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年収格差が叫ばれる現代社会。技術を持っているだけでは評価されず、成果を求められることが多くなってきた。それはなぜなのか?そしてこの厳しい時代を生き残るには、どうしたらいいのか?経済アナリスト・森永卓郎氏が今こそ求められる技術者像を語る。

■Profile
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経済アナリスト 森永卓郎氏
獨協大学 経済学部 教授
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 客員研究員
「年収300万円時代を生き抜く経済学」の著者。数々のニュースコメンテーターにラジオのパーソナリティーと幅広く活躍する経済アナリスト。東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局などを経て現在に至る。専門分野はマクロ経済、労働経済、教育計画など。ミニカーコレクターとしても有名。
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■商品の「付加価値」が生み出した価格格差
格差の拡大が、大きな関心を集めています。確かに小泉内閣の進める構造改革によって、格差が拡大しているのは事実でしょう。しかし、構造改革政策とは無関係に、長期的に続く経済の構造変化もまた、格差拡大をもたらしているのです。
第一次産業が主流の時代は、生産物に大きな付加価値の差がつきません。例えば、お米を考えてみると、普通のお米とブランド米の価格差はせいぜい2倍程度です。しかも、同じ地域で獲れるお米だったら、価格差はもっと小さいでしょう。ですから、お米を作る人に求められるのは、きちんと土作りをしたり、稲を害虫や病気から守ったり、水を管理したりと、まじめな努力を積み重ねて、収量を確保することです。

ところが、第二次産業が主流になると付加価値に少し大きな格差がつきます。例えば、自動車だと大衆車と高級スポーツカーでは10倍程度の付加価値の差がついてきます。そこでは、アイデアや感性などが求められるようになるのです。

第三次産業が主流になると、格差はさらに拡大します。新型自動車の開発で粘土製の模型を作る前段階に「アイデアスケッチ」というものが必要になります。以前、その値段を世界中のデザイン事務所を対象に調べたことがあったのですが、数万円から1000万円を超えるものまで、とても大きな価格差がありました。

つまり、経済構造がサービス化、知的創造化していくと、付加価値の面からも、自動的に格差は広がる構造になっているのです。技術との関係を考えるために、もう少し具体的に日本経済の構造がどのように変化したのかを、消費面から返っておきましょう。


■技術トレンドのスピードを上げる「付加価値」の変化
戦後の高度経済成長の時代は1960年から1975年のたった15年間でした。しかし、その期間に日本の消費構造はとても大きな変化を経験しました。例えば、耐久消費財の普及率をみると、高度経済成長が始まった1960年には、冷蔵庫10.1%、掃除機7.7%、石油ストーブ0.0%、カラーテレビ 0.0%でした。ほとんどの家庭に存在しなかったのです。それが高度成長末期の1974年には、それぞれ96.5%、97.6%、89.6%、90.3%と、ほとんどの家庭が持つようになるのです。
なぜ、こんな劇的な普及率の上昇があったのかと言うと、自分の欲しいものを買っていたわけではなく、「隣の家が買うから自分も買う」という横並び消費が行われたからです。
 
DATA1耐久消費財の普及率1960年vs1974年
この時代は企業にとっては夢の時代でした。なぜなら、トレンドに乗った商品を作れば、みなが横並び消費をしてくれるのですから、必ず売れることが分かっていたからです。技術者も、いかに決められた製品を効率よく作るかだけが課題だったので、ゴールの定まった開発を行えばすみました。