この1年ほどでブームとなった料理動画にクックパッドもようやく本腰を入れる。一般ユーザーが使える撮影スタジオを全国にオープン(左写真撮影:編集部、右写真:クックパッド)

業績の先行き不安を払拭するきっかけをつかめるか。クックパッドは12月、料理動画に関連する2つの新サービスを投入する。

1つ目は、クックパッドの個人ユーザー向けに開設する料理動画の撮影スタジオ「クックパッドスタジオ」だ。ここでは専任スタッフのサポートのもと、料理動画の撮影・編集を無料で行える。完成した動画はクックパッドの個人アカウントから公開できるほか、「インスタグラム」などのSNSに投稿することもできる。

まずは代官山に撮影スタジオを開設

12月10日、最初のスタジオを東京・代官山にオープンするのを皮切りに、2018年内には全国5カ所に広げる。運営の効率化を進めつつ、1カ所あたりの規模も徐々に拡大。ユーザーの投稿を促し、クックパッド内で見られる動画のバリエーションを増やしたい考えだ。

もう1つは大手小売りチェーンに専用端末を提供し、各店舗のおすすめ商品に合わせた販促用の料理動画を配信する「クックパッドストアTV」。店頭で売れ行きを見ながら簡単に動画を切り替えられる点や、チェーン限定や地域限定のコンテンツも用意する点を売りにする。


おすすめ商品に連動した料理動画を店頭で流す「クックパッドストアTV」も12月から展開へ(写真:クックパッド)

小売り側からは手数料を取らず、食品・飲料メーカーなどタイアップ動画の広告主から広告収入を得るビジネスモデルだ。年内に全国のスーパーマーケット1000店に、3000台の端末を設置していく。

流通側からも期待の声が上がる。「クックパッドは(レシピサービスの)先駆者であり、知名度が高い。売場で素材と動画を組み合わせることで、従来の印刷物より視覚や聴覚に訴求する効果が高いはず」(埼玉県・ベルク)、「他社のデジタルサイネージも色々試しているが、クックパッドのものは(導入やオペレーションの)コストが軽い」(広島県・イズミ)。

1分前後のごく短い時間で、おいしそうな料理がみるみる出来上がっていく――。そんな料理動画は、ここ2年ほどで急速に盛り上がった。米国から始まったブームを追い風に、日本でも2015年後半から「デリッシュキッチン(エブリーが運営)」「クラシル(デリーが運営)」など、次々にサービスが立ち上がり、ユーザー数を急速に伸ばしている。専門家による動画制作や小売りチェーンでの展開も進めてきた。レシピサイトの先駆けであるクックパッドも、こと動画分野においては背中を追う立場だ。

ベンチャーに後れを取った要因は何か。クックパッドの岩田林平CEOは、「われわれの掲げる、料理の作り手を増やすという目標に対し、料理動画という手法が本当に寄与するかを見極めるのに時間をかけた」と説明する。

”本当に役に立つ”料理動画を考え抜いた


料理動画撮影スタジオの開設は、ユーザーのニーズを考え抜いた結果だ(写真:クックパッド)

「料理動画がエンタメとして魅力的だとは理解していたが、それだけでは一過性のブームに終わる可能性がある。では、料理を作るという行動につなげる、料理を作る人の役に立つ動画サービスはどんなものか。それを突き詰め、出てきたのが今回の2つだ。端末やスタジオという“ハード”の運営は初めてのチャレンジなので、準備にも時間をかけた」(岩田CEO)

特に動画スタジオのサービスは、見極めが難しかった。毎日料理を作るユーザーは、材料や調味料の制約、子どもの好き嫌いなどを考える。これまでのように運営側だけで動画を作っていては、ニーズを満たせるだけのレシピ数には到底届かない。やはりユーザーからの投稿に頼りたいものの、自宅で撮影・編集するのは機材やスペースの関係上、ハードルが高い。

そんな中で、クックパッドが撮影・編集の場を用意する形に行き着いた。ユーザー自身がスタジオに出向かなければならない点は手間が大きいように思われるが、料理動画事業部の今田敦士部長は、「オープンに先駆けて行ったトライアルでは、完成度高く出来上がる作品に皆さんが満足している。クックパッドの創業期と同じように、熱狂的に使うユーザーさんからの口コミで、速いスピードで伸ばしていけるはず」と自信を見せる。

新興ベンチャーに負けない経営のスピード感を出すため、組織体制も工夫した。料理動画関連の事業部は「1つの会社を運営するような形にした」(今田部長)という。大きな投資決定は経営陣と話し合うが、それ以外の施策の実施などはすべて事業部長レベルが決裁。採用や広報も専属のチームで独立して行う。クックパッドとしては初の試みだ。

クックパッドの足元の状況は芳しくない。今2017年12月期の第3四半期(9月末)までの業績は売上高101億円(前年同期比約17%減)、営業利益41億円(同約32%減)まで落ち込んだ。毎四半期、売り上げも利益も縮んでいく事態に、株式市場も強く反応。株価は年初から約40%下落、ピーク時(2015年12月)からは約75%下落している。

低迷の要因は複数ある。米グーグルの検索アルゴリズム変更によりページの表示順位が低下、月間のアクティブユーザー数や閲覧数が減り、広告収入の減少につながった。さらに前出のような新興勢力にユーザーを取られている影響があるのは否めない。これを動画の新サービス投入だけで取り戻せるかは疑問だ。

もちろん、動画のライバル各社も攻勢の手を緩めていない。エブリーの吉田大成代表は「デリッシュキッチンのレシピは一つ一つ、管理栄養士などの有資格者やプロの料理研究家が作っている。ネット上に多くの料理動画が存在する世界になると、ユーザーが最終的に重視する基準は、やはり質になるはず」と、ユーザー投稿型とは違った強みを打ち出す。

海外事業も冴えない


岩田林平CEOは中長期的な成長を重視する戦略を強調した(記者撮影)

「100カ国でナンバーワンのレシピサイトを目指す」とクックパッドが意気込む海外事業も、月間利用者数がほぼ横ばいという冴えない状況が続く。ここ2年ほど、各国のレシピサービスの買収や、それに伴うサービス統合に時間を要しているという。加えて岩田CEOは、短期的な成長を追わない方針を強調する。

「圧倒的ナンバーワンを取るためには、グーグルやフェイスブックのように、ワンプロダクトで世界中に受け入れられる必要がある。多くの日本企業のように国別にカスタマイズすると、オペレーションがバラバラになり資源を集中して戦えない。今は目の前の利益に固執せず、サイトのデザインや使い勝手について全世界で通用する最適モデルを探している」(岩田CEO)。

クックパッドといえば、創業者で現取締役の佐野陽光氏と、前社長の穐田誉輝氏の経営方針の違いから勃発した“お家騒動”が記憶に新しい。3月の株主総会で穐田氏が経営から完全に外れ、一応の終息を迎えた。だが業績面を見る限り、新体制の経営はまだ安定感に欠ける。中長期の成長に向けた“我慢の時期”を乗り越えられるか。古参ネット企業の正念場である。