ダメ上司ほど"何かあったら言って"と言う
※本稿は、永井孝尚『売れる仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)の第3章「『成長パターン』企業の取り組み」を再編集したものです。
■「何かあったら言ってよ」では部下は言わない
──ジャパネットはいまや大きな会社で、子会社も9社あります。どのように現場の社員と意思疎通をしているのでしょうか?
【高田】まず役職者約170名と1対1のやり取りをしています。基本的に役員は週報、部門長は隔週、所属長(課長・課長代理)は2カ月に1回。上司をCCに入れず、直接僕にメールを送ってもらいます。それに対して、週末に僕から思ったことをそのまま返信します。中には「部門長のこういうところ、おかしいと思います」という意見もあります。その場合は遠回しに部門長に伝えます。「社長、すごくちゃんと見ている」と思われているようです。いきなり社長室に呼ぶと上司も嫌ですが、制度があれば問題ありませんよね。
──トップが日常業務で現場把握をするのが素晴らしいですね。「衰退パターン」に陥る企業では、トップが現場を把握していないケースが多いように思います。
【高田】他にも拡大部門長会議という仕組みもあります。1年に2回、役職者全員が1カ所に集まります。メインは一斉テスト。僕が作った問題で筆記試験をして、賞品はテスト結果の成績順に割り当てた野球のボックス席とか、成績順の背番号がついたV・ファーレン長崎のユニフォームなどです。すごく盛り上がりますよ。これはこの前、軽井沢でやった時の動画ですが……。
──(スマホで動画を拝見)受賞チームがガッツポーズしたり歓声をあげたり、本当に盛り上がっていますね。
【高田】事前にテスト範囲を発表しています。「社内イントラネットから出ます」と言うと、みんな社内イントラネットをすごく見ますね。
■「業務時間外に入館する場合の手続きは?」
──研修一つとっても遊び心がありますね。
【高田】問題は「業務時間外に入館する場合の手続きは?」みたいなものですが、「今日の日経の1面は?」と出したら、ほとんど誰も答えられない。みんな必死なので、その日は新聞なんて読まないようです(笑)。
──トップや社員同士がお互いに理解する機会を意識的に作っていますね。
【高田】情報量は、1人介在すると3割減になると思っています。2人介在すると半減。だから全員が集まり、社内報を出し、コラムを書き、自分が本音を出して、あとは逆に自分が聞く場面をできるだけ増やす。そういうことをやって、はじめて仮説の精度が上がると思っています。
──聞く場面も難しいですよね。「何かあったら言ってよ」と言っても……。
【高田】言いませんよね。部下に「何かあったら言ってくれ」と言うのは、無責任な上司だと思います。過保護なくらい言いやすい空気を作らないと部下は言いません。だからこちらから意識して声がけしています。そうしないとどんどん遠くなる。怖いですよね。
──トルネードをスムーズに回すために、社内のコミュニケーションをサラサラと流れるようにするイメージですね。
【高田】そうですね。最初に言ったようにどれが効いているかはわからないのですが、どれかは効いていると思いながらやっています。
■株式上場には興味がない
──ジャパネットが目指す「あるべき姿」は何でしょうか?
【高田】漠然としたイメージですが、お客様・社員・会社・取引先様みんながハッピーで幸せを感じられる会社になれば、と思っています。今の売上は1700億円で、理論上は5000億円になったらより多くの人を幸せにできます。でも5000億円が目的化して幸せにならないのであれば、むしろ今のままでいい。たとえば「シニアのご夫婦で相手が亡くなり、友達がいない」という記事を読んだ時、こういう方たちにクルージングに来てもらって、「今年はこのクルージングに行こうよ」という友達ができたらいいな、と思いますし、実際に現地でお客様からそんなお話を聞くと本当に嬉しいですね。V・ファーレン長崎にも感動したんですよ。これは試合後のサッカー場の動画です。選手とファンがまさに一体です。
──皆で歌っていますね。汗ばんだ感じも伝わってきます。
【高田】長崎に行くと、僕も「ありがとう」と声をかけられますね。
──こういうところを目指していると、株式上場などは、まったく別の話ですね。
【高田】上場は興味ありませんね。サッカーチームの株も100%持つことにこだわりました。50%だと残り50%は他の株主のことを考えなければならない。だから「100%でなければやらない」と貫きました。
──今日はありがとうございました。
■トップが現場をチェックするのはムリ?
高田旭人社長とは初対面。しかし不思議なほど意気投合した。それは高田社長がジャパネットの経営で目指す方向と、トルネード式仮説検証の方向が同じだからだろう。
高田社長は完璧を求めず、スピード重視で仮説を作っている。仕事に向かう姿勢は「もったいない」「サッサと決めよう」。しかし必ずシンプルな事実とロジックの裏付けがあり、合理性を重視し、「想い」を何よりも大切にしている。「同じ意見でも、根拠ある仮説があって検証するAさんにはイエス、思いつきのBさんにはノーって言うことはある」という話も参考になった。
また高田社長は、現場を理解するのにとても多くの時間と労力を使っている。
最近、企業の不祥事会見で、「現場を把握できなかった」「現場が悪い」と言うトップが多い。現場とトップの乖離(かいり)は、日本の組織が「衰退パターン」に陥る兆候だ。
一方で「大組織のトップが現場をチェックするのはムリだ」という意見もある。本当にそうだろうか?
内部からの情報リークで明るみに出る不祥事は多い。現場の人たちは必ずアラートを出しているということだ。現場のアラートが社外に流れる前に、トップが敏感に察知する仕組みなら、作れるはずだ。
「『何かあったら言ってよ』と言うのは無責任な上司」と考え、現場が言いやすい空気を作り、社員とのコミュニケーションの仕組みづくりに魂を込め続ける高田社長の姿は、多くの企業にとって参考になるはずだ。
■仮説検証の本質は「失敗からの学び」
高田社長とのインタビューで触れた「トルネード式仮説検証」とは、「そもそも何を目指すのか?」という方向性を決めた上で、PDCAを大幅に簡略化し、さらにビジネスの現場で実践できる具体的な方法論として体系化したものだ。
「なかなか売れない」「閉塞感がある」と苦しむ日本企業は多い。現場でムリを重ねた結果、次々と不祥事が出てくる組織もある。危機意識がなく、正論が通らず、成果が上がらないことに時間を使い、「衰退パターン」に陥っているのだ。
一方でジャパネットたかたのように、日本では成長している企業も少なくない。一人一人が「これやりたい」と言う強い想いを持ち、「あるべき姿」を追い求め、仮説検証を正しく実行することで、仕事を「成長パターン」に変えることができる。
正しく勉強すればテストで良い点が取れるように、「成長パターン」になれば、結果として売上が上がる。 そうして取り組む仕事は、成果も出てくるし、面白くやりがいのあるものになる。
この仮説検証の本質は「失敗からの学び」だ。「コレやりたい!」と言う新しいことに挑戦し、失敗から学び続けることが、成長につながる。私たち一人一人がもっと自分がやりたいことを仕事でやり、かつ合理的に仕事をするようになれば、必ず日本の企業はよくなるはずだ。
「やってはみたいけど、ウチの会社では現実には難しいなぁ」と思うかもしれない。現実に会社の中で「トルネード式仮説検証」を行おうとすると様々な壁にぶつかることも少なくないが、これらの壁は必ず克服できる。著書『売る仕組みをどう作るか』では、その問題と対応策も紹介している。ぜひ参考にしてほしい。
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マーケティング戦略コンサルタント
1984年慶應義塾大学工学部卒業、日本IBM入社。マーケティング戦略のプロとして事業戦略策定と実施を担当。さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当。2013年に日本IBMを退社。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、講演や研修を通じてマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。主な著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』(すべてKADOKAWA)、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『「あなた」という商品を高く売る方法』(NHK出版新書)などがある。
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(マーケティング戦略コンサルタント 永井 孝尚)