23分の4、なのである。改めて調べてみると、わずか4人しかいなかった。

2006年8月9日に行われたトリニダード・トバコ(T&T)戦に招集された18人のうち、先の南アフリカW杯に出場したのは4人だけだった。川口能活、田中マルクス闘莉王、駒野友一、長谷部誠である。この4人の名前を、最後まで覚えておいていただきたい。

T&Tを国立競技場に迎えた一戦は、言うまでもなくイビチャ・オシム元監督の初陣だ。台風の上陸が心配されながら無事にキックオフを迎え、17分と22分に三都主アレサンドロがゴールを決めて2−0で快勝している。

この試合に先立って行われた就任会見で、オシムが「現在の代表を日本化させる」と宣言したのは広く知られている。選手の選考基準については「誰かの真似をしないほうがいい」と前置きをし、「明日のことを、これからのことを考える必要がある」と付け足した。4年後を見据えた選考をしていく、という暗喩だっただろう。

「素晴らしい敏捷性、いい意味でのアグレッシブさ、個人のいい技術」を日本人の持ち味にあげたオシムは、そのうえで「走る」ことを選手たちに求めた。

T&T戦後の会見では「日本人のサッカーを考えた場合、日本人は筋骨隆々ではないし、長身でもない。1対1の勝負では不利が出てくる」と語り、「だから、相手よりもどれだけ多く走れるかで勝負しなければならない」と結論付けた。すでに定番化しつつあった「人もボールも動くサッカー」というフレーズをさらに肉付けする意味でも、「走る」ことを強調するオシムのチーム作りは日本サッカー全体の支持を受けていった。

そうしたものと同時に、オシムは二つのことを訴えていた。

ひとつは長身選手の必要性である。就任会見ではこう語っている。

「近い将来、身長の高い選手を見つけるのは難しいと思う。これがひとつの問題だ。決定的な問題とは限らないが」

就任3戦目のサウジアラビア戦後には、さらに踏み込んだ発言をしている。

「はっきりしているのは、優れたストッパータイプの選手が不足しているということだ。背の高い、しっかりしたボール扱いのできるストッパーが」

ジーコが一度も招集しなかった闘莉王を就任当初から最終ラインの軸に据えたのも、高さがあってフィードもできる数少ないセンターバックだったからに他ならない。代表引退を撤回した中澤佑二をすぐに招集したのも、最終ラインの高さを増したかったからだろう。

ドイツW杯代表の巻誠一郎を重用し、我那覇や矢野貴章をデビューさせたのもまた、高さというオプションを重視していた表れと理解していい。彼らが「走る」という大前提を満たしていたのはもちろんだが、点を取るための武器としての「高さ」を、オシムはいつも用意していた。前述したサウジ戦は0−1の敗戦となったが、この試合でオシムが終盤にパワープレーを仕掛けたのは、忘れられがちなトピックである。

二つ目は「インテリジェンス」である。

「システムうんぬんではなく、チームとしてのインテリジェンス、賢い考え方を築いていけるかどうかが問題だ。これができれば、相手に脅威を抱かせることができる。そういうことができるための、チームとしてのインテリジェンスを作り上げたい」

インテリジェンスをそのまま訳せば「知性」になるが、ここでは「サッカーIQの高さ」とでも意訳したほうが分かりやすいだろうか。「いつ、どこで、どんなプレーをすればいいのか」を瞬時に見極める判断力と、実際にプレーに移すことのできる技術を合致させた個人戦術だ。

チーム結成当初のオシムは、「ネガティブなオートマティズム」を取り除くことに心を砕いていた。サイドでボールを持った選手が、ゴール前の状況を考えずにクロスを入れてしまう。ボールをつないでいけと言われたら、0−1で負けている終盤でもつなぎに固執してしまう。どちらもネガティブなオートマティズム=習慣化してしまった不要なクセで、“フットボーラーズ・インテリジェンス”があれば回避できるものである。