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歌手の松山千春さんが8月20日昼、トラブルで遅延した札幌(新千歳)発大阪(伊丹)行き全日空1142便の機内で、自身の代表曲「大空と大地の中で」を歌った。乗客がイライラを募らせる中で、たまたま搭乗していた松山さんが機転を利かせたとして絶賛されている。

当時、同機は、保安検査場の混雑というトラブルのため、出発が約1時間遅れていた。松山さんが「機内が和むように歌いますよ」と申し出て、機長の許可をもらってマイクをつかって、「大空と大地の中で」を熱唱した。この様子をおさめた動画がYouTubeにアップロードされており、乗客からは拍手がおこっている。

一方で、音楽とはいえ著作物であることには変わりない。アップロードした乗客、松山千春さん、航空会社の三者について、著作権の観点から、どんな分析ができるのだろうか。著作権にくわしい齋藤理央弁護士に聞いた。

●乗客がアップロードすることは?

著作権法で、音楽はどのように保護されているのか。

「著作権法上、音楽は音楽の著作物、歌詞は言語の著作物として保護されます。そのため、著作権者の許可がない限り複製したり、インターネットで配信したり(自動公衆送信といいます)できないことになります。ちなみに、実際に配信しない場合も配信準備のアップロード段階で送信可能化行為として自動公衆送信権を侵害します。

著作物を歌った松山さんにも実演家としての著作隣接権というのが認められます。今回は録音権、録画権、送信可能化権が問題となります。

著作権法上の「複製」には、録画や録音、またその増製(ダビング等)が含まれます。そうすると、動画の無断アップロードは、動画の録音録画をした時点で複製権侵害、録音・録画権侵害となります。またアップロードした時点で複製権、自動公衆送信権(送信可能化権)侵害となるのが原則です。

あとは例外規定を適用して適法となるかどうかが問題となります。今回は歌唱された音楽、歌詞が録画の中心ですので分離できずに録音されてしまった付随的な事物や音にふくまれる著作物(これを付随対象著作物といいます)として利用を適法化するのは難しいのではないかと考えられます」

では今回のケースは違法となってしまうのか。

「現代はSNSなどで一般市民が報道の担い手ともなる時代です。そうすると、偶然乗り合わせた乗客が、時事の事件の報道のための複製(録音・録画)、自動公衆送信(送信可能化)を行っていると判断される場合は、著作権法41条によって録画、アップロードが適法とされる余地が多分にあるでしょう」

●松山さんが機内で歌うことは?

松山さんが歌う行為については、問題なかったのか。

「著作権法上、歌唱も演奏に含まれます。したがって、『大空と大地の中で』を歌唱する行為は、演奏行為として著作権者の許諾を原則的に必要とします(著作権法22条)。作品検索データベースを見ると、『大空と大地の中で』は、松山さんの作詞作曲ですが、著作権はJASRACに全て信託されているようです。

この場合、著作権はJASRACに移動していますので、松山さんとJASRACの間で包括的に歌唱が許諾されていない限り、松山さんも勝手に演奏出来ないことになりかねません。しかし、今回の松山さんの歌唱(演奏)は、無償のボランティアであることが明白です。そうなると、営利を目的とせず、観客から料金を徴収しない場合は、公の場で演奏できると定めた著作権法38条1項によって歌唱は適法となるでしょう。松山さんの善良な行動が著作権法上問題となる可能性はないと考えられます」

●航空会社の責任は?

航空会社はどうでしょうか。

「著作権法には、カラオケ法理というのがあります。演奏などを行った主体を形式的、物理的に捉えるのではなく、利益の帰属先など実質的な観点から把握していこうとする考え方です。今回の『大空と大地の中で』を歌唱する行為に置き換えて考えると、必ずしも松山さんの行為が著作権侵害の主体とされるとは限りません。今回の歌唱は、航空機のマイクを使っていて、航空機の乗客が落ち着いてその管理が円滑になるという利益が航空会社に帰属しているとも捉えられるからです。

そうなると、今回の歌唱の主体が航空会社と評価される可能性もないとは言えません。もちろんその場合も、航空会社が機内での演奏などについてJASRACと包括契約等をしていれば問題はないでしょう」

包括契約をしていなかった場合はどうなるのか。

「包括契約等がないとすると、先ほどの営利を目的としない場合の著作権法38条1項が適用できるかどうかがポイントとなります。その場合、航空会社は『飛行機の遅れを我慢している乗客をなだめる』という航空機運航という営利行為の円滑化を目的として歌唱を許可し、その利益を得たとも考えられます。

そうなれば、営利目的の演奏として、先の著作権法38条1項の適用がないとの結論もありえます。ただし、今回はあくまで『偶然乗り合わせた乗客同士の親睦を航空会社がサポートしただけ』という見方をすれば、営利目的の演奏とは評価できず、著作権法38条1項を適用して適法化できることになります。今回のケースは松山さんの好意から出た行いですから、航空会社についても適法と評価した方が結論としては妥当ではないかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
齋藤 理央(さいとう・りお)弁護士
I2練馬斉藤法律事務所。東京弁護士会所属。著作権を中心とした知的財産権(IP)や、ICT(インターネット)法務を「I2法務」と位置づけ特設サイト(http://w-tokyosaito.jp/)を設けるなど積極的に対応している。これまで米国法人を相手にしたインターネット、著作権の争点を含んだ訴訟などを複数含めて知的財産権法専門部等に係属する複数の訴訟に対応し、契約書作成、セミナーなど知的財産権ICTに関連する種々の業務を行ってきた。
事務所名:I2練馬斉藤法律事務所
事務所URL:http://ns2law.jp/