラシを配っていた。自社製のパソコンを、電気街の相場よりさらに安い価格で販売。売り上げは、教団の運営に使われていたという。

 あれから10年・・・。「マハーポーシャ」が入居していたビルには、1階から8階まで中古CD・DVDを中心に取り扱う店舗が入居しており、オウム真理教の跡形は何もない。

 ビルの背後には、秋葉原駅前再開発事業の目玉、「秋葉原クロスフィールド」の2棟の高層ビル(建設中・06年春完成予定)がそびえ立つ。ベンチャー向け投資会社や、筑波大、東大などIT関連の大学院・研究施設が入居することになっている。秋葉原は産学連携によるIT産業拠点に変わろうとしている。(つづく)

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