「ブーメラン現象」に取り付かれた 民主党のふがいなさ
松岡利勝農林水産大臣の光熱水費をめぐる「ナントカ還元水」発言問題を野党が追及しているなか、民主党の中井治元法相が光熱水費を虚偽記載していることが明らかになった。与党を追及する側としては非常に都合が悪い話だが、このような話は初めてではない。民主党が与党の疑惑を追及しているさなかに、自分の周りでスキャンダルが発生、逆に与党から追及を受けるという「ブーメラン現象」が、ここ数年だけでも何回も発生しているのだ。
無料のはずの議員会館の光熱水費が507万円も計上されていたことについて、松岡大臣が「水道はナントカ還元水とかをつけている」などと述べたまま、詳細な説明を拒んできたことから、野党側は証人喚問申請も視野に入れて追及してきた。そのさなか、疑惑を追及する側の民主党に所属する側の中井治元法相が05年に計上した286万円の光熱水費について、別の費目の経費を付け替えて虚偽に記載していたことが明らかになった。
「堀江メール問題」もそうだった
2007年3月14日、中井氏は鳩山由紀夫幹事長に会って、虚偽記載を全面的に認めている。与党の疑惑を追及する側にスキャンダルが降りかかってきた形で、民主党が「ナントカ還元水問題」を追及するにあたっての大きな障害になるのは確実だ。
民主党にとっては運の悪い、この「ブーメラン現象」、今回が初めてではない。記憶に新しいのが、「堀江メール問題」だ。
06年2月に永田寿康衆院議員が、衆院予算委員会の場で
「ライブドア前社長の堀江貴文被告が、武部自民党幹事長の次男に対して、コンサルタント費用として3,000万円の送金を指示した」
などいう疑惑を提起。その証拠資料として、堀江被告が「送金指示」を行ったメールのプリントアウトとされるものを提示した。前原誠司代表も、しばらくは「メールの信憑性は高い」と、疑惑の追及に自信を見せていた。
ところが、メールの一部が黒塗りされている点などに対して、メールの証拠能力を疑問視する声が続出した。これに対して永田議員は、逆に「どうしたら証拠と認められるのか、知恵を貸してください」と、逆に与党側に懇願する始末。結局、メールは「偽物」だったことが判明、民主党は全国紙と北海道新聞(武部氏の地元では圧倒的なシェアを誇る)で謝罪広告を出すに至った。この騒動の責任を取って前原代表と野田佳彦民主党国対委員長が辞任したほか、永田氏は議員辞職に追い込まれた。
その次に有名なのが04年の年金未納問題をめぐる騒動だ。当時、菅直人代表が、閣僚3名の国民年金未納が相次いで発覚していたことを「未納3兄弟」などと皮肉って批判していたが、自らの未納問題も発覚。加えて、福田康夫官房長官が、自らの未納発覚直後に「サプライズ辞任」した。この辞任は「潔い」と評価され、民主党は選挙民に対して「自民党に先を越された」という印象を与えることになった。そんな状況で、菅代表は「未納は行政上のミス」と主張するも、辞任に追い込まれた(その後、行政側は「未納状態」のきっかけになった、脱退手続きのミスを認めた)。
ブーメランが戻ってきた打撃は野党のほうが大きい
朝日新聞のコラムニスト・早野透さんは、当時連載されていた政治コラム「ポリティカにっぽん」で、この騒動を、このように評している。
「それにしてもあれほど『未納三兄弟』を責め立てた菅直人民主党代表の年金未納は、いかにもブラックユーモアだった。苦い笑いがこみあげる。(略) 菅さんの場合は自分の投げたブーメランが戻ってきて自分を撃つことになる。無念な辞任というべきである」
どうやら、当時から「ブーメラン現象」という発想はあったようだ。
今回の「ブーメラン現象」を受けて、民主党のふがいなさを指摘する声が相次いでいる。
テレビ朝日が07年3月14日に放送した「やじうまプラス」では、同局コメンテーターの三反園訓(みたぞの・さとし)さんは、こう苦言を呈している。
「与党と野党に同じ事が起こったときにどちらが打撃が大きいかというと、それは野党なんですよ。追及できなくなる訳ですから。だから、健全な民主主義っていうのは、野党が与党を厳しく追及して、それに時の内閣が耐えられるか。この過程に意味があるんですよ。それができないとなると、野党じゃない訳ですよね」
毎日新聞も、同日の社説で、同様の主張をしている。
「中井氏は『領収書もある』と話しており、それを公表しきっちり説明する必要がある。民主党は追及が腰砕けになったら、批判は自らに向けられることを肝に銘じるべきだ」