シドニーと日本の時差は2時間、シドニーのほうが早いし現在は夏時間だからだ。オーストラリアのラジオ局の記者、マックスは始業した途端に電話を鳴らし続けていた。フィンランドを日本が5-1で下すという結果に、急に危機感が募ったらしい。

 フィンランドの選手構成を聞いて安心したようだ。ついでに情報交換が始まる。

「日本の欠点はわかりきっているよ。まずは背が低いことだ。闘莉王だけが空中戦を背負っているんだろう? それから日本人はあまりに戦術的に動きすぎる。自分のポジションに自分で制限をつけているように見えるよ」

 マックスはアジアカップの時、PKで日本に負けると「試合結果は引き分けだから」とむっつりしながら言った男だ。そのときこっちが喜んでいたのを根に持っていたんじゃないかと思うような、鋭過ぎる突っ込みだった。でも中澤のことは忘れている。そして中澤がフィンランドの選手に競り勝ってゴールしたことは伏せておいた。

 マックスは慌てて言葉をつないだ。

「もちろん日本にはたくさんの特長があることも否定しないよ。動きが鋭いし、とてもスキルフルだ。テクニックがある。そして何より、この試合のために5週間も合宿しているんだろう? コンビネーションもできあがっているはずだ。しかも日本のホームだしね」

 それにしても、と彼は続けた。

「最近のオーストラリアには運がない。インドネシアとのアジアカップ予選も、国内組が中心だったとはいえ負ける試合じゃなかった。2006年以降、どうもアンラッキーな場面が続くんだ。それが今の一番の心配なことかな」

 そんな不安材料があるから、日本のことは分かっているといいながら、5-1という日本の大勝にドキドキしたのだろう。ただ、話している間にマックスの舌も熱を帯び、強気な本来の姿が戻ってきた。そして、どうやらマックスの自信の根拠は、日本をよく知る監督のセリフあるようだった。(つづく)

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