海外メーカーのエナジードリンクは、日本でも若者を中心に人気だ。(時事通信フォト=写真)

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■「強くなれる」と感じることができる

日本のビジネスマンは、エナジードリンクの虜である。ある調査では20〜50代の1万人のビジネスマンの61.9%が飲んだことがあると回答し、その多くの理由は、やる気・元気を出したいというものであった。

しかし、海外では栄養ドリンクの一種であるエナジードリンクに対し、米陸軍が効果を疑い、リスクばかりなので控えるように警告を発しているのだ。

米軍は筆者の知る自衛隊員が驚くほどのエナジードリンク中毒である。前線と後方を問わず、大量のエナジードリンクが備蓄され、多数の米兵が愛飲している。米陸軍の調査によれば、アフガン侵攻時に米陸軍の45%が毎日1本以上を消費。14%は1日3本以上飲んでいるという。

そんな状況下にある昨年末、米陸軍当局は、エナジードリンクの過度の飲用を避けるべきだとの警鐘を鳴らした。

理由の第1は、ドリンクの成分であるタウリンの効果である。米軍人保健科学大学健康・軍事能力協会理事長のパトリシア・デウスター博士は、「多くのエナジードリンクメーカーは、タウリンは精神と肉体の両面の能力を高めると主張しているが、その神経内分泌作用についてはほとんど不明である」と指摘する。

第2に、大量に含まれている砂糖である。中には1本内に27gの砂糖が入っているドリンクもあり、これだけで男性の場合、1日の許容量の3分の2を占め、女性の場合は、許容量を2g超えているという。昨年の時点で、米陸軍内の全将兵の約10.5%が太りすぎで役に立たないという報告もあった。問題になるのは当然と言えよう。

第3は、砂糖同様、大量に含まれているカフェインである。デウスター博士は、カフェインの過剰摂取は、血圧上昇、パニック発作、動悸、不安、脱水、不眠症等を引き起こし、4時間以内に200mg以上(コーヒー3.3杯)を摂取することは避けるべきだと忠告した。

さらに米兵たちはエナジードリンクと酒のカクテルが大好きだ。しかし、カフェインには酔いを感じにくくする効果があり、飲みすぎる確率が3倍にはねあがるという。

そして、警告を発するに至った最大の理由が睡眠障害である。米兵たちは、往々にして眠気を振り払うためにエナジードリンクを飲むが、それが睡眠障害に繋がってしまう。睡眠6時間前以降のカフェイン摂取は睡眠障害になりかねず、3日以上連続して飲んだ人間は、作戦行動中やブリーフィング時に居眠りをする可能性があると米陸軍は報告している。また別の調査では、1日5〜6時間の睡眠がもたらす結果は、血中アルコール濃度0.08%(ウイスキー3杯もしくはビール瓶2本)の酩酊状態に匹敵するとしており、大変危険なのである。

では、兵士たちはどうすればよいのか。米陸軍の結論は、「水でも飲んでろ」。お金もかからないし、健康的という実に単純明快な説明だ。

だが、いつの世も、科学と根性論は相性が悪い。科学的見地に基づいた忠告に対し、現場の一部からは反発の声があがった。戦場経験のある元軍医はこのように語る。

「米陸軍の声明は、善意に基づいているが現実を無視している。2時間睡眠で、12時間のパトロールが必要な場合だってあるが、大量の砂糖とカフェインを飲まねばやってられない。タウリンに効果がない? タウリンは大きな雄牛の睾丸から抽出される。だから牛のように強くなれると『感じる』のだ」

冗談だとしながらも、やけくそな現場の本音を述べているとみるべきだろう。ただし同情はできても、説得力のある意見ではない。

米陸軍は効果が怪しく、リスクばかりと評したが、しょせん、エナジードリンクとは幻でしかないのかもしれない。だからこそ、幻は幻としての付き合いが肝要だろう。要するにロマンを飲むものとして、自らの危急存亡のときに1本だけ飲むものであって、本気になって何本も飲むようなものではないのだ。あなたの健康と美容のためにも。

(一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構研究員 部谷 直亮 時事通信フォト=写真)