ビジネススーツの常識を変える

写真拡大

■頑張るビジネスマンを応援したい

そのスーツを着るだけで仕事が一から十までうまくいく――そんな話は残念ながら夢物語と言わざるを得ない。しかし、仕事を手助けしてくれるスーツは確かに存在する。

東京・日比谷。目の前に高級ホテル、ザ・ペニンシュラ東京を望むビルの2階という好立地に、スーツ専門店「ONLY 日比谷店」が今年8月にオープンした。もともとここは京都に拠点を構えるオンリーが運営する「The @ SUPER SUITS STORE(ザ・スーパースーツストア)」が入店していた場所。つまり同じ企業が別のショップ名として再出店したというわけだ。

ザ・スーパースーツストアといえば2段階の手ごろな価格帯でスーツを製作・販売する「ツープライススーツショップ」の草分けだ。ほかにも身長・体形別の商品陳列などといった斬新な手法を次々と採用し、スーツ初心者にも分かりやすい“ビジネスマンのお助けショップ”として名を馳せてきた。業界のイノベーターと言ってもいいだろう。

その会社がこのたび満を持して企業名を冠するブランドショップを展開。中身がまた話題となっている。どんな商品でどういうサービスなのか。気になる内容を確かめに日比谷店を訪れた。

「もともと創業者である会長の中西浩一はテーラーだったんです。仕事をする中で“普通のビジネスマンに適正価格でもっと質の高いスーツを提供できるはず”と、ザ・スーパースーツストアをスタートさせました。いまも当初の考え方は変わりません。ただ、以前に比べてお客さまのビジネスウェアに対する意識がより高く、良いものを求めるようになってきている。そこでもっと本格的なビジネススーツを提供すべく、社名を冠したブランドを立ち上げるに至ったのです」

今回話を伺ったONLY日比谷店店長の吉岡憲秀さんはそう語る。ブランド名が変わり、扱う商品群に変化が見られたとしても、その根底に流れるコンセプトは変わらない。それは「頑張るビジネスマンを助けるスーツを提供する」という思いだ。

 

■ 高品質なスーツを適正価格で提供

「スーツを着るビジネスマンは年齢も立場もさまざまです。お客さまには単に値段の高いものや流行のデザイン、好みのものを薦めるのではなく、一人ひとりのシチュエーションや背景を考慮してその方のビジネスを成功に導くようなスーツをお薦めしたいと考えています。実のところ毎シーズンの商品企画も“売れるものより本当に着ていただきたいもの”を基準として行っています」(吉岡さん)

そんなコンセプトに基づき、今シーズンからプレミアムライン「ONLY PREMIO(オンリー プレミオ)」を展開。働き盛りの中堅や、スーツのことが分かってきてもう少し良いものを手に入れたいという人向けに、高品質のファブリックを使用したスペシャリティーのあるスーツやジャケットを提供する。とはいえ価格は既製スーツで4万8000円〜、オーダースーツでも6万8000円〜(ともに税抜き価格。以下同)と、質に比して大変な“お値打ち品”だ。

吊るされているスーツに手を触れてみると、滑らかでしっとりとした生地の感触としっかりとした仕立て。今日び4万円程度のスーツは巷でもよく見られるが、とてもそのくらいの価格には思えないほどきちんとつくられていることが分かる。

実際に「ONLY」として再出店後は、客層に変化が見られたという。「以前は比較的若い方が多くいらしたのですが、ONLYになってからは50代、60代の目の肥えたお客さまが増えています。店内をじっくり見て回られて『値段のわりには質のいいものを置いているね』とお褒めの言葉をいただくことも。そういったいわばスーツのベテランの方々に認めていただけるのは大変うれしいことですね」と吉岡さんも顔を綻ばせる。

今季のオーダースーツで用意した生地はイタリアの名門生地メーカー、カノニコ社やレダ社、ロロ・ピアーナ社など。今季トレンドのネップなど無地調生地をはじめ、メランジ調のストライプなどヴィンテージ感漂う生地をバリエーション豊富に取りそろえる。大体1シーズンに150種類ほどの生地がそろうそうだ。

■スーツの8割は「自己演出」にかけよ

「私たちが重視しているのが“節度のある感度”。 いくらトレンドといっても、エグゼクティブにふさわしい、品のある生地や仕立てでなければ採用しません」と吉岡さんは力説する。この“節度のある感度”という言葉を取材中何回か耳にした。プライベートのスタイルであればいくらでも自分の好みでトレンドのデザインを採り入れればよい。しかし公的な場で着るビジネスの装いは、脈々と受け継がれてきたルールとマナーを無視するわけにはいかない。

「そうですね。極論かもしれませんが、ビジネスの装いでは好みや流行はせいぜい2、3割で抑えるべきだと思っています。残り7、8割は何かというと、自己演出ですね。ビジネスにおいて自分が求められている役割、あるいは“こうありたい”という立場、それを表現するものではないでしょうか」(吉岡さん)

ここまで明確なポリシーを持ち(もちろん服飾に対する知識と経験が備わっていることは前提条件だが)サポートしてくれるスタッフであれば、安心して服選びも任せられるだろう。

■うれしいサプライズのあるショップ

さて、日本のスーツ販売市場にツープライス制度を初めて取り入れた“創意工夫のオンリー”であるからして、ほかにもさまざまなサービスや試みが成されている。

まずはオーダースーツの早割制度。佐賀県にある自社縫製工場「ONLY FACTORY」の閑散期に次シーズンのオーダースーツの注文を受けることで工場稼働率の無駄をなくし、かつリーズナブルに提供できるというもの。納期は最大2カ月かかるが、20%OFFの価格で注文が可能というおトクな制度だ(ただし次シーズンの生地を使用することが条件。スーツのみ)。

ファクトリーの工場長を中心に開発された技術もビジネスマンにうれしいものばかりだ。「超軽量“空(くう)仕立て”」は通常スーツづくりでは使われない資材を使用し、特殊加工を施すことで、軽量ながら型崩れしないスーツを完成させた。軽くて薄い仕立ては春夏に涼しいだけでなく、重さを感じさせないため着ていて肩が凝ることも少ない。

出張が多いビジネスマンの強い味方が「トラベラー」シリーズ。ジャケット1点にパンツ2点のセットで2通りの着こなしをすることができる。独自の素材はウール100%ながら特殊な糸の撚りや織りによってシワになりにくく、たとえシワになっても回復力が高い。まさにジェットセッター向けのセットだ。これで価格は3万8000円とコストパフォーマンスの高さも目を引く。

ショップにも新しい仕掛けを設けている。それが日比谷店の「ONLY SALON Tokyo」。店内に150平方メートルのビジネスサロンを設け、ここを外出時のオフィススペースとして活用してもらうという面白い試み。今後はフリーWi-Fiの充実や、カウンターやマッサージチェアの設置など「まだ試行錯誤中ですが、頑張るビジネスマンの皆さまに活用していただける空間をつくっていく予定です」(吉岡さん)とのこと。

「いつでもNEWSをつくるショップ、そして企業であり続けたいと思っています」

ビジネスをサポートしてくれるだけでなく、顧客にとってうれしい驚きをつねに提供してくれる。それがオンリーという
ショップなのだ。次の一手はどんなものか、また楽しみだ。

(取材・文・撮影/デュウ)