施工不良問題でリーマンショック以来の最終赤字に転落したレオパレス21(撮影:風間仁一郎)

「昨年からの当社施工不備の問題を受けて関係各位に大変な迷惑をかけている。あらためてお詫び申し上げます」

5月29日、外部調査委員会が最終報告書を提出した後に開いた記者会見の冒頭、レオパレス21の深山英世(みやま・えいせい)社長はそう言って、頭を下げた。

賃貸アパート大手のレオパレス21が経営危機に陥っている。

5月10日に発表した前2019年3月期決算は売上高5052億円(前期比4.8%減)、営業利益73億円(同67.8%減)。

施工不良問題に伴う工事損失引当金547億円に加え、減損特損や空室損失引当金がかさみ、純損益は686億円の赤字(前期は148億円の黒字)に転落した。リーマンショック直後の2010年3月期に計上した790億円の赤字に次ぐ水準となる。

2015年3月期以来の無配に転落

巨額の損失で、繰越損失が発生し2015年3月期以来の無配に転落した。監査を担当する太陽監査法人は、レオパレスの企業としての継続性について「重要な問題がある」と、疑義注記の一歩手前の継続前提の重要事象をつけた。

レオパレスは昨年から数回にわたって建築した賃貸アパートに施工不良があったと発表。天井裏や屋根裏に住戸間を仕切る界壁(かいへき)がなかったり、天井部材が耐火性能を満たしていなかった、認定されていない部材で壁が施工されるという建築基準法違反が発覚。その他多くの物件では界壁に隙間があるなど施工不良が存在した。

現在、同社は1991年以降に施工した賃貸アパート全3万9085棟の調査を進めている。4月末時点で施工不良が多発している物件(レオパレスの説明では優先調査対象シリーズ)1万5283棟のうち1万3641棟(89%)の調査を終了。問題が少ないと見られる残りの2万3802棟では7636棟(32%)の調査を終えている。

国土交通省によれば、このうち建築基準法違反のものは2949棟(3月末時点)。軽微なものも含めれば4月末時点で不備のある物件は1万5628棟と膨大な件数に達した。


5月29日、外部調査委員会の後の会見でレオパレスの深山社長(中央)は深々と頭を下げた(撮影:風間仁一郎)

一連の施工不良は、レオパレスと対立するオーナーで組織された「LPオーナー会」(以下LP会)の調査とテレビ番組の報道がきっかけで明らかになった。

従前からレオパレスの賃貸アパートには「壁が薄くて、隣の声が筒抜け」など不良物件のうわさがくすぶっていた。当初は「業績に影響がない」としていたにもかかわらず施工不良の物件数が日を追うごとに膨れ上がっているなど、経営体質そのものを問う声が広がっている。

今回で3度目の経営危機

実はレオパレスの経営危機は今回で3度目だ。最初はバブル崩壊だった。同社は1973年に創業。自社で不動産を取得し、節税目的の投資家に分譲アパートを販売するビジネスモデルで1989年に上場を果たした。ところが税制改正とバブルの崩壊で節税需要が急減、アパート建築の解約が相次ぎ、深刻な経営危機に陥った。

そのため1993年ごろから、自社で不動産を保有せず、地主に賃貸アパートを建てさせる建築請負事業と、建てたアパートを一括で借り上げるサブリースが主軸の事業構造に転換した。

さらにリーマンショック後にはアパート建築請負を大幅に縮小。現在はサブリースで借り上げる57万戸のアパート管理をビジネスの主体にしている。年間150億〜200億円の営業利益を安定的に稼ぎ出し、2016年3月期にやっと復配にこぎ着けた矢先に、今回の施工不良が発覚した。

施工不良があったアパートを所有するあるオーナーは、20年ほど前にレオパレスとアパートの建築と借り上げの契約を結んだ。「当時は、周辺相場より2割近く高い家賃を払ってくれた。客付けもして、管理までしてくれる。建築価格は高かったが、こんなに楽なことはないと思った」と言う。

1990年代前半、レオパレスが賃貸アパートに参入した時点では、大東建託や積水ハウス、大和ハウス工業といった大手がすでに幅をきかせていた。そのため同社は大手が手がけていない、単身者向けアパートに的を絞った。建築費用を高めに設定する一方で、相場より高い一括借り上げ家賃を設定することで、初期投資は高くても、高い借り上げ家賃を武器に地主へ営業攻勢をかけたのだ。

こうした戦略が奏功し、同社は経営危機を脱し、賃貸アパート業界の上位に躍り出た。「賃貸アパートのプランの見積もりを頼んだら、翌朝には持ってきた」(前出のオーナー)という、積極的な営業攻勢で鳴らしたのは主にこの時期のことだ。

リーマンショックで社宅需要が急減

だが、こうした拡大路線は2008年のリーマンショックで暗転した。単身者向けアパートを展開するレオパレスにとって、今も昔も最大のお得意様は、社員向けの独身寮用として入居してくれる法人顧客だ。

だが、最大顧客の自動車メーカーや電機メーカーはリーマンショック後の需要急減を受けて、軒並み期間工や派遣社員の雇用を打ち切る「雇い止め」を実施した。

レオパレスにとっては、こうした法人利用が急減して受取家賃が減った上に、オーナーに対しては相場より高い借り上げ家賃を支払い続けなければならなかった。その結果、受け取りと支払いが逆転する「逆ザヤ」となり、2010年3月期は営業赤字に転落。巨額の空室損失引当金のために、790億円の最終赤字を計上した。

そこで踏み切ったのが、多くのオーナーに対して支払い家賃を減額し、借り上げ契約を解除するという、いわゆる「終了プロジェクト」だ。会社側の見解はあくまで「(オーナーとの)合意の上で、周辺相場の家賃水準にした」というものだが、多くのオーナーにとってはこの家賃減額交渉はトラウマに近い傷を残した。

【2019年6月4日13時25分注記】初出時の記事で言及したLP会発足の経緯に関する説明に誤りがありました。削除いたします。

今回、問題が多発している賃貸アパート「優先調査対象シリーズ」は最初の経営危機後の1994年から2005年にかけて販売された商品だ。

5月29日に外部調査委員会が公表した報告書によれば、レオパレス創業者の深山祐助・元社長(深山英世社長のおじ)が、バブル崩壊後の経営危機を乗り切るために、賃貸アパート建築のコスト削減や工期短縮のために、商品開発の現場に介入してさまざまなアイデアを出した。

深山祐助自身は建築士の資格を持っていなかったが、その豊富なアイディアから「特級建築士」を自称していたという。

だが調査報告書は、深山祐助氏のワンマン経営がまかり通る状況で、歯止めをかけられる人物が存在しなかった点に問題があると指摘する。

ワンマン体制や慢性的人手不足が法令軽視に

賃貸アパート業者の場合、建築部門の粗利益率は2〜3割と、賃貸管理部門の1〜2割を大きく上回る。30年超の長期にわたってオーナーからアパートを借り上げる契約を結ぶ代わりに、自社でのアパート建築が条件となっており、その分利益を乗せやすいためだ。


レオパレスの外部調査委員会は、ワンマン経営に歯止めをかけられなかったことが問題につながったと指摘した(撮影:風間仁一郎)

レオパレスもピークだった2007年3月期には、建築請負部門は売上高3161億円に対し、営業利益746億円を稼ぎ出している。こうした儲かる建築請負事業の拡大が優先され、深山祐助氏のワンマン体制や慢性的な人手不足もあり、行政に出す建築確認申請と実際の建物の仕様が違ったり、建築基準法への準拠といった確認がおろそかになっていた。

調査報告書では、施工不良に気づく機会が何度かあったが、その都度見逃されてきたため、全社的に順法意識やリスク感度が低かったと厳しく指弾している。

そして、深山祐助氏の責任については、違法行為を指示・命令した事実までは認められないとしたものの、「厳しい経営環境から脱却すべく収益の確保を重視し、物件数の早期拡大に重点を置き、十分な商品開発体制、施工管理体制及び工事監理体制を整備すること等を怠った」と指摘した。

当時の経営判断がこうした状況を招いたことについて深山祐助氏は調査委員会のヒアリングに反省の弁を述べたほか、レオパレスを退任した後に創業し、同社とほぼ同じ事業を展開するMDIについても、取締役を3月28日に辞任している。

今回の事件を機にレオパレスは経営陣を一新する。深山英世氏のほか、社内取締役8人のうち7人が退任し、後任には宮尾文也・取締役が社長に昇格する。宮尾氏は北海道地盤の中道リース出身。レオパレスのグアムのリゾート開発にかかわり、その後同社の経理や経営企画、広報を担当し、現在に至っている。

宮尾氏は東洋経済の取材に対し、国交省の指示通りに夏前までに優先シリーズの補修工事を、10月までに全棟の補修工事を完了させ、「今期中に施工不良問題を収束させる」と明言した。

施工不良問題に片が付けば、空室となっている物件の募集も再開できる。レオパレスは入居率を2019年3月末の84.33%から2020年3月末までに90%弱の水準に戻し、今2020年3月期に売上高5022億円(前期比0.6%減)、営業利益22億円(同70%減)、純利益は1億円の黒字化(前期は686億円の赤字)を見込んでいる。

手元流動性に余裕はない

ただその道のりは険しい。4月末時点で改修着工済みが4342棟、改修済み800棟と、不具合のあった物件全体(現時点で1万5628棟)からすれば、改修の進捗は遅れている。

もう1つの懸念が資金繰りの問題だ。同社の2019年3月末時点の連結貸借対照表では、現預金から有利子負債を引いたネットキャッシュが約500億円ある。ただし、補修工事関連の引当金も約500億円を計上しているため、工事が進めばキャッシュアウトしていく。単純に計算すればネットキャッシュはゼロになる。

この点について宮尾氏は「人件費や広告費の抑制でキャッシュアウトを抑え、自社保有の賃貸用マンションなどを売却することでキャッシュインを増やす」と説明するが、手元流動性に余裕があるとはいえない状況だ。

旧村上ファンド系のレノや共同保有者が株式を買い集め、5月16日時点で16.18%握る筆頭株主に浮上。「村上世彰氏は単身世帯向けアパートの需要は手堅いと見ている」(関係者)。一方で、宮尾氏は「個別の株主の動向については言及できないが、どんな株主とも対話はオープンマインドでやっている。誰とでも対話をするつもりだ」と言及するにとどめた。

また、調査委員会は過去の経営陣の責任を認めているが、レオパレスが会社として責任を追及するかどうかについて、「調査報告書を受け取ったところで内容を精査し、要否を検討する。(検討のメドについても)期限は答えづらい」(宮尾氏)と判然としない。

3度目の危機を乗り切るためには、問題物件の改修だけでなく、経営陣の責任の所在を明らかにすることが必要だ。この点について宮尾氏はどのように答えを出すのか。株主総会が迫る中、やや不安の残る船出と言えそうだ。