存在しない法案と闘うジャーナリスト――「このままだとニコニコ動画がなくなってしまう」って本当?

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先週末、ニコニコ生放送の番組中、ジャーナリストの上杉氏がとある「法案」について言及。「きちんと反対していかないとだめです。ニコニコ動画もなくなってしまいます。」と衝撃の発言をおこなった。その件はニュース記事にもなり、2500件以上のツイッター経由でのコメントが寄せられていた。しかし一体それはどういう法案で、なぜニコ動がなくなってしまうのだろうか。まさに寝耳に水で、これが本当だとすればたいへんなことだ。というわけでこのことについて調べてみた。

結論を先にいえば、「ニコ動がなくなってしまう」ような法案は存在しないから安心して欲しい。この発言は、ジャーナリスト上杉氏の勘違いのようだ。

●ちょ、それ、違。。

まずはニコニコ動画ユーザーが寄せた2500以上のツイッター経由でのコメントの一部を紹介してみる。ほとんどが「規制反対!」という声で埋め尽くされている。


・ニコニコ動画もなくなる・・・だと・・・
・何でニコ動が対象になったのか理解できん
・インターネット規制法案はんたーい、とか言うとこのツイートも消されるんですね分かります^^
・法治国家(笑)
・そうはさせないぞおおおおおおお!! おれははんたいじゃああああああああい
・もう、日本は終わりだな 言論の自由もあったもんじゃない
・またチェルノブイリの繰り返しか。 奴らは言論統制したからね。
・菅政権によるインターネット言論統制が始まっていたのか・・・
・新聞やテレビが役立たずなのに、ネット規制されたら日本終了だね。
・ニコ動無くすとか私に死ねっていってんの?反対活動、協力できることならしますよ。

・コンピュータ監視法案でちゃんとググって調べてほしいね。そしたら何が問題なのかわかるのに
・法案の中身も知らないでコメントしてる人ばかり、あきれて言葉も出ない

「ニコニコ動画もなくなってしまう」 上杉隆氏、インターネット規制法案に警鐘 | ニコニコニュース
http://news.nicovideo.jp/watch/nw55715

「規制反対」という声が大勢を占める中、わずかに「ちゃんと調べてみて」という声もある。どういうことだろう。


●ニコニコ動画がなくなる法案って……なんだ?

「ウイルス作成罪法案」「コンピュータ監視法案」「インターネット規制法案」。それぞれ違うもののように見えるが、すべて同じ法案のことを指している。実は同じ法案を指す名前が複数あるのだ。この時点で記者なんかは”クラッ”と軽いめまいを感じてしまう。このような法案の「別称」は、それぞれの立場や解釈で好きなようにつけるならわしがあるようだ。これって、わかりづらいだけのような気がするけど……しょうがない。で、この法案、簡単に言えば、「コンピューターウイルス」をつくった人をきちんと捕まえられるようにするようにする、というのがもともとの趣旨で、そのために刑法を一部改正しているということらしい。この時点で既に”ニコニコ動画”は関係ない。

法務省:情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00025.html

上記は法務省サイトに掲載されている法律案。余談だけどこの法案の中で「ウイルス」は「不正指令電磁的記録」と表現されている。一瞬目を疑う画数の多さだ。

●もうちょっとだけ調べてみる

そもそもこの騒動の発端にまでさかのぼると、ある週刊ポストの記事が出てくる。そのもともとの記事では「コンピュータ監視法案を、震災のドサクサの中で閣議決定した。」と書いてあった。しかし実際閣議決定されたのは、震災が起きる前だった、というオチだ。この件に関しては週刊ポストから訂正記事が既に出ている。その訂正記事の中で、問題とされる部分が具体的に指摘されている。以下に引用する。


引用:
しかし、法案の本当の危険は別の箇所にある。「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」という長い名称と長い条文のうち、刑事訴訟法第197条に新たに加えられた「3項」を引用する。

〈検察官、検察事務官又は司法警察員は、差押え又は記録命令付差押えをするため必要があるときは、(中略)電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、三十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面で求めることができる〉

菅内閣が急いだコンピュータ監視法案の“本当に危険な箇所” (NEWS ポストセブン)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110418-00000002-pseven-pol

週刊ポストとしてはこの部分が問題であるとのことらしい。でもこれって、問題なのだろうか。そしてそもそもニコニコ動画に関係あるのだろうか。

●犯罪摘発のためにログ削除しないように求めるのが問題?

上記引用部分を簡単にいえば、「犯罪摘発のために、捜査当局が通信業者に対してログを消さないように求めることができる」ということである。しかもこれ、拒否したとしても罰則は定められていない。さらに、実際に捜査当局がログを取得するには捜査令状が必要。週刊ポストは「ログを消さないように求めることが問題」と言っているのだが、捜査に必要なログが消えちゃったら捜査が進まないのではないだろうか。「犯罪捜査のために必要なログが消えてしまうのを歓迎する」という週刊ポストの考え方がよくわからない。

しかも仮にこれが問題だとしても、このことで「ニコニコ動画がなくなってしまう」ということにはならないだろう。雑誌側の言説にはやや疑問が残るが、少なくともこれがニコニコ動画がなくなる理由とはなりえない

●存在しないものと闘い続ける理由は何か

しかし上杉氏はファイティングポーズを崩していないようだ。一体何と闘っているのか。記者ひとりで考えていてもわからなかったので、ジャーナリストの井上トシユキ氏にきいてみた。


Q:この法案でニコニコ動画がなくなってしまう可能性があるとのことですが、どうもそうは思えません。何か見落としているポイントはありますか? それとも、上杉さんの勘違いという可能性はないでしょうか。

A:う〜ん、それは多分、単なる勘違いだと思いますよ。

●マスコミとジャーナリストの伝えることは疑おう

ここまで来ると、逆に勘違いであって欲しいと思う。もし、ある意図をもって存在しない恐怖を伝えているとしたらそれはたいへんなことだ。今回の問題は「存在しない恐怖でも容易に拡散する」ということをまたしても証明してしまった。そして、これを止める術は今のところ存在しない。わたしたちはこれまで「マスコミやジャーナリストが伝えることは正しいこと」だと漠然と考えてきたが、一見プロの仕事に見える中にも勘違いやミスが多く存在する。マスコミやジャーナリストが伝える正しそうなことでも、疑いをもってわたしたち自身が調べる癖をつけていくしかない。

(以上、記事本文はここまで。参考資料はガジェ通サーバー上の記事下にまとめてあります)




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