国が引いた線によって生じる軋轢は想像以上のようだ。いわき市内の地方銀行に勤めている20代青年の話は衝撃的だった。
 「多額の賠償金をもらって使い切れないのか、個人預金残高が膨れ上がっているんです。こんなの、どこも報道しませんよね。僕も被災地の人間ですから東電にも国にも怒っています。でも考えてみてください。最終的に東電が払う賠償金は、今度の電気料金の値上げで皆さんが払うんですよ。それがどんな使われ方をしているか、市長の苦言は実態の1割くらいなもんです」

 カネの妬みにまつわる話といっては失礼だが、気が滅入ってきた。もうすぐ日が暮れる。最後に海に立ち寄ってみる。
 まずは福島県の観光客数第1位だったアクアマリンパークのある小名浜漁港へ向かう。いわき市で運営している小名浜漁業協同組合の魚市場は、まだ完全に復旧をしていない。福島の海では、まだ放射能の汚染ゆえ漁業ができないからだ。

 声をかけた魚釣りをしている男性は、漁師だった。
 「まだ魚が獲れない、だけど船を遊ばせておくわけにもいかない。仕方がないから八丈島に行ってマグロを追いかけているよ。港に船を置いておかないと保障金が出ないからね。そんな状況だけど、飲み屋街はにぎわっているんだよね」と語り、ため息をついた。

 対照的に先客万来なのが“風俗関係”だという話は、港に来る途中の繁華街で、クラブ経営に携わっているという男性から聞いていた。
 「あまり大きい声じゃ言えないけど、出会い系サイトを通じて知り合ったカップルで、地元福島の女と県外の男ってパターン、本当に多いらしいよ。義援金のつもりなのか、カンパする優しい男もいるんだってさ」

 本業の水商売事情についてはどうなのか。
 「原発作業員や東電関係者、復興の土木作業員だけでなく、避難してきた奴らも遊びまくっているよ」
 やはりここでもその話が出た。悪評をバラまいているのは、ほんの一部の人間なのだろうが…。
 全国的に有名な小名浜ソープ街についても聞いてみると、「震災では大変な被害だったけど、今は完全復活してるよ。某チェーン店のAちゃんが大人気で、さっき言った連中が取り合いしているそうだよ」とのこと。ちなみにAちゃんは“ボタンの入れ墨の女”として有名だそうだ。

 小名浜を後にして久之浜の海岸へ。この辺りの被害はあまり伝えられていないのだが、今もかなりひどい状態だ。爆撃にでも遭ったかのように家の土台だけが残った風景が一面に広がっている。2軒ほどポツンと残った家は、まるで大男が暴れ去った跡だ。
 「このあたりは半分ほど、火災で家の棟が焼けたのです。風が強く、火はあっという間に広がりました。残りは津波でもっていかれました。ここで流された人で、遺体が千葉で発見された人もいます。このあたりは土地を2メートルくらい盛り上げて、緑地公園にするそうです」(久之浜地区の住民)

 岸壁にある、亡くなった人にささげた献花が風に吹かれている。カモメが列をなして飛んで行く。
 「福島を忘れないで」−−。いわき市高久地区の仮設住宅に住むご婦人が言っていた。復興への希望は、人間の欲望に邪魔されずに叶えられるのだろうか。