日本はもう“経済成長”をしない?

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 先日行われた参議院議員選挙では消費税増税の他に、景気回復、経済成長も議論の焦点となった。これだけの不況。経済が回復し、成長をすれば日本も明るくなる…そこに希望を覚えてしまうのも無理はないだろう。

 しかし、経済評論家で『プロフェッショナル原論』(筑摩書房/刊)などの著者である波頭亮氏は新刊『成熟日本への進路―「成長論」から「分配論」へ』(筑摩書房/刊)で、「経済成長は絵空事」だと述べ、日本は成長フェーズから新たなフェーズ―「成熟フェーズ」に入っていると指摘する。

 成長から成熟へ。その理由の1つに、GDP(国内総生産)の数値の推移があげられる。
 1990年に452兆円だったGDPはその後も順調に拡大を続け、1997年に514兆円に達する。しかし、その後は全く成長せず、むしろ落ち込みをみせてしまった。それでも2007年には516兆円と10年ぶりに同水準に戻すものの、2008年には再び494兆円と、大幅な下落を見せている。

 つまり日本の経済はここ10年以上、成長をしていないということになる。
 そして波頭氏は、このデータから日本の成長フェーズは既に終わってしまっており、従来型の政策を行うことはかえって国民の生活や財政状況を悪化させてしまうと述べる。

 また、『成熟日本への進路』ではGDPの他にも様々な切り口を使い、日本は「成長」から「成熟」へのフェーズを移ったことを証明。「成長」を前提とした国家ビジョンではなく、「成熟」を前提とした国家ビジョンを打ち立て、経済政策や政治の仕組みそのものを再構築する必要があると、波頭氏は指摘する。

 これまで「成長」を前提とした国家ビジョンを立ててきた日本にとって、この方向の転換はまさにパラダイム・シフト(価値転換)とも言える事態となる。しかし、既に「成長」を望めぬ数値が現れている以上、このまま暗中模索を続けていても良いのだろうか。
 本書には波頭氏が考える、成熟を前提とした新しい社会の仕組みも語りつくされているので、そちらも是非読んで欲しい。
(新刊JP編集部/金井元貴)


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