07年度も「拉致」でNHKに放送命令

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   総務省NHKに対し、2007年度も短波ラジオ国際放送で北朝鮮による拉致問題を重点的に取り上げるよう命令を出すことを決めた。放送法に基づき菅義偉総務相が07年3月30日に新たな放送命令をNHKに交付する。この命令は06年11月に次いで2度目で、拉致問題に進展がないことをその理由としている。

   この2度目の具体的な命令について菅総務相から諮問を受けた電波監理審議会は3月14日、06年秋と同様に諮問内容を「適当」と答申した。ただ、NHKの編集の自由に配慮を求めるただし書きを付けている。

「ジェンキンス夫妻も北朝鮮で聞いていた」

   同審議会の羽鳥光俊会長(中央大学理工学部教授)は「拉致問題は大変重要で現在も進行中で、いま取り外すことはないだろうという判断だ。ジェンキンス夫妻が厳しい環境の中、北朝鮮で短波ラジオを受信していたとも聞いている」と、「妥当」と答申した理由を説明した。

   放送命令は、NHKの国際放送に対して総務相が放送する事項を指定できる制度で、以前は「国の重要な政策」や「時事」などと一般的な内容の指定で実施されてきた。だが、菅総務相が昨秋、「拉致問題への留意」と、初めて放送内容を具体的に指示する命令を追加した。

   これに対して、放送命令で具体的な放送内容まで指定することは、憲法が保障する表現や報道の自由に抵触する恐れがあると、野党や放送界、与党の一部から批判が出て政治問題化した。NHKの橋本元一会長は07年3月15日の衆議院総務委員会で「個別項目を指定すると、内容によってはNHK自身の編集方針に制約を与える。運用はくれぐれも慎重に行われなければならない」と述べ、懸念を表明している。このため、今国会に提出される予定の放送法改正案では、放送命令制度についても見直すかどうかの議論が行われた。自民党片山虎之助参院幹事長は「命令や要請が本当に必要なのか」と制度そのものに疑問を呈していた。

テレビ国際放送も新たに「命令」可能に

   だが、菅総務相は、「命ずることができる」という条文を「要請することができる」と変えて「命令」の言葉をなくす一方、「総務大臣から要請があれば、これに応じるよう努める」との文言を加えることにした。「命令という表現がきついから、言葉を変えるだけ」(自民党筋)との批判もあったが、菅総務相が押し切る形で、NHKへの努力義務を定めることで決着した。

   また、総務省は今回初めて、テレビ国際放送にも放送命令を適用することにした。2007年度政府予算案に、テレビ国際放送への国の交付金3億円が盛り込まれており、この予算が成立すれば命令が可能となった。ただし、テレビへの命令内容は「国の重要な政策」といった大まかなものにとどめ、短波ラジオ国際放送のように拉致問題を具体的に指定はしない方針だ。

   羽鳥・電波監理審議会会長は「ラジオ国際放送とは事情が違う。直接北朝鮮にいる拉致被害者にテレビ国際放送はまず届かないだろう」と話し、北朝鮮の拉致被害者が衛星放送を受信できる環境にないことをが、拉致問題を盛り込まない理由だとしている。