<わずか2年で世界トップから6位へ転落。トランプ政権下でアメリカのブランド力は落ち目の一途?>

かつて多くの移民にとって、アメリカ国籍は夢と自由の象徴だった。だがトランプ政権が「イスラム教徒の入国禁止」や「就労ビザ取得要件の見直し」を声高に訴えるようになって以来、その「ブランド力」は落ち目の一途をたどっている。

同時にパスポートの威光も急速に弱まりつつある。カナダの金融コンサルティング会社アートン・キャピタルが10月25日、毎年恒例のランキング「パスポート・インデックス」を発表したが、アメリカは6位。わずか2年前には首位だったのを考えると劇的な転落だ。

このインデックスは199カ国・地域を対象に、ビザなしで渡航できる相手国の数でパスポートをランク付けしたもの。トランプ政権の発足後、トルコや中央アフリカ共和国はアメリカ人のビザなし入国を停止。3月には、欧州議会が欧州委員会に対し、EU域内を訪れるアメリカ人にビザ取得を義務付けるよう要請する決議を可決した(しかし同意委員会はその後、決議に従わないとした)。

一方、米国務省は9月にアメリカ人の北朝鮮渡航を禁じた。イランやシリアなど、イスラム教徒が大多数を占める国々の市民に対する入国禁止令には、執行差し止めや異議の申し立てが相次いでいる。

15年のランキングでは、アメリカはイギリスと並んで首位だったが、16年は4位に落ちた。さらに今回は6位へ転落し、首位のシンガポールをはじめベルギー、日本、スウェーデンなど18カ国の後塵を拝している。

他のランキングでも、アメリカの地位は揺らいでいる。ヘンリー&パートナーズ社による17年のランキングでは、ビザなし渡航自由度でトップはドイツ。2位にはスウェーデンが続き、アメリカはフィンランド、イタリアなどと並び3位だった。

一方でビザなし渡航、海外移住者への税制、二重国籍の可否、国のイメージなどを指標とする「ノマド・パスポート・インデックス」では、スロベニアと並んで上から35カ国目だった。

一般的に、所得水準が高い先進国のパスポートは高く評価され、逆にアフガニスタンやシリアのように常に危険と隣り合わせの国は順位が低くなる傾向がある。しかしアメリカの場合、ドナルド・トランプというリスク要因がある限り、さらなる転落が待っているかもしれない。

<本誌2017年11月14日発売最新号掲載>

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カルロス・バレステロス