「相対的貧困」に苦しむ子どもたち 学費も自分で一部負担、入学金の準備に苦慮する高校生も
家庭の貧困がもたらす終わりの見えない負の連鎖…子どもが背負う苦境は社会に巣立つ直前まで続く
現在、子どもの6人に1人が貧困に喘いでいる。そんな衝撃的な状況を淡々と伝えるナレーションからはじまる、2月12日放送の「NHKスペシャル 見えない"貧困"〜未来を奪われる子どもたち〜」。
子どもが当たり前に持っているはずの、モノ、人との関わり、教育の機会。そういったものが奪われている現実が紹介されていた。(文:松本ミゾレ)
母と子どもの4人家族で月収21万円、支出は月19万円
普通の生活水準よりも下回る生活を送ることを強いられている世帯のことを、「相対的貧困」と呼ぶという。時代背景によって貧富の幅は変動するため、絶対的な目安はない。だからこそ相対的という言葉を使っているということだ。
その相対的貧困の世帯は、番組が紹介したところによると、およそ16.3%になり、子どもの6人に1人が、経済的に苦境を強いられていると目されている。相対的貧困の家庭の収入(両親と子ども2人という場合)の目安は、244万円未満とされている。
たしかに、年間このぐらいの収入しか見込めない状況では、子育てするのも大変だろう。番組では、相対的貧困家庭に該当する、ある一家を取材している。関西地方に住む、母子家庭の4人家族だ。
週5日、病院でパートをしている母親の収入は月額14万円。児童扶養手当の支給額がおよそ7万円ほど。月収はあわせて21万円ぐらいしかない。一方、毎月の支出は水道光熱費や学費などをあわせて、19万円ほどになってしまうという。これでは貯蓄もままならない。
「仕事と家事のことで余裕がなくてイライラすることがある」
東京都大田区では、区立小学校に通う小学5年生とその保護者、3500世帯を対象に調査を実施している。この調査では、「習い事に通わせる」「毎年新しい洋服、靴を買う」など、一般的な家庭であれば子どもに行っていると考えられる、14項目の指標を用意した。
そしてこのうち、3項目以上チェックを付けることができなかった家庭を、支援の対象世帯にすることにした。この結果、支援が必要とみなされる世帯は21%にも及んだ。ある世帯では、両親共に非正規で、父親は度々入院することもあり、月収は2人あわせて20万円程度になることもある。
「生活のための借金をすることもあり、国民健康保険の滞納も長期に渡っている」というアナウンスと共に、滞納額が34万円にも上る納付書が映っている。
母親は取材に対し「仕事と家事のことで余裕がなくてイライラすることがある。経済的なゆとりと、時間的なゆとりがないというのが直結しているのが原因と感じます」と話している。お金の余裕は心の余裕に直結するものだ。必死で働いているのに、なかなか実入りが少なく、その上で育児も平行して行うとなると、イライラするのも当然と言える。
貧困は、子どもの将来に暗雲をもたらすだけではなく、家族の精神的な部分をも蝕んでいくようだ。
学年トップなのに入学金に苦慮、教育ローンを組むことに
番組終盤では、千葉県が、県内在住の高校生に実施した進学費用に関するアンケートの結果も紹介した。これによると「親が払う」としたのが全体の45%で、半分以下。これに対して「一部自分」が40%。「全て自分」は15%という回答傾向になっていた。
奨学金は個人が返済する借金なので、これらも当然「一部自分」や「全て自分」に含まれている。奨学金だけではなく、アルバイト代を進学費用にあてるという場合もある。
多くの子どもたちは、自分の将来を見据えた上で、親をアテにはできないと悟っているということになるだろう。今では、奨学金の借り方や、返済までの道のりを教える授業まであるという。
番組に出てきた学年トップの成績をキープする高校生の女の子。将来は英語の教師になりたいという。しかし、彼女の家庭には大学に進出させるだけのお金がない。そこで奨学金に頼ることにしたのである。
ところが、大きな問題が生じた。入学金78万円が工面出来ない可能性が生じたのだ。奨学金が支給されるより先に、入学金を納付する必要があったというわけだ。この女の子が、教師と膝を突き合わせてこの難問について思案している様子を見るのは、なんとも虚しい気持ちにさせられた。
「金降ってこーい」
少女がうなだれながらそう呟く。進学までのタイムリミットまでに、彼女は奨学金だけでなく、国の教育ローンに手を出すという、高校生にしては大き過ぎる決断を下すことになりそうだ。
有能な若者が、社会に旅立つ最初の段階で、貧困が原因となって出鼻を挫かれる。そんな状況は、私たちが見ようとしていないだけど、実際には全国そこかしこで起きているのかもしれない。
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