中学生また「飛び降り」 「タミフル」に問題ないのか
インフルエンザ治療薬「タミフル」を服用していた男子中学生がマンションから転落し、死亡した。タミフルをめぐっては、これまでにも服用後に異常行動で死亡する例が報告されているが、世界中の関係機関は因果関係を否定したままだ。今回の事故についても、厚生労働相は注意喚起を行うことについては否定的だ。
2007年2月27日未明、仙台市城野区のマンション11階から男子中学生(14)が転落したと母親から通報があった。中学生は病院に運ばれたが、全身を強く打っており、まもなく死亡した。遺書などは残されておらず、家族や学校関係者「自殺の理由は見つからない」と話しているという。この生徒は2月26日にインフルエンザと診断され、同夕方以降、処方されたインフルエンザ治療薬「タミフル」などを服用していた。
全世界のタミフルの7割以上が日本で服用
タミフルは、スイスの製薬会社「ロシュ」が製造するインフルエンザ治療薬で、日本では00年に承認され、01年2月から販売されている。発症から48時間以内に服用すると、ウイルスの増殖を抑え、治癒までの期間を短くする効果があるとされる。
さらに、鳥インフルエンザウイルスの人に感染するタイプ(H5N1型)への対策として最も有効とされ、05年11月に策定された政府の行動計画では、国と都道府県で06〜07年度にかけて2,500万人分を準備するとされている。
さらに意外なことに、処方箋ベースでカウントすると、全世界のタミフルの7割以上が日本で服用されているという。発売元の中外製薬・広報IR部では、その背景についてこう話す。
「よくわからない、というのが正直なところなのですが、医療環境の違いがあるのではないか、と思います。具体的には、日本は国民皆保険制度で、民間保険が主流の海外に比べて、タミフルを処方してもらいやすい環境なのではないか、と想像します」
つまり、「他の国では高価で、なかなか手が届かない薬」ということのようだ。
このように重要視されるタミフルだが、服用後に死亡したとされる事例が06年10月までに54件報告されているのだ。そのうち、異常行動によると思われる死亡は3件。これ以外にも、2月16日にも、タミフルを服用したと見られる愛知県蒲郡市の女子中学生(14)がマンションから転落死するという事故が起こったばかりだった。
遺族らは「何らかの注意喚起をしてほしい」と要望
その一方で、各国の調査機関は、タミフルと「異常死」との関係を否定し続けている。05年11月には、米食品医薬品局 (FDA)が「タミフル」服用後に日本の小児患者12人が死亡したことを公表したが、タミフル服用と死亡との因果関係を否定している。
日本の厚生労働省研究班も06年11月に、2,800人を対象にした調査結果を発表。「小児のタミフル服用の有無と、異常行動などの現れ方に統計的に意味のある差はない」としている。
柳沢伯夫厚生労働相も、これらの調査結果を根拠に、「因果関係がまだ十分解明されていない」として、今回の事故と受けて、タミフルに関する注意喚起を行うことには否定的な見解を示している。「何もしない」と受け止められても仕方のない対応だ。
こんな状況に対して、遺族らで組織する団体は「因果関係が証明されていなくても、医師は投与の際に何らかの注意喚起をしてほしい」と要望し続けている。