(C) 2010『乱暴と待機』製作委員会
 兄でもない男を“お兄ちゃん”と呼ぶ、垢抜けない丸メガネとスウェット姿の女。
 その女への復讐方法を考えながら、夜な夜な屋根裏から“妹”を覗き続ける男。

 昨年10月の劇場公開後、5月11日にDVDが発売となった『乱暴と待機』は、郊外に並ぶ平屋建住宅の六畳間で奇妙な“軟禁生活”を送る男女の近所に、とある一組の夫婦が引っ越してきたことから、物語が動き始めます。

 妻がいながらも“乱”れた関係を求める無職の男「番上」に、山田孝之。
 妊娠中ながらも“暴”力的なスナック勤めの番上の妻「あずさ」に、小池栄子。
 兄からの復讐を“待”ち続け、人に嫌われることを極端に恐れる女「奈々瀬」に、美波。
 奈々瀬へ復讐の“機”を狙うカセットテープ編集が趣味の兄「英則」に、浅野忠信。

 4人の個性派俳優によって描かれる、狂気を潜ませながら奇妙な関係性によって過ぎていく淫靡で滑稽な日常。原作は、2007年にカンヌ国際映画祭“批評家週間”で上映された『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』に続き、本作が自身二度目の映画化作品となる本谷有希子。監督・脚本・編集は、『パビリオン山椒魚』(2006年)や『パンドラの匣』(2009年)を手掛けた冨永昌敬が担当。

 『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』では、メンバーの福岡晃子が上京時の想いを綴ったチャットモンチーによる主題歌「世界が終わる夜に」が、届くことのない世界への叫びを熱唱。本作では対照的に、やくしまるえつこのポップで浮遊感漂うヴォーカルが印象的な相対性理論と、映画音楽を手掛けた大谷能生によるユニット“相対性理論と大谷能生”が、同名主題歌「乱暴と待機」で甘く不思議なムードを演出しています。

 血のつながらない兄と妹、覗く男と覗かせる女――。正常とは思えない英則と奈々瀬を結びつけているのは永遠の愛ではなく、永遠の憎しみによる壊れることのない関係性です。永遠の愛は疑ってしまうけど、永遠の憎しみなら信じられる。ある意味、究極の純愛と言えるかもしれません。

 一見、正常に見えていたはずの夫婦・番上とあずさも、兄妹・英則と奈々瀬と関わりを持つにつれ、その素顔が徐々にあらわになっていきます。正常と異常との境界なんて、紙一重の差。意外と正常な人間など、世の中に一人も存在しないのではないでしょうか。あなたの周りにも気付かないだけで、たくさんの英則と奈々瀬がひっそりと暮らしているかも知れません。

 覗く男と覗かせる女と、なんやかんやで巻き込まれた夫婦の哀しくも可笑しい、ある意味ラブファンタジー。観終えた時、あなたもすでに英則と奈々瀬に巻き込まれているかも。

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