20代の9割が終身雇用を支持? IoT時代の働き方の改善に立ち塞がる課題を打開する「スキル革命」とは

写真拡大 (全6枚)

アクセンチュア株式会社は2017年5月25日(木)、都内 大手町ファーストスクエアカンファレンスにおいて、「デジタル時代の雇用・働き方の未来:スキル革命」と題した記者説明会を開催した。

現在の日本は、
・出生率が低下
・平均寿命が延長
などから、少子高齢化が進行しており、生産年齢の人口が減少という大きな社会問題になっている。

こうした現状で最も影響をうける企業は、抜本的な生産体制の見直しや、高齢労働者の活用などを迫られている。
一方、労働者側でも、IoTやデジタル化による仕事のあり方が大きく変化しており、柔軟な働き方への対応が求められている。

今、企業や労働者の双方にいとって、雇用や組織の在り方について見直す分岐点と時代が訪れていると言えるだろう。

説明会では、雇用と働き方の未来について「スキル革命」という観点から同社で実施したグローバル調査の結果に触れながら、雇用や働き方についての説明があった。

■ 日本人はスキルアップしたいが、実行に移せない?
昨今、働き方改革がクローズアップされており、働き方の改革により生産性の向上を図るというアプローチは、企業と労働者にとって大きな課題となっている。

アクセンチュア株式会社戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクター高砂哲男氏によると、一人当たりの付加価値を高めることが生産性の向上、ひいては「スキル革命」に繋がるという。

アクセンチュアは2016年11月から12月にかけて、「雇用・働き方の未来」に関する意識調査を実施。
・対象国は、日本を含むG20加盟国10ヶ国の労働者1万527人
・対象職種は、経営者から作業員まで産業・スキルレベルを横断した約840の職種
・対象年齢は、1946年生まれ以降の3世代にわたる労働者

調査結果によると、
・多くのビジネスパーソンは、テクノロジーによる変化を現実的にとらえている
・変化を意識し、自分自身のスキル習得に対して前向きにとらえている

日本での特徴では、
・テクノロジーの変化に対してネガティブな反応を示す層がやや多い
・スキルアップには前向き
・スキルアップ実行に移せる状況にない層が多い
という傾向がある。
さらに「何を習得するのか?」という、目的が明確でない労働者が多いという。


アクセンチュア株式会社戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクター高砂哲男氏


■AIやロボット、職業人生の長期化からキャリアチェンジのためのスキル革命が必要
では、日本を取り巻く環境の変化をみてみよう。

日本でも、従来の雇用・働き方の前提が大きく変化し始めている。
具体的には、
・テクノロジーの進化・浸透
・職業人生の長期化
・人口減少と高年齢化
・価値観の多様化
といった変化が進行している。

直面する問題が
「環境の変化に対し、人材・組織をどう適応させていくか?」
だ。

・テクノロジーの進化・浸透
雇用の置換・創出の両面で影響がある。
具体的には、
・AI/Roboticsによる労働力の代替
・新ビジネス、生産性向上による雇用の拡大
である。

・職業人生の長期化
企業や事業の寿命よりも、労働者は長く働くことが当たり前になっていくということだ。

・人口減少と高年齢化
2030年には、45歳以上が50%を超えると予測されており、今後、日本の労働力の中心は、45歳以上にシフトしていく。

・価値観の多様化
仕事に対する目的や価値観は、常に変化しているが、近年の特徴は、楽しい生活をしたい人が増える一方で、自分の能力をためす、社会に役立ちたい、という人は現象傾向にある。

現状の社会情勢では、今後、労働者における職業人生は長期化し、就寝雇用が失われた現在、キャリアチェンジの必要性は以前以上に高まっている。しかし、実際にキャリアチェンジするために必要なスキルの習得は、十分にできていないというのが現状の問題としてある。

そうした今後の社会で、企業や労働者にとって必要とされるのが、労働者の付加価値を最大化し、生産性を高めるアプローチである。

そのためには、企業、労働者の双方にとってメリットとなる変革を実施できるかが、大きな鍵となる。
つまり、「労働市場の変革=スキル革命」が必要となるというわけだ。

スキル革命とは、
・AI/Roboticsといった機械に代替させる領域
・新しい領域の生成と人材のシフト
これらにより、労働の質を高めていくことが必要としている。

日本企業を取り巻く雇用・働き方の変化


■20代の9割近くが終身雇用を支持
現在の日本の企業や労働者は、スキル革命の実現に対して、2つの課題を抱えている。

ひとつは、
キャリアシフトを前提とした新しい働き方に対し「スキルの活かし方を知らない」ということだ。
調査でも、自分のスキルは「この会社だからこそ活かせる」と答えた人の割合が、日本は他国に比べて圧倒的に多いのだ。

もうひとつは、
「キャリアプランに合わない働き方をしている」ということだ。
具体的には、
雇用形態、評価制度、キャリアパスの自由度が少なく、労働者が実際に求めている働き方ができていないというギャップの存在だ。

こうした状況を生み出しているのが、日本の「終身雇用制度の支持率」の高さだ、
実に、日本では20代でも9割近くが終身雇用を支持している状況なのだ。また日本企業における長期雇用を前提とした人材教育も労働者の柔軟なキャリア変更を妨げていると考えられている。

また、労働者が望む働き方の多様化に対し、まだ企業側の対応が十分でない現状もある。
たとえば、
在宅勤務の導入は、企業の85%が「検討余地なし/不明」と回答している。

終身雇用制度の支持割合


■必要な人材を多方面から調達
では、日本企業は何に取り組むべきなのか?

アクセンチュア株式会社戦略コンサルティング本部マネジャー大崎邦彦氏は、スキル革命に取り組んでいる企業の事例をもとに、3つの改革テーマがあるという。
1.スキルを体系的に再構築
2.能力を最大限に発揮できる働き方を整備
3.人材獲得のパイプライン強化


アクセンチュア株式会社戦略コンサルティング本部マネジャー大崎邦彦氏


・スキルを体系的に再構築
これまでは、会社固有の知識やスキルの習得に注力するあまり、本質的なスキルの習得が不十分となる傾向がある。
営業職の場合、
自社の製品知識やプロセスは詳しいが、そこから外れた汎用的な仮設の構築やプロセスに対しての知識が乏しく柔軟性がないケースが多いという。
対策としてモバイルトレーニングアプリを活用することで、生産性を10~25%向上し、育成コストは30~50%削減、離職者も20~40%減少させることができた事例もあるという。

・能力を最大限に発揮できる働き方を整備
労働者の働き方の多様性に応えるため、企業の柔軟な制度の変更や、期間限定のプロジェクト型の採用などで、働き方スタイルへ変えていく。

アクセンチュアには、社内の転職サイトのような世界の募集中のポジションを検索、閲覧、応募できるサイトがあるという。
また、リモートワークにより、従来では就業が難しかった人材も活用しており、在宅勤務制度やプロジェクトベースの働き方を活用することで、遠隔地での業務も可能という。

人材獲得のパイプライン強化
「適材・適所・適時」を実現する採用の仕組みを整えることで、社内だけでなく、プロジェクト単位で必要な人材を多方面から調達し、採用することが可能となるという。


「スキル革命」を実現するためには、何をすればよいのか?


現在の企業は、スキルの再構築を促進させる育成体制と働き方を整備する必要がある。
従業員にとって魅力ある企業となることで、従業員のスキルを事業成果に繋げることができる。

一方、多くの労働者は、50年近く企業という中で仕事をするため、「いつ、どんな働きをするのか?」を考える必要がある。そのためには、テクノロジーの進化を前向きに捉え、積極的に学び、それを活用しなければならない。

さらに国家レベルでは、産業スキルの見える化、企業や産業を超えたキャリアシフトを促進させていく必要がある。
そのためにも、キャリアシフトを望む労働者に対して、リスキルするための制度や仕組みの整備が必要だ。

現在の日本には、こうした「スキル革命」は、企業や労働者、双方にとって、グローバルな世界と向き合うために必要不可欠なものと言えるだろう。


ITライフハック関口哲司