天皇杯決勝でG大阪に敗れ、いつもよりもぎこちない笑顔の西川周作がミックスゾーンに現れた。パトリックに決められた2ゴールは、1対1からのシュートと、味方選手の股間を抜けたボールがネットを揺らしたもの。どちらもGKにはノーチャンスに思われたが、「それでも何とかしたいと思うのがGKなんです」と言う。

「今年、さらにバージョンアップしたいと思います」と言う。プレーヤーとして成長したいと思うからだけではない。「戻ってきますから」。西川がそういうのは、川島永嗣のことだろう。

川島が所属チームを見つけられない間、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は川島の日本代表への召集を止めていた。その間に正GKとしてゴールを守り続けたのは西川。だが、川島がダンディー・ユナイテッドと契約した以上、また日本のゴール前を争う強力なライバルが1人増えることになる。

川島はこの1年間、実戦経験がほぼなかった。「それでも川島さんは経験を持っているから、試合勘を失っていることはないと思います」と西川は警戒感を緩めない。

川島と一緒に練習をしていて、自分が優れている部分と川島のほうが優れている部分を西川はどこだと思っているのか。「それが、そんなことを思いながら他の人の練習を見たことがないんですよ。相手がうまくやっていることがあれば、すぐ参考にしているし」と人のいい西川らしい答えが返ってきた。

だが、それでも西川は「代表でレギュラーを取って活躍できたときに、ぜひやりたい」と言っていることがある。それはGKの楽しさをまとめた、自分自身の本を作ること。そのためにも、西川はこの日止められなかった2本のシュートをはね返したいのだ。

最後に西川は「バージョンアップします」ときっぱりと言った。その後ろを、試合終了直前のピンチをスーパーセーブで救った東口順昭が通り過ぎていく。この日、浦和は負けたが、西川には立ち止まって振り返っている暇はない。日本代表の正GKを巡り争いは、ますます混沌としてきた。

【日本蹴球合同会社/森雅史】