落合陽一・きゅんくんらが次世代のイノヴェイターにバトンを渡す:「WIRED Lab. サマースクール」レポート

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去る8月22日から24日までの3日間、「WIRED Lab.」(ワイアード・ラボ)で、イノラボとTechShop Tokyo、『WIRED』日本版による中高生向けの『未来をつくる「イノヴェイション・サマースクール」』が開講された。参加者たちは、最先端のクリエイターやサイエンティストともに、自らの手で唯一無二のウェアラブルデヴァイスをつくり上げた。

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「自由研究」は「つまらない」

WIRED Lab.」で学生向けのイヴェントが開催されるのは初めてのことだ。集まった16名の中高生たちは、夏休みの3日間、10時から17時という長丁場に退屈する様子もなく、先進的なプログラムを受講していた。彼らから羨望の眼差しを受ける講師は、メディアアーティストの落合陽一、ロボティクス・ファッションクリエイターのきゅんくんら、今回のテーマであるIoT・人工知能(AI)・電子工作領域のフロンティアにいる人物だ。

「物理演算シミュレーターや3Dプリンターなど、テクノロジーの発達によって、ヴァーチャルと現実はすでにインタラクティヴ。コンピューターと実社会は、すでにどちらもリアルです。区別は実質(virtual)か物質(material)かだけ。その境界を曖昧にしていくのがメディアアーティストの仕事です」と、参加者に向け話す落合。難解な内容ではあるが、子どもたちは食い入るように耳を傾けていた。

この3日間の「夏休みの自由研究」では、参加者は午前中に電子工作やメディアの未来、AIについての入門講義を受けた上で、午後からそれを応用して、腕に装着するタイプのIoTデヴァイスを組み立てる。そのデヴァイスを『IFTTT』という「ウェブサービスをつくるためのウェブサーヴィス」によりプログラミングし、例えば「Gmailの着信があればデヴァイスに通知する」といったお気に入りの機能をもたせることができるのだ。

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1/13午前中は『WIRED』日本版がアークヒルズ内に構えるコラボスペース「WIRED Lab.」にて、座学。この日はきゅんくんを講師に、彼女がつくったウェアラブルロボットを体験。

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5/13午後はテックショップにてワークショップ。

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6/133日間を通して、組み立てキットと『IFTTT』を使い、自分の求めるスペックを求めてデヴァイスをつくっていく。

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主催者の1人は、このサマースクールを開講した理由について、「新しいテーマというのは往々にして、新しすぎて中高生の教育カリキュラムに採用されにくい」と言う。たしかに、本来であればこのような学習体験は、教育の現場で、柔軟な思考力と大胆な行動力を兼ね備えた次世代の子どもたちにこそ享受されるべきものだろう。しかし、参加者の1人、中学2年生の少年には、夏休みの自由研究は「つまらない」らしい。

普段からロボットコンテストなどに出場しているこの少年は、夏休みの自由研究として、磁石の力で車体がレールから浮き上がる簡単なリニアモーターカーをつくった。しかし、それはあくまで、教師の「OKをもらう」ため。本来この少年が取り組みたい、ロボット技術を追求するような内容は、「理科の範疇を超えてしまう」という大人の事情で、夏休みの自由研究の題材としては許可が下りないのだそうだ。

一方、このサマースクールでは、電子工作に使用されるLi-Po電池について、「取り扱いを間違えると爆発するおそれがある」と説明された。「注意事項はしっかり説明するが、それを守れなかった場合は自己責任」とも。学校の理科では、こんな説明がなされることは、おそらくない。だからこそ、子どもたちの目は一層の輝きを放ち、身を乗り出すように講師の次の言葉を求めていた。

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キットを組み立てる実践ワークショップは、WIRED Lab.と同じくアークヒルズ内に居を構えるテックショップで行われた。

画一化する教育により、意欲的であるほど純粋な興味が失われてしまう。このサマースクールに、過半数が加速度センサーやマイクロコンピューターを使ったことがあるギークな中高生たちが集まった背景には、そんな矛盾がある。しかし、時代の先駆者が周囲の理解を得にくいことは、発明家と呼ばれる偉人たちの幼少期のエピソードからも明らかだ。現代の発明家・きゅんくんは、どのようにこの矛盾を乗り越えたのか。

「わたしの場合は、学校の授業の内容よりも先に進んだことを質問すると、先生たちが喜んでくれました。夏休みの自由研究として、電子工作やHTMLのウェブサイト制作をしましたが、そこでわたしにわからないことは、先生にもわからない。そうすると先生たちは自分で勉強して、わたしに教えてくれたんです。環境に恵まれたと思うからこそ、このような機会には、できるだけ子どもたちをサポートしてあげたいですね」

学びの場を、自らつくりだす

子どもたちにこそこのような機会が必要なのは、思考力と行動力が発展途上であることだけが理由ではない。例えば、講義では「Orphe(オルフェ)」というスマートシューズが紹介された。Orpheは、モーションセンサーやLEDライト、無線モジュールを内蔵し、スマートフォンアプリにより体の動きと、光と音のインタラクションを直感的に操作できる。パフォーマンスに特化したスマートシューズだ。

Orphe: Smart Footwear for Artists and Performers from no new folk studio on Vimeo.

テクノロジーの発達により、われわれはクリエイションをする場すら新しくクリエイションできる。そのとき必要なのは感性だ。光を放ち、音が鳴るシューズによって生まれるまったく新しい表現に、ダンスや演技が恥ずかしくなる思春期以後に触れるのと、以前に触れるのとでは、アウトプットの差が大きくなるのは容易に想像がつく。その時点でIoTなどの技術への素養があれば、その表現がどのように昇華されるか、計り知れない。

『WIRED』とともにこの学びの場を用意したイノラボ、テックショップジャパンの担当者はそれぞれ、次のように語る。

「これからの脱構築世界を生きるシンギュラリティ世代にとって、ここで学ぶIoTやAIの素養は必要不可欠。価値多様性の時代にあって落合さんのように自らの哲学を構築することの重要性も、生徒には肌感覚で理解してもらえたと思います」(鈴木淳一・イノラボ)

「大人でも理解することが難しい課題に取り組み、完成させる中高生たちの姿に驚き、感動しました。今回は電子工作だけでなくTechShopのレーザーカッターを使ったレザークラフトも体感してもらいましたが、自分だけのものへの愛着や、ハンドメイドの楽しさも知ってもらえたのではないでしょうか」(中根智史・テックショップジャパン)

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約20年前、筆者が中学時代の自由研究でつくったのは、湿度によるセロファンの伸び縮みを利用した湿度計だった。板材と割り箸、虫ピンを材料にした、とてもアナログな出来のものだ。一方、現代の子どもたちは、たった3日間で、簡単な「Apple Watch」をつくることができる。隔世の感と同時に、次世代のイノヴェイションがもたらされる、無限の可能性を感じる。

出来上がったIoTデヴァイスを腕に巻き、無邪気にはしゃぐ子どもたちを見ていると、「できないこと」「失敗すること」に怖気づいてしまうことが老いであり、進歩を阻害する要因なのだ、と気がつく。『未来をつくる「イノヴェイション・サマースクール」』は、いまのトップランナーたちが次世代へとバトンを渡す様子であるように思えた。技術と哲学という名のバトンを持って、走りだす子どもたちは素直だ。あなたはどうだろう。

INFORMATION

シリコンヴァレーが考える21世紀の学校「AltSchool」

『WIRED』ならではのロングリードイシュー。1クラス40人、みんなが同じ教師の授業を受け、同じ科目を学ぶ。そんな従来の学校教育に疑問を感じた元グーグルの敏腕エンジニアは、テクノロジーの力を借り、徹底的にパーソナライズされた教育を行う「AltSchool」という名の学校を創設した。いままでの画一的な教育法を覆す、“オルタナティヴ”な未来の学校はいかにして実現され、何を変えようとしているのか。