「ほめる」ではなく「ゴマをする」。43年前のコミュニケーション本で見つけた驚きの対人スキル
歓送迎会に花見、入社式と、一年でもっともコミュ力が試される四月がやってきた。
新しい上司や新しい部下、新しい職場などなど、ゼロから人間関係を作らなければいけないことの多いこの時期が毎年憂うつだという人は、筆者だけではないと信じたい。
ただ、コミュニケーションが苦手だろうが会社が退屈だろうが人間が嫌いだろうが、誰とでもある程度は意思疎通ができないことには仕事にならんわけで、憂うつだ苦手だと言っていないで、多少はうまくやる工夫もしなければとも思うのである。
このような気分低調な時節あいさつからはじまった本コラムだが、コミュニケーションはいつの時代も組織や学校で快適に過ごすための大事なテーマには違いない。
では、今よりもずっと人と人の距離が近く、人間関係が濃密だった時代は、このテーマについてどんなことを教えていたのだろうか。古い書物から今に活かせる知恵を発掘する「虻蜂コラム」、第3回となる今回はコミュニケーションのお話である。
■「ほめる」ではなく「ゴマをする」
1974年に発売された『鈴木健二の上手な話し方のコツ』(永岡書店刊)という本がある。
話し下手・聞き下手・アガり症など、いまでいう“コミュ障”向けの対人関係指南書なのだが、主張としては同じテーマを扱った今の本と変わらなくても、微妙に言葉づかいが違っていて興味深い。
たとえば、相手といい人間関係を保ったり、チームの人間関係を円滑にするために大切だと言われるのが「ほめること」だが、この本ではてらいなく「ゴマをする」という言葉を使っている。
「ほめる」と「ゴマをする」は違う!という意見はありそうだが、意識して人をほめようとすれば、時には思ってもいないことでほめたりもせねばいかんわけで、両者の違いは実際曖昧だ。それなら初めから「対人関係を円滑に進めるにはゴマをすれ」と言ってくれたほうが、こちらも覚悟を決めて取り組みやすいというもの。
さて、肝心の「ゴマすり」だが、これはあまり熱心にやりすぎず、できるだけ短い言葉で端的にするのがいいようだ。
「課長、いい洋服ですねえ」くらいがほどほど、「いい洋服ですね、とてもいいセンスの柄ですが、どこで買ったんですか」までいくとやりすぎだそうだ。「それ、舶来の生地でしょ」(このあたりの言い回しに時代を感じる)もトゥーマッチである。
ゴマはごくごく簡潔に、相手が素直に喜べるようにするのが鉄則。おぼえておこう。
■「こそ」に気をつけて「謙虚でいいやつ」になってみよう
実用的であるのと同時に、態度として肝に銘じようと思ったのが、「こそ」という言葉の言い回しだ。
本書では、この「こそ」を「自分につけるな、他人につけろ」と書いている。つまり、「あなたこそ必要だ」「君だからこそこの仕事を成し遂げられたんだ」と、他人に「こそ」をつけられる人は対人関係がスムーズになるが、「これは俺だからこそできたんだ」という傲慢な態度はNGということ。
あまり謙虚になりすぎるのも良くないが、自慢がすぎる人間は煙たがられるのはあたりまえだ。
「とりあえず皆とうまくやりたいが、組織の中で目立ちたいわけではないし、自分を誇示する気もない」という人は「こそ」に気をつけてみて話してみると「謙虚でいいやつ」という、何となく波風立てずに組織で働いていけそうなセルフ・ブランディングができるのである。
最後に、対人関係が苦手な人が陥りやすい失敗例についても触れておこう。
筆者にも覚えがあるが“コミュ障”が一念発起してやる気を起こすと、ついつい話しすぎるということが起きる。具体的には、共通の趣味があるとわかった人や、話が合う(と勝手に思っている)人など、「この人とはわかりあえる」と感じた相手に対して、自分のことを話しすぎてしまうのだ。
しかし、本書によると人の話を快適に聞けるのは長くて45秒。おもしろい話でも45秒である。
積極的にコミュニケーションを図るのは大切だが、話術もないのに長々と自分話をするのはご法度。“コミュ障”がコミュニケーションで生きる道は、どちらかというと「聞き上手」になることなのである。
(新刊JP編集部・山田洋介)
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では、今よりもずっと人と人の距離が近く、人間関係が濃密だった時代は、このテーマについてどんなことを教えていたのだろうか。古い書物から今に活かせる知恵を発掘する「虻蜂コラム」、第3回となる今回はコミュニケーションのお話である。
■「ほめる」ではなく「ゴマをする」
1974年に発売された『鈴木健二の上手な話し方のコツ』(永岡書店刊)という本がある。
話し下手・聞き下手・アガり症など、いまでいう“コミュ障”向けの対人関係指南書なのだが、主張としては同じテーマを扱った今の本と変わらなくても、微妙に言葉づかいが違っていて興味深い。
たとえば、相手といい人間関係を保ったり、チームの人間関係を円滑にするために大切だと言われるのが「ほめること」だが、この本ではてらいなく「ゴマをする」という言葉を使っている。
「ほめる」と「ゴマをする」は違う!という意見はありそうだが、意識して人をほめようとすれば、時には思ってもいないことでほめたりもせねばいかんわけで、両者の違いは実際曖昧だ。それなら初めから「対人関係を円滑に進めるにはゴマをすれ」と言ってくれたほうが、こちらも覚悟を決めて取り組みやすいというもの。
さて、肝心の「ゴマすり」だが、これはあまり熱心にやりすぎず、できるだけ短い言葉で端的にするのがいいようだ。
「課長、いい洋服ですねえ」くらいがほどほど、「いい洋服ですね、とてもいいセンスの柄ですが、どこで買ったんですか」までいくとやりすぎだそうだ。「それ、舶来の生地でしょ」(このあたりの言い回しに時代を感じる)もトゥーマッチである。
ゴマはごくごく簡潔に、相手が素直に喜べるようにするのが鉄則。おぼえておこう。
■「こそ」に気をつけて「謙虚でいいやつ」になってみよう
実用的であるのと同時に、態度として肝に銘じようと思ったのが、「こそ」という言葉の言い回しだ。
本書では、この「こそ」を「自分につけるな、他人につけろ」と書いている。つまり、「あなたこそ必要だ」「君だからこそこの仕事を成し遂げられたんだ」と、他人に「こそ」をつけられる人は対人関係がスムーズになるが、「これは俺だからこそできたんだ」という傲慢な態度はNGということ。
あまり謙虚になりすぎるのも良くないが、自慢がすぎる人間は煙たがられるのはあたりまえだ。
「とりあえず皆とうまくやりたいが、組織の中で目立ちたいわけではないし、自分を誇示する気もない」という人は「こそ」に気をつけてみて話してみると「謙虚でいいやつ」という、何となく波風立てずに組織で働いていけそうなセルフ・ブランディングができるのである。
最後に、対人関係が苦手な人が陥りやすい失敗例についても触れておこう。
筆者にも覚えがあるが“コミュ障”が一念発起してやる気を起こすと、ついつい話しすぎるということが起きる。具体的には、共通の趣味があるとわかった人や、話が合う(と勝手に思っている)人など、「この人とはわかりあえる」と感じた相手に対して、自分のことを話しすぎてしまうのだ。
しかし、本書によると人の話を快適に聞けるのは長くて45秒。おもしろい話でも45秒である。
積極的にコミュニケーションを図るのは大切だが、話術もないのに長々と自分話をするのはご法度。“コミュ障”がコミュニケーションで生きる道は、どちらかというと「聞き上手」になることなのである。
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