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 4月から新年度です。多くの会社で”新社会人”が入社してきます。そして、上司として、先輩として、そんな新人さんたちと接する機会が多いのが4月です。

 そんなとき、私がお話しするのが産業医からひとつだけ社員にお願いしたいことです。ぜひ、あなたの会社の新人さんにも、この内容をお伝えいただければと思います。

◆偏差値教育、受験戦争で育った新入社員

 産業医から上司のみなさんから新人さんたちに伝えていただきたいたったひとつのこと、それは社会人になったら「他人と自分を比較しない」ということです。

 最近の若い人たちは、成長過程で偏差値教育、受験戦争、結果主義的な要素の中で褒められ、おだてられ、育ってきていることが多いです。褒められ、おだてられ育つことは高い自己肯定感につながるのでいいのですが、偏差値教育や度重なる受験等の結果、周囲との相対的評価=周囲と比べてどうか、という価値観を持ってしまっている若者が多いと感じます。

 その結果、大きな壁にぶつかったときに、すぐに周りを見渡し、周りが対応できていると、それを真似すればいいのですが、なかには真似するのではなく、自分は出来ない、という評価を安易に下してしまう人もいます。

 それが本当に周囲から見ても越えるのが難しい大きな壁であればまだいいのですが、その”大きな壁”ですら、本当は大きな壁とは呼べないものであるということが多いことも皮肉です。

 そのような人ほど、周囲がそんな自分を助けてくれず、指導してくれないと、どんどん落ちこんでしまいがちです。これがメンタルヘルス不調になるきっかけとなることが多々あります。

◆他人と自分を比較するとどうなる?

 他人と自分を比較するべきでない理由は主に3つにわけられます。

 1つ目として多くの新社会人は、今まで同学年の人と自分を比べて、自分のレベルを把握していました。しかし、社会人になると、自分より上に30学年以上もいます。しかも、全員新人の自分より仕事を知っている人たちです。そのような人たちと自分を比べても、落ち込む以外ありません。比べること自体が間違っているのです。

 2つ目はあなたは50%の確率で、平均以下だからです。

 私の経験上、入社時面接でどんな綺麗事を言っていた学生でも「同じレベルの先輩がこのレベルの会社を受けていた」、「同じレベルの友人たちが受けるレベルの会社を受けたら受かった」という理由でその会社に入ってくる人はたくさんいます。

 今までクラスの中で、トップ10%だった人も、その会社に入った時点で、90%の人はトップ10%から脱落しています。今まで平均上だった人も、新しい集団ではすでに半分の人は平均以下に落ちています。つまり、他人と比較することは高い確率で自分を楽にはしてくれないことなのです。

 3つ目はこれから30年以上つづく職業人生上、大切なのは現時点での能力よりも、個としての成長とそれによる能力であるからです。他人と自分を比較する人は、その比較した他人を追い越した時点で満足してしまい、成長が止まってしまうのです。本来、今の自分がどうか、過去の自分よりも頑張っているか、過去の自分よりも前進しているかといった点にこそ意識を向けるべきなのです。

 昨日の自分よりも今日の自分、先週よりも今週、先月よりも今月、1年目よりも2年目。それぞれで過去の自分よりも成長していることが大切なのです。今、他人と比べることは優先課題ではありません。

◆やる気と希望の満ち溢れた時期にかける言葉

 新社会人さんたちにとっての4月は多少の不安を持ちつつも、やる気と希望の満ち溢れた時期です。多くの人は自分はストレストには負けない、メンタル不調なんて縁がないと信じています。そのような時期にストレスやメンタルヘルスの話をしても、新人さんたちは聞く耳を持ってくれません。彼、彼女らの心には響きません。

 そこで、社会人になったら他人と自分を比べることをやめましょう。他人と自分を比較してもしょうがない。何事にも初めてのことはできなくてもしょうがない、いずれ自分は出来るようになれるという、揺るがない信念をもって対処して欲しい。

 このことをぜひ、上長として、あなたの会社の新人にも、お伝えいただければと思います。

<TEXT/武神健之>

【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある