2017年3月8日は、のちに「世界がKOHDAI SENGAを知った日」と語り継がれるようになるのではないか──。そんな予感を覚えるくらい、WBC初登板の千賀滉大は圧倒的な投球を見せた。

 153、151……、東京ドームの電光掲示板に数字が灯されるたびに、バックネット裏ではマウンドに向けてスピードガンを向けるメジャーリーグのスカウトが増えていった。


オーストラリア戦で2イニング4奪三振の快投を見せた千賀滉大 この日、最速155キロを計測した速球だけではない。決め球として使えるほどのキレを備えたスライダーを贅沢にカウント球として使用し、追い込んでからの仕上げは今や代名詞となった「お化けフォーク」。オーストラリア打線を相手に、千賀は2回を投げて4奪三振をマークした。

「球場一周全部が日本の応援をしてくれることはなかなかないことなので、ほどよい緊張感を持って投げられました」

 千賀は登板を振り返ってこうコメントした後、自身の言葉がしっくりこなかったのか、続けてこう言い直した。

「あまり緊張はしなかったんですけど」

 ここまでの道のりは順風満帆とは言えなかった。「千賀はWBC公式球に順応できていない」と見られることも多かった。WBC球はNPBで使用する球よりもひと回り大きく感じられ、表面が滑りやすいと言われている。同じくフォークが決め球の平野佳寿とともに、落ちる系の変化球を武器にする投手の多くがWBC球への順応に苦慮していると見られていた。だが、千賀はその見方を明確に否定する。

「ボールに関してはそもそも(問題)なかったので、フォームですね」

 春季キャンプでのブルペン投球では、ストレートも変化球もバラつきが目立ち、はっきりボールとわかる球が多かった。投球練習後には、「上体のブレが大きいので、ブレを抑える一心で。フォームだけを意識して投げています」と語っていた。それから約1カ月。「悩んできましたが、自分のフォームを思い出してしっくりきた」と手応えをつかんだという。

 オーストラリア戦では登板して4球目に初めてフォークを投げたが、ベースのはるか手前でワンバウンドし、コントロールできていなかった。だが、千賀は「フォークのことを言われますけど、(大きくワンバウンドすることは)シーズン中からしょっちゅうありますから」と意に介さない。

 千賀は以前、自身のフォークについて「抜く投げ方はしない」と語っていたことがある。意識することは「手首を曲げないようにする」ことだという。

「抜くタイプのフォークだと、すっぽ抜けると一発を食らいやすいんです。僕はそれがイヤなので、仮に抜けてもチェンジアップのようになって空振りが取れるフォークにしたかったんです」

 一昨年にヤクルトでプレーしたオーストラリアの4番、ミッチェル・デニングに対しては1ストライクを取った後に3球連続でフォークを続け、2回空振りを奪って三振。結局オーストラリアから奪った4三振のうち、2つの結果球はフォークだった。

 ソフトバンクでもチームメートであり、1学年後輩の武田翔太にかつてインタビューした際、千賀のフォークについて聞いてみると、あきれたような口調でこう漏らしていたのが印象的だった。

「あのフォーク……、ちょっとおかしいですよね」

 プロも異次元と認める落差が、この日はしっかりと蘇っていた。

 試合後、千賀の今後の起用法について聞かれた小久保裕紀監督は、こう答えている。

「今の時点では2番手といいますか、第2先発でと思っています。うしろのピッチャーも、今日の牧田(和久)は昨日と違って非常に落ち着いていましたし、そういうバタバタしているところではないので、2番手でロングもいけるというところを任すことになると思います」

 2017年3月8日は「世界がKOHDAI SENGAを知った日」であるとともに、「日本が千賀滉大を知った日」でもあるだろう。

 すでに千賀のことをよく知っているプロ野球ファンからすれば、「何を今さら」と思うかもしれない。だが、筆者はなぜこれだけの投手が国民的な知名度を得ていないのか、不思議でならなかった。

 おそらく野球を見たことがない人でも、千賀の投球を見れば感じるものがあるに違いない。少年野球人口の低迷が叫ばれている今だからこそ、今年のWBCでひとりでも多くの日本人に千賀の投球を見てもらいたい。千賀滉大という投手には、それだけの価値がある。

■プロ野球記事一覧>>