ゲスの極み乙女。のほな・いこかは『黒革の手帖』に出演

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 お笑い界など異業種からのドラマ出演はこれまでも多かったが、昨今、急速に増えているのがミュージシャンだ。それもボーカルだけではなく、ドラマー、ラッパーなど、ミュージシャンの中でも多ジャンルに及んでいるのが最近の傾向だ。その背景について、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 これまでもミュージシャンのドラマ出演はありましたが、ここ数か月間で一気に加速。放送中の朝ドラ『ひよっこ』(NHK)に銀杏BOYZ・峯田和伸さん、『100万円の女たち』(テレビ東京系)の主演にRADWIMPS・野田洋次郎さん、『突然ですが、明日結婚します』(フジテレビ系)の準主演にflumpool・山村隆太さん、『俺のセンセイ』(フジテレビ系)の主演にエレファントカシマシ・宮本浩次さんが、次々に出演しました。

 さらに夏ドラマでは、『カンナさ〜ん!』(TBS系)にシシド・カフカさん、『黒革の手帳』(テレビ朝日系)にゲスの極み乙女。のほな・いこかさん(さとうほなみ名義)、『わにとかげぎす』(TBS系)に水曜日のカンパネラのコムアイさん、クリープハイプの尾崎世界観さん、ACEさんとDOTAMAさんが出演します。

 冒頭に挙げた4人はボーカリストであり、数こそ増えていますが、言わば「これまでもよくあった」人選。しかし、シシド・カフカさんと、ほないこかさんはドラマー、ACEさんとDOTAMAさんはラッパーであり、選択肢がグッと広がっているのです。

◆脇役俳優のマンネリを回避したい

 テレビ局側がミュージシャンを起用する最大の狙いは、「独特な存在感で物語のアクセントになれる」から。パッと見たビジュアルだけでなく、個性あふれる生き方からにじみ出るインパクトの強さや“異物感”が期待されています。

 実際、シシド・カフカさんは不倫女性、コムアイさんは愛人、ACEさんとDOTAMAさんは闇金の取り立て屋、尾崎さんは主人公の未来を暗示するドラマオリジナルのキーマンと、それぞれキャラクターの濃い役を演じていますし、登場からわずか数秒で強いインパクトを残しています。

 私がキャスティング担当の民放ドラマプロデューサーに取材した中では、「演技力よりも存在感が重視される役は意外に多く、ミュージシャンがはまりやすい」「ミュージシャンには俳優にないオーラがあるし、知名度の低い若手・中堅俳優よりも優先されるときがある」という声がありました。

 もう1点、見逃せないのは、「ミュージシャンならではの表現力に期待している。むしろボーカリスト以外のほうが面白い人材は多い」という声。ピエール瀧さん、金子ノブアキさん、浜野謙太さんらの成功によって、視聴者もボーカリスト以外の演技に対する期待感が増しているのです。

 余談ですが、プロデューサーの思惑として、「連ドラで起用される脇役俳優がかぶりがちなので、マンネリを回避したい」という本音も聞けました。ミュージシャンの起用は、プロデューサーとしてのセンスを示しやすく、ローリスク・ハイリターンが期待できるため、積極起用が続いているようです。

◆ミュージシャンを取り巻く厳しさと自由

 もちろんミュージシャン側の事情もあるでしょう。以前と比べると、「CDセールスが落ち、ライブ以外の収入がほしい」「音楽番組が少なく、知名度を上げる場がない」「ロックからクラシックまでジャンルを問わずビジュアル重視のデビューが増えている」「音楽以外の活動を『カッコ悪い』『邪道』とみなす風潮がなくなった」など、ミュージシャンを取り巻く状況の変化があります。

 しかし、それらの事情があるにしても、すでに売れているミュージシャンがドラマ出演することでネガティブな印象を与えるリスクがあるのも事実。そのため本人も所属事務所もミュージシャン活動時と同じイメージの役柄を慎重に選ぶ傾向があり、そこで評価を得られたら再挑戦し、徐々にイメージから離れた役柄を演じるようになっていきます。

 この方法はミュージシャンがバラエティー番組に出演するときも同じ。現在は、俳優、芸人、モデル、アイドル、グラビアアイドルなど芸能界全体に「専門分野を超えてボーダレスな活動をしよう」という流れがあるだけに、今後ミュージシャンがどの分野に進出しても驚きません。

◆夏に大量キャスティングされた意味

 かつて、ミュージシャンをドラマに起用する最たる理由は、「女性視聴者狙いで男性ミュージシャンを起用しよう」でした。つまり人気先行のキャスティングだったのですが、俳優として評価を得た人が増えた現在は、テレビ局のプロデューサー、ミュージシャンそれぞれの意向が一致し、相思相愛の関係になっているのです。

 ただ、夏ドラマにここまで多くのミュージシャンが集結したのは単なる偶然なのでしょうか。夏はミュージシャンがひときわ輝くフェスの季節。プロデューサーたちが、「ミュージシャンの熱気や開放感をドラマに採り入れようと考えたのでは」と深読みしたくなります。

 この夏、「この俳優、知らないけど何か存在感あるな」「出番は少ないのにやたら気になる」というキャラクターがいたら、それはミュージシャンなのかもしれません。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。