10月15日にポニーキャニオンから発売されたDVD『伊集院光のばんぐみのでぃーぶいでぃー vol.1』が、ひそかにヒットの兆しを見せている。
 昨年から1年弱にわたりBS11で放送された、伊集院光と若手芸人による一風変わったバラエティ番組『伊集院光のばんぐみ』(現在は再放送オンエア中)のDVD化第1弾だが、番組予算の都合で制作費・宣伝費ともまったくかけられず、ほぼ伊集院の固定ファンだけが購入している状況。にも関わらず、発売日当日は大手ネット通販「Amazon」で同日のDVD総合売り上げランキング10位入り、お笑い・バラエティ部門ではその後も上位キープと健闘中。都内DVDショップ各店はその後も品切れ入荷待ち状態が相次いでいる。
 新興デジタルテレビ局の深夜枠放送という“知る人ぞ知る番組”のDVDが、ここまで初動数を伸ばした理由は何か。

 伊集院光は常々テレビとラジオでキャラクターが違うことを公言していて、ラジオ放送での毒性の強いキャラクターは「黒伊集院」としばしば表現される。その「黒伊集院」サイドの個性をテレビ企画に持ち込んでラジオのファンを喜ばせたのが、BS11の『伊集院光のばんぐみ』であった。
 しかし、まだ創設間もないデジタル局の哀しさで、放送当初から番組予算が乏しくスポンサーもつかない状態が続き、一部ファンの評判は良かったにも関わらず、9月末の放送でついに実質的終了(新たな収録をせず再放送を流す)の憂き目に。「DVDが売れたら新しい収録をする」と番組スタッフが伊集院に説明した、と10月13日のTBSラジオ『JUNK 伊集院光・深夜の馬鹿力』で伊集院自身が話していた。

 この仕組み自体は、近年の出版界では珍しくないケースである。雑誌の売り上げ不振と広告収入の減少を、連載マンガやコラム等の単行本売り上げでまかなうパターンと同じ。同じTBSラジオで言えば、25年以上人気をキープしている『コサキン』が定期的に単行本やCD・DVDを発売して番組予算のプールに充てているケースがそれだ。
 ただし『〜ばんぐみ』はやや特殊で、番組収録予算すら出なくなるという超逼迫状態からの措置。放送を毎週楽しみにしていた視聴者ですら、何の前触れも無い収録中止に唐突さを感じたほど。

 DVD発売にあたっても、当初、予算の都合から特典映像も無くオンエアそのままをまとめて収録して売ることになっていたという。それを「視聴者に対して不実」と捉えた伊集院が、オンエアで最も評判の高かった企画「真剣ジャンケン」を「伊集院ディレクターズカット・バージョン」にして責任再編集、約90分の大作をこしらえ上げた。
 そんな厳しい台所事情を本人がラジオで説明したことで、伊集院の固定ファンたちが一斉にDVDを買い求めた結果が、冒頭のスタートダッシュにつながったのではと推測する。

 テレビの人気者がラジオのレギュラー番組を大事にする、という話はよくある。しかし、20年以上ラジオにこだわる伊集院の、自分の放送を楽しみに聴いてくれるファンへの信頼度は尋常でなく高い。この考え方は、彼がかつて落語家だったことに起因しているのかもしれない。
 毎週見たり聴いたりしてくれる番組のファンのために、時間を割いてわざわざディレクターズカット版を作る伊集院の行為は、自分の独演会にわざわざ入場料を払って足を運んでくれた観客に報いるべく、いい高座を聴いてもらおうと懸命に創意工夫する落語家と、イメージがとてもダブるのである。

 もっとも現実問題として、伊集院以外に多くのスタッフや企業がそれぞれの思惑を絡めて関係しており、メディアが大きくなればなるほどその数は増す。それゆえに伊集院個人の思い通りにはなかなか進行しなくなる。その点が伊集院にとって目下の悩みの種だ。『〜ばんぐみ』がDVDショップや「Amazon」で現在入手困難になっているのも、デジタル局の深夜番組という理由で初回プレス数を抑えた証拠だ。業界不振の現在においては、人気が数値に現れていない(つまり過去の実績がない)ソフトに対しては同様の措置が取られる。これは、たとえ伊集院が自分で絶対を主張したところで覆る問題ではない。赤字を畏れる「大人社会」の判断なのである。

 したがって、現状況で手立てを考えるとするなら、有線発の演歌よろしく「固定ファン→クチコミ→メガヒット」の漸次的流れを成功させて、さらに続編、続々編でもヒットを連発し、最終的にわがまま放題できる大御所の地位に登ってしまう……という手段しか無い。幸い、続編にあたる『伊集院光のばんぐみのでぃーぶいでぃー Vol.2』の発売が11月19日に決定している。『vol.1』の好スタートを受けて、『Vol.2』の初動数が大幅に増えることはまず間違いない。
 果たして伊集院は、このDVDでどこまで「大御所への道」をつかめるか。

(編集部:尾張家はじめ)
 
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