少なくとも、86あるその代表試合出場数のうち、80試合以上は実際に見ているつもりだが、出来映えがよかった試合に遭遇した記憶がない。背番号10が中心選手であることを示すアイコンだとすれば、それに相応しいプレイを見たこともない。

 先のタイ戦。スコアは4−0ながら、満足度の低い内容だった原因のひとつに、香川真司の10番らしからぬプレイは大きく関係していた。

 プレッシャーがないのに横パスをカットされたり、縦パスを引っかけられたり。ワンランク落ちる相手にもかかわらず、格の違いを発揮できなかった。

 チャンピオンズリーグ準々決勝第1戦、ドルトムントホームで行われたモナコ戦で、1−3を2−3にする貴重なゴールを決めた選手と、同一人物には見えないのだ。

 正確なトラップ。深々とした鋭い切り返し。相手の逆を突くアクション。モナコ戦のゴールは、日本人選手が過去の国際舞台で挙げたゴールの中でも、相当上位にランクされる。まさに“柔よく剛を制する”その牛若丸的アクションに、日本人選手かくあるべしと、勇気づけられたファンは多くいたはずだ。

 モナコ戦ではマックス値の高さを証明した格好の香川だが、例えば、日本代表の次戦対イラク戦で、同レベルのプレイが望めるかと言えば、怪しい限りだ。いつ活躍するかアテにならない、大きな期待を寄せると裏切られそうなタイプ。それが香川だ。

 得意なのは感覚的なプレイ。基本的なプレイは苦手だ。ポジション的な制約が課せられると、魅力は半減。相手に引っかかりやすくなる。ちょっとしたことで、精神的なノリも悪化。10の力を10発揮できなくなる。ミスの回数はおのずと増える。安定感に乏しい線の細いプレイヤー。僕の目にはそう映る。
 
 だが、繰り返すが、忘れた頃に潜在能力の高いプレイを見せる。諦めかけた頃、突如、好プレイを披露する。そのイメージがあるから、つい監督は起用したくなるのだろう。10番を与えたくなるのだろうが、総合的な評価は競馬で言うところの「▲」。単穴だ。本命、対抗に勝る可能性を秘めた3番手。しかし、コンスタントではない。4番手以下に落ちる場合もある。監督にとっては計算しにくい、使い勝手の悪い選手だと思う。起用には忍耐が求められる。
 
 10番が不似合いな選手だと思う。香川が日本代表で10番をつけ始めたのは、ザックジャパン時代の2011年アジアカップから。2010年南アW杯まで中村俊輔が背負っていた10番は、空白のままおよそ半年間が経過。候補の1番手は、本田圭佑かと目されていた。だがザッケローニはその時、ドルトムントで脚光を浴びていた香川を選択。本田は18番を経て4番の選手に収まった。

 とはいえ、このアジアカップで、最も頼りになるプレイを見せたのは本田。10番に相応しい選手は香川ではなく本田に見えた。それから6年以上経つが、本田と香川、両者の背番号に変化はない。
 
 低迷するミランで、背番号10を背負いながらベンチを温めるばかりの本田に対して、CL準々決勝を戦うドルトムントで、スタメンの座に返り咲いた香川。そして、こちらの背番号は、ずっと23だ。チームの主軸が付ける背番号ではない。ある種のお気軽さを感じさせる背番号だ。いつ活躍するかわからない香川のキャラに相応しい背番号に思える。

 香川がドルトムントで、これからどうなっていくか。いま以上に活躍するか、それとも、再びサブに戻るか、予断を許さない状況にあると思うが、幸いしているのは23番という重みのない背番号だ。背負うものは少ない。おそらくトーマス・トゥヘル監督も、香川には過度な期待は寄せていないはず。
 
 10番をつけて出場する日本代表の香川とは、対照的な立ち位置だ。こちらは重みのあるハードルの高い背番号。モナコ戦のようなゴールをアジア最終予選でも期待したいなら、10番キャラではなく、23番キャラで臨ませてやった方がいいと考える。
 
 香川も28歳。あるいは2018年ロシア大会が最後のW杯になるかもしれない代表キャップ86回のベテランだ。その割にプレイは大人げない。協調性、対応力に乏しい。チームの大黒柱に相応しいメンタリティの持ち主でないことは見えている。よく言えば、少年らしさを残している。放っておけば、輝く可能性がある。
 
 主役ではなく端役。1番、2番ではなく3番手。扱いを「▲」に下げ、重苦しさから解放してやった方が、活躍は期待できる。実は過度に期待されていない、ドルトムントでの立ち位置を日本代表にも適用すべし。この取り扱いの難しい選手に、ハリルホジッチはどう向き合うか。厄介な存在は本田だけではないのだ。