10月6日のニュージーランド戦。後半27分前後のプレーだった。左サイドの深い位置でボールを受けた長友は、中の様子をうかがいながらボールをキープ。そして、後方のライン際にポジションを取っていた小林祐希に、ボールを戻すように預けた。だが、小林祐希にはすぐマークが付く。選択肢は限られているかに見えた。

 そこで一瞬、マーカーの逆を突き、ヒラリとした身のこなしからスッと縦に抜けるプレーを目にした時、オオッと、感嘆の声が漏れそうになった。同様な反応を示したスタンドの観衆も少なからずいた。急に晴れ間がのぞいたようなパッとムードに包まれた。

 サイドアタッカーはともかく、真ん中系の中盤選手で、この手のプレーができる選手は、他に誰がいるだろうか。一瞬、相手の逆を取り、スッと前に出るプレー。今回、選考の過程で怪我をしたため、招集が見送りになった柴崎岳、大島僚太の両選手は可能だろう。本田圭佑も、かつては普通にできていた。

 先発メンバーの山口蛍、井手口陽介は、やればできるのかもしれないが、守備的MFというミスが許されない立場が、二の足を踏ませているのだと思われる。だとすれば、試合を重ねるほど、そうした能力は失われていく。年齢を重ねるにつれ、面白くない選手になってしまう可能性がある。

 とはいえ、場所はサイドだ。縦抜けに失敗しても、奪われる可能性は少ない。最悪、奪われたとしても、そこはピッチの端なので、カウンターを食う心配はない。タッチに蹴り出され、マイボールのスローインになるか、運が悪ければ、相手ボールのスローインになるか、そのどちらかだ。

 小林祐希は他にもよいプレーを見せたが、ニュージーランド戦で最も印象に残るワンプレーはこれだ。彼と交代でピッチを後にした香川真司には、望めないプレーである。できそうに見えて、できそうでない。サイドでプレーすることが得意ではないからだ。サイドでボールを受けると、芸が出ないタイプ。ポジションの適性に欠ける。右でも左でもだ。最近では、真ん中でも特別な動きができなくなっている。香川と交代で入った小林祐希のプレーとを比較すれば、そのあたりが鮮明に浮き彫りになるのだった。

 香川、井手口、山口。この3人がスタメン候補に挙がる現在のハリルジャパン。それは言い換えれば、中盤のボール回しに変化が起きにくいことを意味する。ゲームコントロールが上手くできないこととも深い関係にある。

 日本のサッカー教育を「ボール支配率をベースに作られている」と斬り、縦に速いサッカーを好む監督には、この現状がどう映っているのか。不満を抱いているとすれば、サッカーが変わっていく可能性がある。小林祐希的な選手が必要だと思い直してくれればいいが、そうでない場合、価値基準が従来と変わらぬならば、悲観的にならざるを得ない。

 後半27分のプレーに話を戻せば、小林祐希は縦に抜けた後、再び、長友にボールを預け、そして長友を追い越すように、ゴールライン際まで走った。しかし、ボールは一転、中に入っていく。長友から、山口と素早く回り、それが吉田麻也のミドルシュートを生んだ。吉田はこれをキックミス。シュートはあらぬ方向に反れていき、スタンドは溜息に包まれた。展開がよかったその反動のリアクションと言ってもいい。

 ボールを支配しシュートで終わる。奪われる危険もなし。形は理想的。文句なしだった。サイドの特殊性を利用したことと、それは大きな関係がある。片側がタッチラインなので、相手のプレッシャーも片側に限られる。奪われる危険が少ない場所。そこでパス交換を繰り返し、中央の様子をうかがいながらボールをキープする。ゲームをコントロールする環境として、そこは最適な場所なのだ。