風間八宏監督がチームを率いて以来、初めてのJ1を戦った昨季、名古屋グランパスは浮き沈みの激しいシーズンを過ごした。

 開幕戦からの2連勝で、いきなり昇格1年目での躍進を予感させながら、第4節からは8連敗。その後も3敗3分けと、第3節の引き分けを端緒に、実に15試合も勝利から遠ざかった。

 ところが、夏の補強が功を奏し、第19節からは7連勝。J2降格を免れるどころか、AFCチャンピオンズリーグ出場圏内にも届いてしまうのではないか、という勢いを見せた。

 しかし、再び一転、7連勝後の6試合は、3連敗を含む1勝5敗と、再失速。何ともつかみどころのない成績で、最終順位は15位に終わった。辛うじてのJ1残留である。

 だからこそ、今季開幕前、名古屋の評価は難しかった。

 はたして、強いのか、弱いのか。

 そして、今季のおよそ3分の1を終えた現在、その答えは、かなり高い確度で出ていると言っていいだろう。

 J1第12節、名古屋は敵地に乗り込み、川崎フロンターレと対戦。1−1で引き分けた。

 試合は、互いが積極的にボールへプレッシャーをかけ合いながら、どちらもそれをかわせるだけのテクニック、パスワークを保持していたという点で、非常に強度が高く、見応えがあった。

 どちらかと言えば、前半は川崎ペース、後半は名古屋ペースで進んだなか、両チームともに相手ペースの時間帯に得点しての1−1は、妥当な結果だろう。

 MFガブリエル・シャビエルは「前半の苦しい時間に1点決められたのはよかったが、(後半に)チャンスを無駄にした回数が多く、勝つチャンスを逃した」と言いつつも、話す様子にはそれなりの納得感が漂っていた。

 とくに、同点に追いつかれた後半24分以降の名古屋の攻撃には迫力があった。選手同士の距離を縮め、ショートパスをテンポよくつなぎながら、タイミングよくドリブルをまじえる攻撃で、川崎を完全に押し込むことができた。

 昨季J1得点王のFWジョーをはじめ、フィールドプレイヤーに4人のブラジル人選手を並べ、試合終盤にはFW相馬勇紀、FW前田直輝という、個人で仕掛けられる選手を投入する。今季から拡大された外国人選手枠もフル活用した充実の戦力は、昨季J1王者をもしのぐ。

 風間監督も「これで今季12試合目。やりながら、思ったように試合を進めることができている」と、手応えを口にした。



王者をしのぐ攻撃を披露した名古屋グランパス

 そんな名古屋の強さのベースにあるのは、いわば”自分本位”のサッカーである。

「相手選手はスピードがあるから、DFラインを下げようとか、そういうことはしない」

 DF中谷進之介がそう語るように、名古屋は事前に対戦相手を分析し、対策を講じ、相手ありきでサッカーをすることをよしとしない。あくまでフォーカスするのは、自分たちが何をすべきか。中谷曰く、「自分たちの枠組み、距離にしてしまえば、相手は関係なくなる」という。中谷が続ける。

「昨年と比べ、(今年の名古屋は)”自分たちのサッカー”がある。相手じゃない。自分たちで試合をどうにかできる。(やるべきことをやれば)相手がハマっていくというか、ついてこられなくなる。そこは手応えとしてある」

 一般的に「ツボにハマると強い」という表現があるが、そこには”偶発的な一発屋”のニュアンスが含まれる。今季の名古屋が「ツボにハマった強さ」を見せているのは確かだが、それは決して偶然ではなく、自らツボにハメることができているのだ。

 しかも、その精度は、試合を重ねるごとに高まっている。そんな印象を受ける。

 今季の名古屋が安定した強さを発揮できていることを示す、ひとつのバロメーターが、失点の少なさだろう。

 昨季の名古屋の総失点は59。最下位だったV・ファーレン長崎と並ぶJ1ワーストである。しかし、今季ここまでの総失点は、わずかに8。1試合平均で比較すると、1.73から0.66へと、3分の1近くまで激減している。

 昨季を知るジョーは、「今年は失点が少なく、攻撃も成長してきている。攻撃のところはもっとよくなると思う」と、今後の戦いに自信をうかがわせる。

 もちろん、今季はまだ3分の2ほどを残しており、優勝争いの行方を見通すのは難しい。だが、現在勝ち点24で2位につける名古屋が、1シーズンを通じて、そこに加わり続けることは、まず間違いあるまい。今の落ち着いた戦いぶりを見ていると、昨季のような突如の大失速は考えにくい。今季の強さは本物だ。

 古巣との対戦を終えた風間監督が、にこやかに語る。

「両チームともに、面白いサッカーができた。こういう試合を続けたい。こういうなかでやっていくことで、選手は一層うまくなる」

 名古屋は強い。しかも、面白い。