「格安スマホ」破綻の裏に官民ファンドの失策
破綻からわずか1年前、「フリーテル」の新製品発表会では女優の佐々木希さんら芸能人が登壇するなど、大きな話題を集めた。左から2番目が増田薫社長だ(撮影:佐野正弘)
「フリーテル」ブランドの格安スマートフォン開発会社、プラスワン・マーケティング(POM)が12月4日に民事再生法の適用を東京地方裁判所へ申請した。負債総額は26億円。
2012年10月設立のPOMは、スマホ端末の開発と通信事業の両方を手掛ける珍しい業態だった。今年11月に国内通信事業を楽天に売却したため、利用者への影響は限定的だ。
今年夏頃から資金繰りに窮していた
フリーテルの販売店は12月4日から営業を停止している(写真はJR阿佐ヶ谷駅前店、編集部撮影)
12月6日には都内で債権者集会を開催し、経緯を説明した。夏ごろ、取引先の丸紅無線通信に支援要請や支払い繰延について相談。その後楽天への事業売却で一息ついたが、12月末に予定していた増資話が、同月の新端末の投入遅れで頓挫。年末の資金枯渇が確定的となり、破綻に至った。
POMの主要株主には創業者の増田薫社長やヨドバシカメラが名を連ねる。2016年末までに、米シリコンバレーや国内銀行系のベンチャーファンドから約80億円もの資金を調達していた。
だが端末開発や芸能人を起用した広告宣伝の費用が先行し、2017年3月期の業績は売上高100億円で54億円の最終赤字を計上。売上高は前期から倍増したが、赤字が3倍に悪化した。17年3月末の純資産は14億円まで減った。
2017年3月、そんなPOMへの出資を発表したのが、海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)だ。JICTは政府が過半出資する官民ファンドで、通信・放送・郵便会社の海外展開を支援するため2015年11月に設立された。監督官庁は総務省だ。
支援決定額は73億円で、うち24億円が実施済み(9月末時点)。POMには12億円を出資し、1億円を融資。実施済みの過半はPOM向けというわけだ。
POM以外の支援実績は2件で、いずれも海外の光海底ケーブル事業だ。香港─グアム間や日本─グアム─豪州光海底ケーブル事業への支援だ。
出資金の使途は明確か
JICTの出資金はPOMを通じて、海外事業を統括する子会社「プラスワン・グローバル(POG)」に投じられ、POMも12億円を出資し4月に営業を始めた。
当記事は「週刊東洋経済」12月16日号 <12月11日発売>からの転載記事です
「海外向けの資金が国内で使われていないかをチェックしていた」とJICT関係者は言うが、POGの営業開始前後にPOMは国内で出店攻勢をかけていた。POGは民事再生法の適用を申請していないが、POMと一蓮托生の関係にあり、POGの破綻も時間の問題といえる。
「POMはベンチャー企業なのでリスクが高い。出融資は慎重に検討したが、その後のモニタリングに問題がなかったかの検証作業に入っている」と前出のJICT関係者は語る。政府が過半を出資している以上、POMへの出融資のうち過半の出どころは、血税だ。POM破綻を機に、官民ファンドのあり方があらためて問われそうだ。