1カ月のコーディネートをストーリー仕立てで紹介する「着まわし企画」は、どの女性ファッション誌にもある王道コーナー。

ストーリーの主人公はだいたい会社員とか主婦であることが多いけど、その流れに一石を投じる雑誌が話題になりました。それがこちらの『CLASSY.』(光文社)。

@classy_mag_instaさんのInstagramの投稿

働くアラサー女性向けの雑誌ながら、主人公の職業が「女刑事」「貧乏な劇団員」「将棋棋士」など、変わったものばかり…。ネットでも、毎回話題となっています。

あまりにも気になるので、「これ、着まわしの参考になる?」「悪ノリが過ぎるでしょ!」 と『CLASSY.』編集長・今泉さんにツッコんできました。


【今泉祐二(いまいずみ・ゆうじ)】1972年生まれ。早稲田大学法学部卒業。1996年に光文社へ入社し、2003年から『CLASSY.』編集部へ。2010年に編集長に就任

棋士なんて読者にいませんよね? 感情移入できないのでは?

ライター・中村:
最新号である10月号の着まわし特集の主人公は「女性プロ棋士」

さすがに突飛すぎませんか? だいたいの読者は女性会社員のはずですよね…?

出典 『CLASSY.』(光文社)

今泉さん:
まぁ、そうでしょうね。これは担当者から、ノリでたまたま出たアイデアなんです。

ライター・中村:
そんな軽い感じでつくってるんですか?

今泉さん:
ただ、「主人公が棋士である」という部分だけ見ると突飛に見えますが、実はちゃんと条件を満たしているから通った企画なんですよ。

ライター・中村:
えーっと…どういうことでしょう?

今泉さん:
特集全体を貫くテーマが毎号あって、そこから各コーナーの企画を考えていくんです。

10月号のテーマはカーディガンなので、上半身が目立つ職業を考えました。そしたら「棋士ってカーディガン着てそうじゃない?」と担当者が言いだして。

将棋ブームもきているので、女性プロ棋士を主人公に決めました。

ライター・中村:
たしかにカーディガンは着てそうですが、棋士が主人公では読者から共感を得られないんじゃないかと思うのですが…

今泉さん:
職業は棋士ですが、「仕事を彼に理解してもらえない」という悩みや、「初対面の人と会うときには清潔感のある白シャツで」というコーディネートの提案など、働く女性に共通するエッセンスを入れています。

変わった職業で目を引きつつも、会社員の方にも共感してもらえるものに仕上げているんですよ。



ドラマのパロディ・小ネタが多いのは、担当者のモチベーションを重視した結果

ライター・中村:
2011年3月号の着まわし企画では、女刑事の主人公が登場してます。

後ろに写っている男性はカーキのコートを着ていますが、これはもしや…?

出典 『CLASSY.』(光文社)

今泉さん:
『踊る大捜査線』の青島刑事のパロディですね。

ライター・中村:
やっぱり!

今泉さん:
パンツの着まわし企画を組むにあたって、毎日動き回る職業を探し、女刑事という案を採用しました。

ライター・中村:
なぜこんなパロディを…?

今泉さん:
パロディが好きな編集部員がいるので、やりたいようにやらせているだけです(笑)。

着まわし企画って、撮影量も多くて、完成させるのがとても大変なんですよ。だから私は、メンバーのモチベーションが上がるように担当者の裁量を認めています

おかげで「どうせやるならとことんやろう!」と、誌面のつくり込みに磨きがかかるんです。後ろに写っているのも、ドラマや映画の撮影に使われる劇用車のパトカーをわざわざ借りてるんですよ。



今泉さん:
2017年4月号に掲載した劇団員が主人公の回は、ドラマ『やまとなでしこ』のパロディです。

ライター・中村:
母の治療費などの経済的負担があって、“主食がどん兵衛”という貧乏暮らしをしているやつですね。

出典 『CLASSY.』(光文社)
主食がどん兵衛というだけあって、壁際にどん兵衛の段ボールが山積みだ

今泉さん:
これはGUのみで1カ月着まわす、というお題から貧乏な設定が生まれました。

ふたりでボートに乗るシーンもドラマの再現です。

出典 『CLASSY.』(光文社)
3/9のシーンでも、なぜか足元に置かれるどん兵衛推しがすごい

今泉さん:
ここまでやったら、ボートから落ちるシーンも再現したかったんですけど、さすがに実現できず、残念でしたね(笑)。

ライター・中村:
ファッション誌の撮影でボートから落とすのは、過激すぎます…!

『CLASSY.』を残したいから、多少反対があっても波風を立てたい

ライター・中村:
このような企画は、どういうきっかけで始めたんですか?

今泉さん:
着回し企画を普通のOL設定でやると、月曜はプレゼン、水曜はノー残業デーで女子会、土曜はホームパーティ…みたいな流れになって、毎月の変化がつけづらいんです。

そういうテンプレ的な展開に飽きちゃったんですよね。作っていても全然楽しくないわりにボリュームがあるから、とにかくツラい。

ライター・中村:
だからフザけだした、と。

今泉さん:
そう。作り手が飽きているということは、読者も飽きているということですから。

2011年の3月号で女刑事を主人公にした特集をやってみたら、ネットで話題になりました。そこからちょっとずつ、突飛な設定の企画をやるようになりましたね。

ライター・中村:
ネット上には肯定的な意見だけではなく、「何がしたいのかわからない」「服の紹介だけすればいいのに」という意見も見られます。

これについてはどう思われますか?

今泉さん:
実は、編集部内でも賛否両論なんです。もっと真面目な内容にするべきなんじゃないか、と主張する編集部員もいます。

出典 『CLASSY.』(光文社)

ライター・中村:
これ、雑誌の売り上げのためにネットのバズを狙ってやってるんじゃないですか?

今泉さん:
うーん、ひとつ言えるのは、ネットでバズっても雑誌は売れないんですよ。

ライター・中村:
あれ、雑誌業界の苦境から出た施策なのかな、と思っていたんですが…

今泉さん:
ただ、『CLASSY.』という雑誌をなんとか残したい、という想いで試行錯誤してるのは事実です。

編集部にきて10年以上経ちますが、雑誌が売れなくなってきたことは肌で感じています。そんな逆境で無難なことしかやっていなかったら、状況は変わらない。今の時代、「冬だからおでんを食べましょう」みたいな思考停止の発想では、雑誌なんて売れません。

だから多少の反対はあっても、目立つことをやるべきだと思っています。



ライター・中村:
『CLASSY.』と同じ光文社から発行している『VERY』では、誌面にとどまらず自転車をつくるなどの取り組みをされてますよね。

『CLASSY.』でもそのようなことを考えているのでしょうか?

今泉さん:
雑誌業界が縮小していくなかで、どうすれば『CLASSY.』をつくり続けられるか、というのはいつも考えています。

ただ、新しい取り組みとしてWebメディアやECなど、何に挑戦するにしても起点になるのは雑誌。だから、まずはそこでどうにか波風立てようと、全力で悪ふざけをしている感じです。

これからも基礎となるクオリティは落とさず、トガった企画で攻めながら、『CLASSY.』をつくり続けていきたいですね。



「『CLASSY.』をつくるのは楽しいんですよ!」と取材中に何度も言っていた今泉さん。

トガった企画はただの悪ノリではなく、『CLASSY.』をどうにか残したいという思いから生まれたものだということがわかり、今泉さんの並々ならぬ雑誌への愛を感じました。

反対を恐れて無難な仕事をしていたらダメだ」という今泉さんの言葉は、R25世代も働く上で心に留めておくべきことではないでしょうか。

次の着まわし企画はどんなトガったものが出てくるのでしょうか? 期待しています!

〈取材・文=中村英里(@2erire7)/取材・撮影・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉